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2022年に読んで良かった10冊

2022年に「読んだ」と言える本は50冊くらい。

年末に「読んで良かった10冊」を書きはじめた2年前にはほとんど想像もしていなかったことだけど、書籍の編集者になってしまった。

「読んで良かった10冊」なんて書きづらい気もする。でも気にしないで、今年も書く。

今年の秋に、初めてフヅクエという読書専門のカフェ(ブックカフェじゃなくて「読書」をする専門の場所)に行った。
そのフヅクエを営む阿久津隆さんがご著書に、読書をする姿は「祈る姿」のようだと書いていた。ちょっと顔を下に傾けて、じっと。時折手が動く。

それを読んでから思うのだけど、読書は椅子に座るよりも床の上の方がはかどる気がしませんか? というか、床の上でいいんだ、って思うようになった。

きっと子どものころ読書に没頭してたときは、椅子に座って机にひじをのせて、なんていい姿勢で読んでなかったんだと思う。
床にあぐらをかいて、脚の空間に本を載せて。
これはたしかに、祈りとか座禅みたいな姿勢だ。

2022年に読んで良かった10冊

2022年に読んで良かった10冊。

毎年「読んで良かった」を定義しているけど、だいたい変わらない。

世界のものの見方を変えてくれた、
読んでいるあいだのめりこんでいた、
読み終えても心に残り続ける、

そんな感じ。

「2021年版」にはこう書いていた。

・ページターナー(ページを次々めくってしまうほど面白い)
・難しいけれど、知的好奇心を満たされる
・記憶や心に残る、狂おしいほどの余韻
・新たな視点で世界を見られる、世界のことを知る
・実践的、現実的に役に立つ

2020年版」にはこう分類していて、あまり変わっていない。
 ・新しい考え方を知って自分に残った本
 ・知識として新しい世界を知れた本
 ・心を揺さぶってくれた本・余韻が続いた本

本が好きなのと、読書が好きなのはやはり違う。
本というコンテンツももちろん好きだ。
だけど、知的好奇心にせよ、感動にせよ、エンターテイメント性にせよ、やっぱり読んでいる時間そのものに心からの喜びを与えてくれる読書という行為が好きなのだ。
だから読んでよかった、読めてよかったと思うのだと思う。

2021年に読んでよかった10冊

(今の自分の語彙力が落ちている気がした。。)

今年は「読んだ」といえる本はそんなに多くない。その50冊の中から選んでみた。選んでみたらビジネス書がぜんぜんなかった。まぁいっか。

①わたしの源氏物語(瀬戸内寂聴)

源氏物語の書き出しを覚えているだろうか。

いづれの御時(おほむとき)にか、女御(にょうご)更衣(かうい)あまたさぶらいたまひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。

(現代語訳)いつの時代のことでしたでしょうか。帝のおおぜいの妻たちのなかに、それほど身分が高くはないのに、ひときわ、帝から愛されている女性がいました。

源氏物語(紫式部) | おはなしのくにクラシック - NHK

古本屋でふと気になってしまった500ページ。
現代語訳版でもない、正確には解説文でもない。
たぶん瀬戸内寂聴さんが思い入れのあるところだけを抜きだし、主人公たちの心の揺れ動きを原文で使われている言葉とともに解説したり、執筆者である紫式部の性格や心情を想像したりして、光源氏の生まれから絶頂期とその後までを書き尽くしている。

そんな解説本みたいなのに、うまーく続きが気になるように書いてある。久しぶりに時間を忘れて読みふけってしまった。『源氏物語』を全部読んだことはないけれど、大筋が頭に入ったのでトライしてみたくなった。
日本語って美しい。

②「本当の自分」がわかる心理学(シュテファニー・シュタール)

ちょっとあやしいタイトルだけど、人間のカウンセラーより寄り添ってくれるいい本です。ドイツの心理学者が書いて、ドイツAmazonで1万件の評価がついて星4.7、と高く評価されているそうな。

生きづらさの原因を、発達障害とか繊細さんとかってラベリングする本が流行っているけれど、その原因を自分、とくに子ども時代の自分にあると言い切っている。どんな親も完璧ではないし、どんな人に円満で幸せな家庭で育った人も何かしらの傷を負っている。だから自分がどんな傷を負っていて、どう今の自分に影響していて、どう対処したらいいのかを教えてくれています。

けっこう人生に悩んだタイミングで、週末を2-3回かけてまじめに中のワークをやってみた。嘘くさいけど人生変わると言いたい。ちゃんと生きやすくなった初めての本。ありたい自分に近づける時間の使い方ができるようになった。

