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漫画やアニメ、デザイン、写真が好きな人に観てもらいたい異色の水墨画展【篁牛人(たかむら ぎゅうじん)展】

六本木一丁目駅から泉ガーデン方面へ抜けると、目に入るのはスウェーデン大使館。サーモンピンクの建物が映える大使館前を虎ノ門方面へ歩くと、右手に中国風建築が見える。ここが大倉集古館。中国式建築なのにアーチや卍の窓といった西洋、日本の建築様式を取り入れているのが面白い。それもそのはず、大倉集古館の設計者は伊東忠太。あの築地本願寺をデザインした名建築家だ。

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日本初の私立美術館で、国の登録有形文化財でもあるこの美術館。2022年1月10日(月・祝)まで行われているのは、「生誕120年記念 篁牛人(たかむら ぎゅうじん)展」だ。異色の水墨画家である篁は、渇いた筆などで麻紙に擦り込むように墨を定着させる「渇筆」という技法で独自の世界を築いた。

細い線で描かれた人物画は、とても漫画チック。登場人物は目の奥まで精気が宿り、子どもが見せるようなハッとした表情を上手く絵の中に閉じ込めている。一方、刷毛や太めの筆で描かれた龍、馬、樹木は、今にも画角から飛び出しそうなアニメーション的な躍動感がある。篁の水墨画は観る者の心を自由にするが、決して勢いで描かれてはいない。豪快な筆致の背景と均質な線で描く人物とのバランス、そして収まりの良い構図は、卓越した技術力の賜物といえるだろう。漫画やアニメ好きだけでなく、デザインに興味のある人にも観てもらいたい。

構図やアングルにこだわるのは、何も漫画家やアニメーターだけでない。写真家も同様だ。篁と共通点のあるカメラマンがいる。ユージーン・スミスだ。

ユージーンの写真も篁の水墨画も、モノクロ作品なのに白と黒のメリハリがあるため奥行きを感じる。彼の写真は、光を際立たせたい印画紙の部分に薬品をつけて定着液に沈める。全体を暗くして、白くしたい部分を強調することでコントラストをつけるのだ。一方、篁の水墨画は、暗くしたい場所に徹底して墨を擦り込む。よって墨が強めに塗布された部分は、麻紙が縒れていたり、紙の繊維が束になっていたりする。

作品の陰翳を鮮烈にする篁の「渇筆」画法。ユージーンの制作過程を明かした公開中の映画『ジャズ・ロフト』と一緒に観ると、他ジャンルの達人同士のこだわりを体感できそうだ。


この原稿はあるホテルのWebサイト&メールマガジンにて2021年12月中旬に公開予定でしたが、配信が飛んでしまった11月掲載号のコラムを12月に掲載するため、残念ながらお蔵入りとなりました。依頼元の関係者の方々より公開の許可を得て、noteに掲載しました。


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