歯ブラシで弁当を食べる

公園で弁当を食べている。しかも歯ブラシで。
歯ブラシの柄で。

なぜこんなことになったのか。
時を戻そう。

10分前。とある人気お弁当屋に私はいた。
要予約、前日の20時にオンラインで予約した。
いそいそ、わくわく。

弁当屋の店主とは、1年ほど前に面識があり、
会うのも1年ぶり。こちらもドキドキ、わくわく。

お店に到着、1年ぶりの再会に会話。
あれこれと盛り上がり、弁当を引き取り、
お金を払う。

そして近くの公園に到着。弁当を食べるためだ。
で、引き取った弁当を見たら箸がない。

そう言えば、おしゃべりしていた時、
前のテーブルにお手拭きと(たぶん)箸があったような気がする。

お店に取りに戻ればいい。いや、でも一度終わって
しまった会話を、もう一度戻すのって、色々面倒くさい。

「お箸忘れちゃいました!」
なんて戻るのも、なんか粋じゃない。

こうなったら、今カバンの中に入っているもので
なんとかお弁当を食べればいい。
限界の挑戦、こういうことが好きで
たまにやってみたくなる。
(手ぬぐい1本で風呂に入れるか、とか
ごはんに何もなしでどこまで食べれるか、とか。
いずれも「できます」)

カバンを探るとペンケース。
ペンで食べるのはどうだろう、いや、ペン先に
ごはんつぶが入ったり、クリップのところに葉っぱが
挟まったりして、なんだかとても嫌。

歯ブラシ。
真っ白で、下ろしたばかりの歯ブラシは、
柄の部分に穴があるものの、なかなか形状として悪くない。
第一候補。

指。
公園に小さな子連れの親子が2組ほどおり、
まさか弁当を手で食べる、生成りのワンピースを着た
妙齢の人がいたら、びっくりするだろう。
ハード目オーガニック系か無添加おばさんか、
いずれにせよきつい。

というわけで、歯ブラシの柄で食べることにした。

ブラシ部分をしっかりと手で握り、隠して、
あたかも「スプーンですよ」という風味を
醸し出しながら。

つまめないし、乗せられないけど、
寄せることはできる。ごはん、
ポテトサラダは楽勝。
春巻きや唐揚げは
指先で摘んだりして口に入れた。

うまい。歯ブラシで食べてもうまいものはうまい。

ふと、弁当店の店主が「えりな」という名前だったことを
思い出し、そこから「つたえりな」という言葉を思い出す。
はて、誰だっけ?

1分ほど考えたけど、どうしても思い出せず検索。
は!区議会議員だった。なんだよ。
街で見るポスターの文字並びだけが印象に残りに、
何も覚えていなかった。

弁当を無事食べ終えたら、歯ブラシの柄は
脂でぬるぬるとしていた。

近くの公共施設のトイレで、柄を洗った。
柄の部分の穴には、ごはんつぶが詰まっていて。
洗って流した。

その後、ついでにその歯ブラシで歯を磨いた。
「ついで」に。

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