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台湾的音楽 林以樂の来日ツアーに行った話

ご無沙汰しています。新年最初の投稿ですね。

昨年11月から、台湾への渡航ができるようになり、往来が復活してきました。11月から台湾アーティストが来日してライブをするようになり、昨年の後半から、いくつかのライブを観ています。とても嬉しいです。

そして、1月11日には、林以樂(リン・イーラー)のライブがあり、行ってきました。私は何度か、noteにも林以樂のことや彼女が関係している楽曲などのことを書いています。

音楽性の幅の広さ、音楽のジャンルによってプロジェクトを変えて、いつでも私たちに新しい魅力を見せてくれるところ、それからアレンジャーとしても素敵な楽曲をたくさん生み出していること。
それらが、どれも細やかで、オシャレ。なんだか美しい織物を見ているような、そんな気持ちにさせてくれる音楽を数多く発表しています。

音楽の幅広さから言えば、シティポップからシューゲイザーまで。それだけではなく、ポップバラードも歌うしアレンジもする。この人は、どんな環境で、どんな音楽を聴いて育ったのだろう…といつも思いながら聴いています。

さて、今回の来日ライブは、東京だけではなく福井県など地方も回っていました。私が行ったのは、東京ライブの初日。(初日とラストが東京公演)

何よりも驚いたのは、初日の会場とシステム。
場所は、曳舟文化センター。ライブは、なんと投げ銭制。入場無料で、お代は見た人が決めてね、というシステム。
このライブが、とても良くて、本当に感動的な夜でした。

会場の曳舟文化会館。いわゆる市民ホールで、1000人くらいを収容する場所。ここで台湾インディーズアーティストのライブをするのに、少し驚きましたが、行ってみたら会場は満員御礼。そして、地元の人たちがたくさん来ていて、とてもアットホームな雰囲気でした。

物販でずっと欲しかった、彼女のバンド「雀斑」の名盤CDゲットしました。

東京スカイツリーのお膝元の曳舟エリア、最近はコーヒーショップやカフェなど、ちょっとこだわりのある若い人たちがお店を開いているなど、注目エリアのひとつです。もちろん、若い人たちもいますが、昔からのお店をやっているお年寄りもいて。
会場のお客さんの層も、新旧入り混じった町の雰囲気を体現しているようでしたし、会場はとても穏やかで朗らかでした。

今回のライブは曳舟エリアのお店でポスターを貼り出したり、整理券を配ったり…と街中でプロモーションをしていたようです。
たいていの台湾インディーズアーティストのライブは、渋谷などでキャパ500人くらいの会場で、音楽マニアや台湾音楽関係の方がいる、というパターンが多いので、本当に会場の雰囲気と客層に驚きました。

そんなわけで、台湾音楽を聴くのが初めての方も多いのかなという印象のライブ会場、どんな客層にも対応できるくらいの音楽の幅を持つ彼女だからこそ出来る、セットリストとパフォーマンスのライブでした。

撮影OKでした。こちらは、第3部のバンドセットの一コマ

基本的には、ポップ系の曲を中心に構成。最初は、彼女がアコースティックギターを手に持って、1人で登場。

シティポップ系のバンド「雀斑」(Freckles)時代の楽曲や、ソロ楽曲でもポップ系の楽曲をセレクト。
彼女自身の歌声が、とても可愛らしく、アコギの音色と歌声が相まって、とても気持ちが良く、温かい飲み物を飲んだときに、体が少し温まるような、あの感じがとてもありました。

私は、「雀斑」(Freckles)の楽曲を聴いて、彼女のことを知ったのですが、その時に歌声が日本のアーティストYUKIさんを彷彿とさせるなぁという印象を持ちました。林以樂の歌声も、少女のような可愛さと、歌い上げる時の声の広がりにハッとさせられるくらいの美しさがあり、とても素敵だと思っています。

彼女はおそらく、30代後半くらいの年代。この年代のおじいさん、おばあさんに当たる世代は、日本統治時代を経験しているので、孫世代の彼らは、少しだけ日本語を話すことが出来ることもあります。
林以樂もそのひとり。MCでも、日本語を少し話ながら、簡単な英語も交えて語りかけてくれました。

彼女のおじいさんは、95歳。日本語の先生でもあると言っていました。会場内の年齢層の高い方たちは、日本と台湾の関係を知っていますので、深く頷いているように感じました。

アコースティックバージョン。動画からスクショしているので、見づらくでごめんなさい。こちらも撮影OKでした。

第2部は、日本のアーティスト「図書館」のステージ。
「ハンバート ハンバート」などが好きな方にも、とても聴いて頂きたいなと思うような、美しく柔らかな音色が魅力のバンドが音楽を披露。こちらも初めて聴いた方でも、その音楽に耳を傾けて、心地よく鳴れる、とても素敵な時間でした。

