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選挙戦の振り返り - 「静かで丁寧な選挙」という試みについて

 ほづみです。今後は政治家として活動していくわけですが、その前に今回の選挙について振り返っておきたいと思います。というのも、今回の選挙においては選挙のあり方が問われた部分もあったためです。

 これはたまたま支援者の方が気付いて教えてくれたのですが、4/26にアベプラで「選挙活動アプデ」という特集があり、わたしの名前が映っていたようでした。

https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p4714

 また、Yahoo!ニュースでも取り上げられておりました。

選挙カーから「音出しません!」 静かさアピール奏功?当選者多数「選挙は大きく様変わりするかも」

 これらに書いてあるとおり、わたしは選挙カー、マイクは一切使わず選挙戦を行い、幸いにして当選をいただくことができました。また、無所属新人ながら、12/30位という順位での当選でした。

中央区議会議員選挙(令和5年4月23日 執行)

 わたしの選挙戦は一般的な選挙戦略とは大きくかけ離れているものの、わたしながらに思うところがあっての戦略であり、その詳細や意図について書いておくことはそっくりそのまま使うことはできないまでも、今後の誰か挑戦に多少なりとも役立つのではと思い、書き記しておきます。

ほづみの選挙戦について

 まずはどういった選挙戦であったのかについて書いておきます。ざっくりまとめるとこんな感じです。

・選挙カーは一切使いません
・マイクも一切使いません
・選挙ハガキ出しません
・延々とビラを配ります

 まず、選挙カーとマイクは一切使いませんでした。選挙カーについては最初から利用するつもりはなかったので契約なども一切してません。マイクについては一応買ってみたのですが結局一度も使うことはありませんでした。

 選挙ハガキも出しませんでした。選挙ハガキというのは公費負担で選挙区の住民に対してハガキを送ることができる仕組み。これも結局使いませんでした。

 一方で何をやっていたかというと、選挙期間中は延々と街頭でビラを配っていました。わたしの選挙区である中央区では4000枚のビラを選挙期間中に配ることができます。ほぼ1日中どこかしらの街頭に立って、ボランティアスタッフの方とともにビラを配るという活動を続けていました。

 単に配るだけというわけではもちろんなくて、その場で一言声掛けをして、反応がある方に対しては政策の中身だったりわたしの自己紹介をしたりといったコミュニケーションは行っていました(むしろこっちを行うためのビラ配りであります)。

 わたしの選挙活動というのは実にシンプルで、これだけでした。

 こんな選挙戦について、ある支援者の方が 「静かで丁寧な選挙」という名前をつけてくれました。それ以来、気に入ってこの名前を使ってます。

「静かで丁寧な選挙」の意図について

 こんな選挙戦をやろうとしていますと言うと、わざわざ不利なことをやって正気かと言われることは多々ありました。しかし、まず前提としてわたしとしてはあくまでこれは「中央区」という場所における選挙戦において、最大限得票数を伸ばすためにはどうすれば良いかを考慮した上での判断でした。いわゆる「縛りプレイ」のつもりは一切ありません。大きく4つに整理してみます。

① 区民の年代と志向

 まず、区民の皆さんの志向の部分です。中央区は全国平均よりも年代的にも若く、より合理的な物事の考え方をする人が多いという印象です。そんな方々が「名前をよく聞く人に投票する」「なんとなく耳障りの良いことを言ってる人に投票する」などという投票行動をする割合は決して多くなく、しっかり自分の頭で考えて投票先を考える人の方が多いだろうというのがわたしの考えです。これは、わたし自身もいち有権者としての感覚でもあります。

 この前提に立つとき、選挙カーでの名前の連呼もマイクを使っての街頭演説も認知度向上という点ではどうあれ、票を得る手段としてはあまり意味があるもののようには思えませんでした

 そして、候補者が行うべきは「候補者の存在を伝えること」、有権者自身が検討するために「候補者の考えをまとめた資料を提供すること」、そして何らかの疑問・質問が出た際に「直接での対話の機会を設けること」の3点ではないかと考えました。

 このように考えたときにもっとも最適であろうと思い至ったのが街頭で延々とビラを配るという手法でした。そして、それ以外の要素はプラスになるどころか、むしろお金と人手がかかるにもかかわらずマイナスになりかねないことから一切行いませんでした。