③アルケミスト(パウロ・コエーリョ)

言わずと知れた名作。浦和の蔦屋書店で『星の王子さま』と並んで置かれていて、そうだよねと思った。ファンタジー調だけど子どもより大人が読むとより響く。
数年ぶりに読み返して、やっぱりよかったので置きました。

④暇と退屈の倫理学(國分功一郎)

全然自分が興味ない他人の趣味(スパルタンレースとか編み物とかあらゆる動画コンテンツ)とか、仕事でわざわざ苦労している人、働かなくていい年齢になっても仕事をしている人の話とかを聞くと、この言葉を思い出す。

人生は壮大な暇つぶしである。

そして、自分の趣味とか自分の仕事も、他人から見たら暇つぶしにしかすぎないのだと思い出す。

これを言ったのは誰だったんだろう。

「本って1行で済むことをかさ増しして300ページにして、結論まで持っていっているんじゃないの」と聞くと悲しくなる。
この本と結論は1行だけど、結論に行き着くまでのプロセスが楽しい本はこういう本のことだと思う。

大真面目に暇と退屈について論じていて、暇と退屈の系譜学、暇と退屈の人間学、暇と退屈の哲学、そういった目次が並んでいる。

お風呂で読んでよれよれになった。

⑤サンガジャパンプラス Vol.1-なぜ今、仏教なのか

今年仏教に「出会った」本。
伊藤亜紗さん、藤田一照さん、横田南嶺老師、武井浩三さん、その他仏教や禅にまつわる方の考え方や、仏教との出会い方を知った。
仕事でことあるごとに立ち返って読み直したりしたので「10冊」に入れました。

⑥読みたいことを、書けばいい(田中泰延)

さらりと読める。でもさらりとは書いてない。と思う。

この本で学んだことは2つある。

1つは、伝えたいことを書くときに、自分のことだけ書けばいいというものではないという点。

随筆とは、結局最後には心象を述べる著述形式だということは述べた。しかしそのためには、事象を提示して興味を持ってもらわなければならない。事象とは、つねに人間の外部にあるものであり、心象を語るためには事象の強度が不可欠なのだ。

「わたしピーマン嫌い」「あなたピーマン嫌い?」ではなくて、第三者の話をする。「ピーマンってピラジンっていう苦味成分が含まれていてそのせいで苦いらしいよ」とか。そのためには調べたこと99%、自分のことは1%以下で述べる。


もう1つはタイトルの通り。

自分が読みたいことを書けば、自分が楽しい。

ごくシンプル。だから自分がどういうコンテンツをつくりたいか、何を書きたいか、考えるときに思い出しやすい。

発信するうえで「オープン日報」というフォーマットにたどり着けたのもこの発想のおかげだと思う。誰にも読まれなくても、好きだから書き続けられる。(いや、毎日読んでくれる人が1人でもいるから書き続けられるのが正直なところだけど。)

対象を愛すること。相手の役に立ちたいと願うこと。それはプロフェッショナルに必要な基本的資質である。

85ページ

「ターゲット層にバズりたい」「たくさん読まれたい」「ライターとして有名になりたい」という思い違いを捨て、まず、書いた文章を自分がおもしろいと思えれば幸せだと気がつくべきだ。(それを徹底することで、逆に読まれるチャンスが生まれる。)

110-111ページ

評価の奴隷になった時点で、書くことがいやになってしまう。 他人の人生を生きてはいけない。だれも代わりに書いてくれない。あなたの人生を生きる方法のひとつが「書く」ということなのだ。

115ページ

だからこの本自体も堅苦しくなくユーモラスに書いてあって読みやすい。それが著者の「読みたい」ものなんだとわかる。

⑦野心のすすめ(林真理子)

当時の上司に転職の報告をしたら、2時間半お説教されたうえで、この本を薦められた(言われたことはぜんぶ糧にしてるし感謝してる)。

読んでみたけどなんで薦められたのかわからない。「あんたなんて承認欲求のかたまりだ」と言われてるようで、なんか悔しい。悔しがってること自体、野心なのかもしれない。
不器用にもがいてる感じを客観視してみろ、ってことなのか、いつか大物になるんじゃないっていう応援なのか(たぶんちがう)、意図はほんとにわからなかった。

でもなんかよかった。読み終えてからも何度か手に取ってしまうほど。
悔しいけど、薦めてくれてありがとうございました。

⑧村上T(村上春樹)

