学校での性犯罪、どうなってる?中央区の現状とその後の対応のあり方について
今回のテーマは、学校現場における性犯罪。東京都教育委員会が発行しているこれらの事案への対応手順である「教職員等による児童生徒性暴力等が発生した場合の初動対応」の冒頭にはこのような記述があります(引用の強調はほづみ。以下同じ)。
まさにここに書いてあるとおりで、これらの行為を行うことは児童生徒を傷つけるものであって、断じてあってはならないことです。しかしながら、実態としてはたびたび報道に出てくるトピックであります。
後段に述べますが、2023年度に懲戒処分を伴う性犯罪事件、いわゆる「教育職員等による児童生徒性暴力等」に値するものは中央区で発生していませんが、セクハラのような不適切な指導とされる事案については2件起こっています。これは公表されて把握したものではなく保護者の方から連絡をいただいたものでして、この情報を元に先日の予算特別委員会の場において区内での現状とその対応のあり方について確認しました。
学校現場の性犯罪の状況
全国での発生状況
まずは、全国での統計の話から。文部科学省の2022年度の人事行政状況調査によれば、児童や生徒への性暴力やセクハラ行為によって処分された公立学校教員は242名だったとのこと。この数字は前年比で26人増加、200人を超えるのは10年連続という状況。直近5年の推移はこのような感じです。
一方で、 あくまでこの調査でカウントされている数字は懲戒処分など明確な処分を受けたケースのみという点に注意が必要です。何らかの事案が発覚した場合にはまず学校長が調査を行い市区町村の教育委員会に報告、さらに重大な内容であれば都道府県の教育委員会に報告して、そこで処分を行うというプロセスになっています。
このようなプロセスを辿らざるを得ないことから、様々な背景はあるかと思いますが、そもそも被害を訴えない場合、被害の訴え等があったが事実認定にまでは至らない場合、処分される前に自主的に退職する等によってカウントされない場合もあります。したがって、上記の「2022年度に242件」といった報道などに現れる数字は「氷山の一角」、つまりごく一部に過ぎないのではないかとの指摘もあります。
この点について、別のデータでも補強しておきます。これは学校現場に限らないデータですが、性的な犯罪における被害の届け出は決して多くはないという傾向にあります。法務総合研究所による調査報告書「第5回犯罪被害実態(暗数)調査結果」によれば、性的な犯罪に関して被害に遭った方のうちで被害を届け出た人はわずか14.3%。
さらに、「学校」という場所である特性として被害の対象となる子どもたちは実際に被害を受けたときにその時点で「自分が被害を受けた」と認識することが必ずしもできないという指摘もあります。2020年に実施されたNHKの調査では全体のうちでの77.9%が最初は被害として認識できなかったと回答しています。
少しまとめます。学校現場での性犯罪としての処分件数は調査されていてその件数は年間で200件程度。しかしながら、この数字はあくまで懲戒処分にまで至った件数であって「氷山の一角」という指摘もあります。
これを裏付けるものとして、性的な犯罪の場合には被害の申告が他の犯罪と比較して少ないという傾向にあります。また、被害の対象が成長段階にある「子ども」という特性もあり、そもそも受けた行為が被害であると認識できる割合も少ないという事情もあります。
中央区での発生状況は?
これまでは全国の傾向について見てきましたが、それでは中央区の事情はどうでしょうか。
冒頭に書いたとおり、懲戒処分を伴うような明確な事件は起こっていません。一方で、不適切な指導ということで問題となって関係者に対して事実確認を行い、その後に保護者会などで報告があった事案が起きていることを認識しています。
明確な処分が下される場合には公表なども行われることから明らかなのですが、そこまで至らない場合には知るすべもないことから、これらを知った経路は保護者の方の相談から。
このような経路であることから、認識している数字で全てであるのか、もしくは一部であるのかという点については分からないというのが実際のところでした。
何が問題なのか
疑いがあるといったレベルの時点で公表してしまうことは被害者となった子どもの特定などといった二次被害にも繋がりかねないこと、また、事実確認の段階では冤罪などの余地もある中で当人の不利益になりかねないことから、それを行わないということに一定の合理性があるとわたしも考えております。
一方で、その事実が極めて限られた範囲にしか知らされないことによる問題もまたあり、その扱い方については再考の余地があるように思います。わたしが問題と考えるポイントについて、3つ挙げてみます。
問題1.多くの区民が正確な情報を把握できない
これまでの話をご覧になって、中央区内の学校においても性犯罪とは言えないまでも不適切な指導の事案があったということを初めて知った方も多いのではないでしょうか。このように、公表されない限りこういった事案がそもそも起こっていたということについては基本的に知りようがありません。
身近にこういった事案があるということを認識することができれば、保護者の方はお子さんに対してもそういった場面に遭遇した際の対処や相談の方法について事前に伝えることもできます。他方、そういった情報がなければ元々意識の高い保護者でなければあらかじめ何かの対策に伝えるということもおろそかになりかねません。