② 場所の特性

 次に、「中央区」という場所の特性です。中央区は正直そこまで広くありませんし、人口も密集しています。人通りの多い場所は区内で数えるほどであって、戸建てが多く1つ1つの家が離れているような地方とは大きく事情が異なっています。

 わたしは新人候補でありネット上はともかく現実での知名度は低いことから、いかに知名度を上げるかが課題でした。選挙期間前の政治活動もほぼやっていなかったからこそ、なおさらです。

 この条件の下で認知度を高めるための確実な手段は、人通りの多いスポットにできる限り長い時間露出することです。この点からすると、選挙カーを走らせる場合には1箇所にとどまるということができませんのでイマイチです(あれは広く薄く認知を高めるための手段です)。また、マイクでの街頭演説をやると短期間に注目を浴びることはできますが、人気スポットとなると多くの候補者の順番待ちが発生することになるので、やはりずっととどまることはできません。

 他方、わたしの場合は音も出さないしそれほどたくさんスタッフがいるわけでもなくて他の候補の邪魔になることもないことから(少なくとも退けとは1度も言われなかった)、人気スポットに長時間居座るということができました。日によっては、ほぼ丸1日同じ場所にいたこともありました。このようなことが可能だったのは、このスタイルであったからこそです。

 ちなみに、同じ場所に他の候補が来て演説などをやりたい雰囲気であればご自由にどうぞ(ただし、近くでビラ配りはやらせてね)、というスタンスでした。

③ 選挙カー自体への批判

 3つめは選挙カー自体への批判への対応からです。選挙カーは決してイメージの良いものでもありません。選挙期間中にTwitterなどで山ほど言われていたように、選挙カーに対する悪評は根強いです。

 さらに、前回の選挙があった4年前と大きく異なっているのはリモートワークの浸透です。これまでであれば多くの現役世代は出勤しているのでいかに騒がしかろうが自宅にはいないことの方が多かったでしょうが、近年のリモートワークの浸透によって少なくない現役世代は自宅に残っています。そうすると、集中して作業を行っているときやリモート会議の最中にやかましい音が流れてきて遮られるというケースが起こり得ます。

 このようなネガティブなイメージを持つ選挙カーであるからこそ、それを使わないという選択肢を取る人はそれだけでポジティブなイメージを得られることになります。したがって、候補者としては利用することの効果と利用しないことの効果を比較して選択をする必要があります。

 わたしとしては1,2に挙げたように単純に利用する効果の面であまり価値を見いだせなかったということ、そして何より多額のコストがかかるということから利用しないことを選びました。 

④ 他の候補との差別化

 3点目とも関連しますが、最後に他の候補との差別化という点です。区議会議員の選挙は何十名という候補者の中から選んでもらうという勝負です。中央区は小規模であるとはいえ、それでも今回の選挙では41人の候補者が出ていましたので、有権者はこの中から1人を選ぶということになります。

41人のポスター

 すべての有権者の方が1人1人の政策や経歴をじっくり見てくれるわけではありません。このたくさんある中でちゃんと存在を認知され、さらには投票してもらうためにはパッと見ての他の候補との差別化がされる要素が必要です。

 この点からすると、選挙カーを使わないというのは大きな差別化ポイントでした。したがって、この点はポスターや選挙広報ではしっかりとアピールしておりました。

ポスター
選挙公報

 ついでではありますが、今回は「#AR選挙カー」というネタをぶっこんでみました。これは、選挙カーを使ってないよという点とわたし自身がデジタルに強いよという点の相乗効果を狙った発信です。

んじゃ、このやり方をすれば勝てるのか?

 これまで、わたしの選挙戦、「静かで丁寧な選挙」についてどのような意図で行っていたのかについて書いてきました。ただ、多くの人に関心があるのはそんな話ではなくて再現性があるのかという点ではないでしょうか。すなわち、これから立候補をしようとした人が、このような選挙を行えば勝つことができるのかという点。

 「そんなわけねぇ!」というのがまず言っておきたいところ。

中身がもっとも大事

 まず、どのように選挙戦を戦うのかというのは言うまでもなくメインの話ではありません。あくまで中心に据えられるべきなのは、その自治体に現状でどのような課題があって、それをどう変えていきたいのかというビジョンの部分でしょう。その中で、選挙戦をどのように戦うのかというのはメインディッシュの脇の小鉢程度の話であって、それだけで勝てるというほど甘い話ではありません。