第2部を挟んで、第3部では再び、林以樂が登場。
バンドセットで登場し、最初のアコースティックよりも華やな雰囲気になりました。

第2部の様子。ホールならではの照明や舞台の奥行がとても良かったです。

ここで披露した曲のひとつが、「奶奶」(日本語の意味:おばあちゃん)。
この曲は、Waa Weiという、台湾のシンガーソングライターであり、女優もして執筆もするなど、マルチに活躍する人気アーティストの楽曲に、彼女がアレンジャーとして参加したものです。

この曲、実は歌い出しが、日本の童謡「桃太郎」なんです。
この曲の歌い出しを耳にして、会場がどよめいたのが、とても印象的でした。

「奶奶」は、Waa Weiが彼女のおばあちゃんとの思い出(いまもご存命のようです)を歌にしたもの。Waa Weiは、30代後半から40代前半くらいの年齢。おばあちゃんは、日本統治時代の台湾で育った、日本語教育世代なので、「桃太郎」を歌っていたようです。

林以樂はMCで、この曲を歌う前に、"つぎに演奏する曲は、女性の引き継がれていく物語のような感じ"といったニュアンスを話してくれました。

Waa Weiは、おばあちゃんに育てられ、日本語と台湾華語で会話をしていたそうです。そして、おばあちゃんは、子どもに聞かれたなくない話は、客家語でしていたそうです。(だからこの曲も、日本語、台湾華語、客家語が出てくる。)

私は、この曲がとても好きで、noteでも紹介していましたが、初めて生で歌を聴いて、涙が出てきてしましました。日本と台湾で共通して歌い継がれている歌があり、それが新しい形でアレンジをされて、愛されているということと共に、おばあちゃんとの思い出が、自分の祖母とも重なり。優しいメロディも、心を柔らかくしてくれました。

決して、統治時代が良いということではなく、日本と台湾を繋げる曲があるという面で、なんだか、とても胸に迫るものがありました。

個人的には、「トイレの神様」的な曲だなぁと思っています。(あの曲でも号泣しています…笑)

さて、ライブのラストは、吉田美奈子さんらも歌っている「夢で逢えたら」でした。これを台湾華語で歌ってくれましたが、やっぱり楽曲が良いものは何語でも本当に良い。歌のチカラが凄いなぁと改めて感じました。
メロディーのロマンチックかつ、ドラマチックに展開していく感じが、彼女の可愛らしくも美しい歌声にも、とてもマッチしていました。

そしてアンコールではなんと、日本語で「夢で逢えたら」を歌ってくれて、"一緒に歌おう"という感じで、林以樂と共に口ずさむ、とても素敵な時間を共有しました。

彼女のことを良く知っている人も、初めて台湾のインディーズポップスに触れた人も関係なく、ただ単に目の前にある美しい音楽に身を委ねて、手拍子を打ったり、笑顔で手を振ったり…。
「音楽を楽しむ」ということの根本を見せてもらったように感じましたし、音楽はみんなで楽しむものなのだ、ということを実感しました。

セットリストにしても、演出にしても、きっとこの場所にマッチして、かつお客さんに楽しんでもらうために、練りに練ったものだと思います。そんな出演サイドの想いに、観客ひとりひとりが応えているような、素敵な夜でした。

チケットではなく、「整理券」なんです。

オープンプライスで、お客さんが金額を決めるのは難しいところもあるかもしれません。でも、いまはお金は無くても、新しいものに触れたいと思う人たちもいますし、もしかしたら少しの金額で見たもので、何かが変わるかもしれないし、長い目で見たら、それで世の中が良くなるかもしれない。お金があるときには、無い時の借りを返すマインドで、しっかり払えばいいと、私は思っています。(とはいえ、運営にもアーティストも収益はちゃんと出て欲しいと、切に願います!)

お金がある人や、イベントを実行するために、いくらくらいかかるのか?を想像出来る人は、シッカリ払うのは大事だと思うし、イベントを企画していくためには、どのくらいの費用と労苦がかかるのか?ということを想像する機会が、もっと出来ると良いなと個人的には思います。

あるときにはシッカリ払う、お互いさま的な精神と、イベントの企画や立案にどれだけの労苦があるのかを想像することが根付くと、楽しいイベントもたくさんできるのかなぁと思いながら帰りました。
(好きだからやってるわけで、儲けはいらないでしょ?的な考えは、私はちょっと…。)

音楽カルチャーをもっとたくさんの人に知ってもらいたい、と言うことに対して、たくさん考えながらも、ライブの感動に浸り、心がホクホクする夜でした。

この話は、Podcastでもお話をしています。ほぼ同じ話ですが。
『耳から始まる台湾トリップ 你你好好』という、台湾カルチャー紹介番組を、Spotify Podcastで独占配信しております。もしよろしければ、こちらも聴いて頂けると、とても嬉しいです。

その他、台湾音楽については、こちらのマガジンでご紹介しています。無料です。「いいね」やフォローをしていただけると嬉しいです。



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