また、真偽の不確かな情報が流布しかねないという観点でも問題です。正確な情報発信がない場合、「どこどこでこういうことが起こったらしい」といったような噂話のレベルが広まるということも十分に起こり得ることです(さらに言うと、その際には内容に尾ひれが付くこともよくある話です)。
問題2.対処が十分に行われたのか判断できない
次に、情報公開の範囲が狭められるということは起こった事案への対応が「学校の中で隠蔽されているのではないか」という疑念を抱かせるものでもあります。
この手の話があった場合の対応はある程度明確に何を行うべきかについて東京都が定めており、それに従って対応が行われていることになっています。後段に改めて書きますが、事実確認を行った上で関係する保護者に対して保護者会が開かれます。しかし、保護者からすると見える範囲は基本的にここまで。それ以降の動きは見えないことから、その後に事案が生じた要因の分析や再発防止策などの対策が十分に取られたのかといったことを判断することはできません。
この件について相談を受けた経緯は、まさにこういった点に対する疑念からでした。学校側から臨時の保護者会として保護者に対して説明はあったもののそれ以上事実を明らかにしようという姿勢が見えないという問題意識から連絡をいただきました。
どの程度の内容をどの範囲に対して伝えるのか、そして公表しない以上は伝達手段をどのようにするのか等、議論の余地が多々ありますが、その後の対処についても積極的に発信することで保護者の信頼感が得られるでしょう。逆に言えば、それがないと今回のような疑念をより深めてしまうことにもなりかねません。
問題3.再発防止等の対策への着手が遅れうる
問題2は保護者に対しての情報提供の話ですが、3点目に挙げるのは議会も含めた立場への情報の共有という点での問題です。
繰り返しになりますが、今回相談を受けた事案というのは特に議員に対して周知があったわけではありません。これは、区政に関わる極めて重大な情報が明らかにされていないという点で問題と考えています。
明確に性加害であると認定されないにしても、それに類するような事案があったということであれば、どういった経緯で生じたことなのか、そういった事案を今後発生させないためにはどういった対策を講じるべきであるのかといったことを考え、それを議会という場で提案していくことが我々議員としての仕事です。
他方でこういった事実を認識できていないのであれば、我々としてはそういった課題意識も持ちにくくなります。世間一般での類似のニュースに接する中で何らかの課題意識を持つとしても、我々の活動時間も議会等での質問時間も限りがあるものですので「うちの区では起こっていない」と判断してしまえば他の課題を優先させてしまうということにもなり得ます。
特に労働現場における事故予防の分野での概念として、ヒヤリハットがあります。ざっくり言うと重大な事故の前には軽微な事故(= ヒヤリハット)が生じていることから、重大な事故が生じる前に軽微な事故が生じている原因を特定して対策を取るべきということで、そのためにはそのヒヤリハットを職場で報告・定着・共有をするべきとされます。
今回のような懲戒に至らない事案というのはまさにこのヒヤリハットであって、今後起こりうる重大な事案を絶対に防ぐという観点からすれば範囲や内容は限定するにしても我々のような立場にも共有すべきと考えます。
今回のやり取り
上記に挙げたような問題意識から、今回取り上げたのは以下の3つの質問です。
質問
問1.今年度の学校内での性犯罪の発生件数
今年度において学校内での性犯罪の事案及びそれに類するものがどの程度発生したのかという確認。わたしの方で把握している数字で全部か、一部なのかを確認するためのものです。
問2.学校内で疑わしき事案が発生した際の連絡体制
次に、連絡体制について。疑わしい案件があった際には学校内のみで処理するのではなく客観的な視点から事実を判別することが重要です。この点から、何かしら事案が発生した際の学校と教育委員会、それから保護者との連絡体制がどのようになっているのかについての確認。
問3.対外的な周知への考え方
最後に、議会など対外的な周知について。今回、わたしの方で事案として把握しているものは保護者の方から伺った話であって、議員の中でも把握しているのはおそらく一部。こういった状況では対応が遅れかねないことから、これをより広げていくではないかという点について。
回答
上記の問いに対して、得られた回答の概要は下記のとおり。
まず、性加害として認定されるような事案はゼロ。そして、類似のセクハラのような案件は2件。これはわたしの方で把握している数と合致していました。
また、事案の対応にあたっては学校単位だけでなく教育委員会とも情報共有を行っていることが確認できました(当然といえば当然ですが)。
最後に、周知についての考え方。懲戒等の処分が出る際には議会にも公表前の段階で共有するとのことで、逆に言えばそういったレベルにならない場合には共有はされないということでした。
答弁への考察
答弁の内容への見解
発生件数の実態について明らかにできたこと、事案の事実確認について学校だけではなく必要に応じて教育委員会や警察署も含めて対応されていることを確認できたのはひとまず良かったです。
情報提供についてはあくまで懲戒を伴うような事案のみというスタンスは変わらずですが、今回のように議会内で質問をすれば回答をいただけるという実績はできました。定期的に質問することで実態を把握し、それを今回の記事のような形で周知をはかるということはひとまずできそうです。まだ時間はかかりそうですが、何かしらのタイミングで報告される仕組みについては他の自治体の事例も含め調査していきます。
補足:事実認定は信頼できるのか?