 わたしとしても、いわゆる街頭活動のようなことは本当に直前まで行っていなかったものの、Web上での発信は6年以上続けていました。それも、単に形だけ発信しているというものではあまり意味がありません。更新の頻度というよりは、ターゲットとする層の人たちが「知らなかった!」「良くぞ言ってくれた!」と言われるような刺さる発信を行うことが重要でしょう。

 これを定量化することは難しいですが、1つの指標として選挙戦の後半からは街頭で活動している際に直接お声掛けいただいた応援の声をカウントしていました。「いつもTwitter見てます」や「XXXXの発信、役に立ちました」、「さっき投票してきました」といったようなポジティブなメッセージです。平日でだいたい15-16件、最終日であった土曜日には26件の声をいただくことができました。

 位置情報をWeb上に公開していたということもあり、わざわざそれを見てお越しいただいたような方もおられて大変励みになりました。これらの多くはこれまでのWeb上での発信を見ていただいた方が大半でした。

選挙の場所による

 もう1つは自治体の地理的、人口的なサイズによるということ。選挙戦の意図の箇所でも書きましたが、中央区はそれほど大きな自治体ではありませんし、人口がある程度密集しています。さらに、平均年齢も41歳程度と東京23区の中でも若い自治体です。

 地理的に広く、人口が散らばっているのであればその自治体の住民に対して直接声を届けていくためには車の機動力、スピーカーの拡散力の有効性が増すことになるでしょう。また、年齢層が全体的に高いのであれば、ネット上の発信を見てくれる割合は決して多くありません。

 人口が多いということは当選のために必要となる票数も増えるということであり、この点でも課題があります。というのも、選挙期間中に配ることのできるビラの枚数は選挙によって決まっていて(一般的な市区では4000枚)、自治体の人口規模では特に変わらないためです。

https://vonnector.jp/bible/473/

 ビラ4000枚を全て配り切るとして、中央区であればその内の1000票程度が表を入れてくれれば良いのですが、他方でたとえば人口の多い世田谷区であれば最下位当選の方でも3621票を取る必要があります。

https://www.tokyo-np.co.jp/local23/result/P13012

 もちろん、ビラを渡した人が全て投票に行ってくれる保証もなければ、自分に投票してくれるとも限りません。このように考えると、世田谷区など人口の多い自治体での戦略としてははっきり言って不向きでしょう。多少薄くなろうとも、より広く認知を高めるという手段を取らざるを得ないと考えます。

最後に

 今回はわたしの選挙戦、「静かな丁寧な選挙」についてどのような意図でもってこのような選挙戦を行ってきたのか、そしてそれが他にも転用できそうなのかという点についても考察してみました。

 すでに書いているとおり、あくまでこれらの戦略は中央区という場所において有効であると考えた結果であって、それをそっくりそのまま他の自治体に持っていってうまく行くというものではありません。そして、選挙カーを使わないということはあくまで一部の要素でしかなく、あくまでその自治体に対して何をやりたいのかという部分こそが肝です(「新しい選挙のあり方」として取り上げられることはありがたいものの、それを全然違う土壌でやって失敗しても責任取れないのでこの点は強調しておきたいところ)。


 ただし、前々からこれは書いているところですが、今の選挙が非常に参入障壁が高くてそれが政治家の多様性を歪めているという課題意識はあり、そのための実証実験という意味合いもありました。うまく行きそうな部分はぜひ参考にしていただけたら嬉しいです。また、今回は選挙戦の部分だけでしたので、その前の準備の部分(仕事は辞めない、街頭活動はほぼやらない、政党に所属しない等)の意図や思いの記事については別途書きます。

 

 最後にお伝えしておきたいことは、中央区民の皆さんはよくぞこのような変なやつをよくぞ選んでいただいた、という感謝です。こんな地味な活動しかしていなくて本当に大丈夫なのか?とご心配をおかけした部分は正直あったかと思います。そんな不安な中で投票いただいた1643名の方がおられたからこそ、今回の勝利をもぎ取ることができました。この多くのご期待に沿うことができるよう、4年間精一杯活動していきたいと考えております。



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