ばあちゃんが倒れた

ばあちゃんが倒れた。
スーファミとドラクエとかまいたちの夜を入学祝いに買ってくれたばあちゃんだ。


東京大空襲を生き延びて、故郷から遠く離れた地で嫁に行き、夫に若くして先立たれ、小さな居酒屋を開き、母と叔母を女手一つで育てた。ばあちゃんの焼きおにぎりとぬか漬けは私が幼い頃からずっと変わらない味だった。

ばあちゃんの家に行くと、いつもお菓子やアイスや好きな料理が並んでいた。だけど一番楽しかったのはばあちゃんが読んだ沢山の小説を借りて、その感想を話し合う事だった。

モーリス・ルブラン、横溝正史、松本清張、池波正太郎、藤沢周平…他にもたくさん。

時代小説や推理小説の面白さはばあちゃんに教えてもらった。

ばあちゃんはテレビもよく見るし、感性が若くてジャニーズや俳優に詳しかった。

ばあちゃんはずっーとばあちゃんだと愚かな私は漠然と考えていた。

そして、私は社会人になり、家族を持ち、仕事や日々の忙しさにかまけて、ばあちゃんと数年に一度会うか会わないかというくらいに疎遠になった。

ある日オカンから電話があった。

ばあちゃんが倒れた。

ばあちゃんは土間で倒れていた。4時間も。オカンが見に行かなければ死んでたかもしれない。

今は施設にいる。

だけど新型コロナウィルスのせいで面会すら出来ないのだ。

最後に会ったのは、去年、6歳になった息子を連れて行った時。

1歳の時に会ったきりの、大きくなった曽孫に会えて嬉しそうに笑うばあちゃんは、こんなに小さかっただろうか。

もっともっと会いに行けばよかった。

もう会えないかも知れない。

私は大馬鹿だ。

物語に終わりがあるように、全ては永遠に続く事はないのに。

陰陽師の最新刊の感想を伝えたかった。

だからもう少しだけ。

もう少しだけ待ってくれよ。

ばあちゃん。







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