やや長くなってしまうのですが最後に補足として、事案の事実確認の上で懲戒にあたるかどうかの認定の部分について書いておきます。この部分については批判的な見方からすると恣意的に対応してしまっているのではないかという疑いもあろうかと思いますので、前提となっている考え方についての整理です。
まず、東京都教育委員会は「教職員等による児童生徒性暴力等が発生した場合の初動対応」という手順を策定しており、これに従って対応が行われることになっています。対応のフローについては下記のとおり。
性暴力被害に該当しうる事案があったことを発見した時点で学校管理職(つまり校長や副校長)へ報告し、教育委員会や所轄の警察書とともに対応を進めていくことになっています。重視されているのは「『疑いが生じた』時点で報告」という点。
さらに、この上での事実確認の結果について、学校管理職は教育委員会と保護者に報告することになっています。
また、上記のような事実確認の上でどのような懲戒処分を行うのか/行わないのかについての判断基準をわりと具体的に提示しています。「性的行為、セクシュアル・ハラスメント等」で「児童・生徒を対象とした行為」の場合の基準の抜粋がこちら。
「性交又は性交類似行為を行った場合」など決定的なものから「性的な冗談・からかい」「性的羞恥心を害するような言動等」などいった相対的に軽めのものまで、それぞれに「免職」「停職」「減給」「戒告」といった処分が割り当てられています。
今回のケースで認定されなかったということは、発生した事案は上記のいずれにも該当するものではなかったという判断を下したということです。
また、今回のケースでいうとそれぞれ、「正規の教職員ではない」「本人が自己都合で退職した」といった要素があり、これらもちゃんと調査が行われないのではないかという疑念を抱かせるものですが、教科書どおりの対応が行われていればそういうことにはなりません。これについても軽く整理しておきます。
ケース1:教職員ではない場合の対処
まず、正規の教職員ではない場合。今回の事案のうち1件については教職員ではないスタッフとのことでしたが、「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」には教職員向けの対応を教職員以外に対しても準用する旨が書いてあります。
ここでの「第十七条から前条までの規定」の部分は教育職員等による児童生徒性暴力等の早期発見及び児童生徒性暴力等への対処に関する条文であり、要するに教職員でないからといって処分の対象にはならないわけではないということです。
ケース2:本人から退職申し入れがあった場合の対処
もう1点は疑いのある教員が退職してしまう場合。退職してしまうと公務員という身分もなくなり調査に応じる必要もなくなってしまうことからあまり望ましくないとされているようです。下記の今治市の事例では調査中に退職願いを受理してしまったことで批判的に報道された例。
こういったことを踏まえてか、文部科学省の指針には下記のような記載があります。
こちらの「2週間を経過すると終了」については民法627条かと思います。
つまり、本人が退職を申し入れて2週間が経てば雇用主(教育委員会)の承諾がなかったとしても退職が成立するということです。この退職の申し入れをすることを拒むことはできないので、それを見越して早急に事実確認を行った上で懲戒を行うことを求めているということです。
ここまでをまとめます。懲戒にあたるかどうかの事実認定は学校が単独で行うものではなく、疑いが生じた時点で教育委員会や所轄の警察署も含めて組織的に行われているものです。
また、「正規の教職員ではないこと」「本人が自己都合で退職したこと」をもって調査を行わない/取りやめる理由とはなっていません。すなわち、これらの場合をもっても当然調査は行われるべきだし、行われているであろうということです。
今回の案件に対する判断はこれらのプロセスを経るべきもので、改めてこれらに則って対応されかどうかについても今回確認させていただきました。その上での判断ということですので、この判断は十分に尊重すべきものと個人的には考えております。
他方で、当事者となった方々からするとこの対処が不十分であると考えるのもやむないことです。そういった点もこの手順では考慮されており、「誠意ある対応」を求めています。
このように、全てに応えることはできないまでも「丁寧に保護者の話を聞き、気持ちに寄り添う」ことが掲げられていることから、もしこれらの対応についてご不安があれば学校等に相談することは認められているということは改めて書いておきます。
もし直接連絡することについてご不安だったりがある場合には、お手伝いできる部分があるかもしれませんのでお気軽にご相談ください。
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