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嘘のない言葉は、きっと届く

ふりかえると、全くつながりがない状態から、誰かに何かを依頼することがほぼなかったように思う。

依頼するにしても、すでに誰かが築いてくれた関係性を引き継いで「今回は私が担当します、よろしくお願いします」という感じだ。前例があるから、話もしやすい。もちろんすでにある関係性を紡ぐことも大事だけど、「のっかってるだけだよなぁ」と自分を批判的に見てしまうこともあった。

企画メシ第2回目の課題は「書籍の企画」。「人生をかけて作りたい書籍の企画を考え、著者となる人に依頼文を作成してください」というものだった。

人生をかけて作りたいのはどんな書籍だろう。

人生をかけるくらいだから、自分が最も読みたいと思う本じゃないと、作りたいと思えない。だから、自分が何を読みたいのか?から考えていき、最終的には子どもに関するテーマにすることにした。

著者として選んだのは、私のことは全く知らない人。課題だからではなく、本当に届けるとしたらどう書く?をすごく考えた。

そもそも依頼文とは何か。

私が書籍編集者として依頼を書くのだとしたら、この依頼文で、書籍作りが始まるかどうかが決まる。いくら作りたいと思っていても、著者に受け取ってもらえなかったらそこで終わり。だから、依頼文は「関係を始めるためのお手紙」だと思った。

お手紙だとしたらできるだけ丁寧に。自分がその相手だったらどう思うかと、客観的に見るようにもした。ありきたりな言葉では伝わらない。自分なりに考えた言葉も入れ込む。著者のどんなところがいいと思ってるのか、なぜこの本を作りたいと思うのか、それはどんな社会にしたいと思うからなのかを考えて、言語化することを意識した。

依頼文としてはきっと未完成だし、まだまだ改良する余地はあったと思う。でも、一つの形にする中で、すでに多くの学びを得ていた。

事前に他の企画生の依頼文に目を通したときに、読んだ瞬間に心をつかまれる内容が多く、3つ選ぶのはかなり難しかった。が、それでも選ぶ。選んだ後に、軸になっていたとわかったのは以下。

・冒頭で、著者に好意的だということが具体的なエピソードとともにわかる
・本が出た後の社会の変化に共感できる こういう社会をつくりたいと思う
・なぜその人がその本を作りたいのかという必然性が感じられる
・自分の話も入れるけど、多すぎず適度

私が書いた依頼状を読み返すと「その人のファンである」「好きである」という気持ちが、冒頭では伝わらない。読み進めたいと思うためには冒頭のつかみが大事なことに気づいた。

また、つくりたい社会についていかに共感してもらえるか。そう思っていない人に、そう思ってもらうための言葉の選び方、伝え方。むずかしい。

講義当日。最初は今野さんの書籍編集者としてのこれまでの歩み、お仕事についてお話を聞いた。

今野さん自身も仰っていたが、お話全体を通して感じたことは「自分の心に嘘をつかない」をとても大切にされているということ。書籍の重版がかかるのは2割以下で、売れることは貴重なことなのに、「自分が読みたいものを作れていないと、売れても喜べない」とお話されていた。

心のちょっとしたざわざわ、靄がかかる感じ、違和感。

これらは、自分にしかわからない。

自分にしかわからないから、ごまかすこともできる。感じてないように振る舞うこともできる。傍目から成功しているように見えれば、誰かに気づかれることもない。ごまかしているうちに、忘れてしまうかもしれない。忘れてしまうのはこわいことだなと思った。

違和感は、望む方向に向かうためのバネだ。

せっかくジャンプアップできるかもしれないのに、忘れてしまったらなかったことになる。だから、「あ、今ごまかしてるかも」と思ったそのときに、行動することが必要なのだと思った。これは仕事にかかわらず、人生のあらゆるフェーズ、できごとにおいて。

次に、企画生が作成した依頼文への講評。

「正解はないから、相手のことをよく調べる」というお話が印象に残る。

受け取ってもらえたら、その人にとっては正解。
受け取ってもらえなかったら、その人にとっては不正解。

「この型通りに書けば完璧!」なんてものはないから、誰に向けて書くのか、その相手はどういう人なのか。長文が好きなのか、なるべく手短にがいいのか、情緒面に訴えるのか、情報を羅列するだけがいいのか、その人の興味や、実現したいと思うことは何か。すでに本を出しているのか、まだ出していないかによっても変わる。

著者の数だけ、答えは無数にある。

だからこそ「ああ、私のことをよく調べて、私に向けて書いてくれたんだな」と思ってもらえたとき、依頼文を受け取ってもらえるんだなと感じた。

書籍編集者として依頼文を書くことは今後ない。
とは言えないが、現時点で書籍編集の仕事をしてるわけじゃないので、直近で機会はないだろう。

でも、この依頼文は、書籍編集にかかわらず。
誰かを誘って、2人で何かを始めるときには必要だ。新しい関係を始めるためには、依頼文の要素が重要になってくる。

「なぜ私があなたとやりたいと思うのか」という必然性。
「ともに取り組み、何を成したいのか」という希望。

これらは特に、いつも、語るようにしたい。

嘘のない、ごまかしていない言葉は、きっとその人に届く。


書籍の企画を、人生の企画へと活かしていく。



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