村上さんはTシャツがお好き。どんどん集まってしまうそうです。Tシャツの写真とそれらにまつわるエッセイ集。1ページ1T。あー好き。

うちではハンガーラックの下に置いてインテリアと化している。

⑨蟹工船・党生活者(小林多喜二)

書くことが「非国民」であり、29歳の若者が拷問死させられたのはほんの90年前の日本。

極寒の船の中で奴隷のように働かされる、薄汚れた男たちの姿がありありと浮かぶ。読んでいて、ノンフィクションなのか物語なのかもわからないくらい描写も書きぶりも目で見たそのまま伝わってくるようだが、実際に日本ではこのようなことが横行していた。

読み終えて、作者が29歳で死んだと知った。

警察が発表した死因は心臓麻痺。母親は多喜二の身体に抱きすがった。「嗚呼、痛ましい…よくも人の大事な息子を、こんなになぶり殺しにできたもんだ」。そして傷痕を撫でさすりながら「どこがせつなかった?どこがせつなかった?」と泣いた。やがて涙は慟哭となった。「それ、もう一度立たねか、みんなのためもう一度立たねか!」。

特高の多喜二への憎しみは凄まじく、彼の葬式に参列した者を式場で逮捕する徹底ぶりだった。

小林多喜二の生涯

胸がいっぱいになってしまう。

⑩ネガティブ・ケイパビリティ(帚木蓬生)

本としてはうーんというところもあるけれど、概念を知ってラクになった。友人に教えたら、どささりしていた。その子の彼氏にもどささりしていた。今までの自分を肯定できたようで、間接的に「教えてくれてありがとう」と言われた。うれしい。

「読んで良かった」というより、「しゃべって良かった」本です。

まとめ

1.わたしの源氏物語(瀬戸内寂聴)
2. 「本当の自分」がわかる心理学(シュテファニー・シュタール)
3. アルケミスト(パウロ・コエーリョ)
4.  暇と退屈の倫理学(國分功一郎)
5. なぜ今、仏教なのか(サンガ新社編集部 編集)
6. 野心のすすめ(林真理子)
7. 読みたいことを、書けばいい(田中泰延)
8. 村上T 僕の愛したTシャツたち(村上春樹)
9. 蟹工船(小林多喜二)
10. ネガティブ・ケイパビリティ(帚木蓬生)

そして過去2年の「読んで良かった10冊」を読み直してみたら、いい本読んでたなぁと既に全部読み直してみたくなっている。

1. アルジャーノンに花束を(ダニエル・キイス)
2. 深夜特急(1〜6)(沢木耕太郎)
3. フェルマーの最終定理(サイモン・シン)
4. 月と六ペンス(サマセット・モーム)
5. insight (インサイト)――いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力(ターシャ・ユーリック)
6. 田舎のパン屋が見つけた腐る経済 (渡邉格)
7. キッチン (よしもとばなな)
8. スマホ脳(アンデシュ・ハンセン)
9. 風立ちぬ・美しい村 (堀辰雄)
10. 向田邦子ベストエッセイ(向田和子 編)

1. ウニヒピリのおしゃべり(吉本ばなな・平良アイリーン)
2. 芸術は爆発だ! 岡本太郎痛快語録(岡本敏子)
3. 人類史上最大の発見 (ジョセフ・マーフィー)
4. 決定版AI 人工知能(樋口 晋也、城塚 音也)
5. 脳の強化書(加藤俊徳)
6. ベラルーシの林檎(岸恵子)
7. 車輪の下(ヘルマン・ヘッセ)
8. 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(村上春樹)
9. 異邦人(カミュ)
10. 博士の愛した数式(小川洋子)

余談

2021年にけっこう影響を受けた本が、「2021年の10冊」に入ってないことに気づいた。これです。

タイトルからしてわりとばかにしてたけど、バングラデシュにいたときに暇すぎてワークをまじめにやってみた。そしたら、編集者いいかもしれないという結論になった。それで今に至る。だから今となっては感謝してる。
「2021年の10冊」を書いたときにはまだ編集者に本当になるかなんてわからなかったけど、今思うと影響を受けたし、結果すごくいい方に転んでいる。
「読んで良かった本」は結局、実用性はまったく考慮されてないですね。

2023年

120冊読んだ去年の方が、いい本にたくさん巡り合っていた気がする。やり方は考え中だけど、また自分でガイドをある程度作っていい本にもっと巡り会いたいと思う。

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