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【日記】30分間、人間ウォッチング

久しぶりに電車に乗った。
友人と食事をする仙台に向かうためだ。
本塩釜駅から仙台駅までは約30分。
長くも短くもない、適度に楽しめる時間。

夕闇が迫る中、静かにホームへ滑り込んできた電車に乗り込む。
乗客は多くない。長椅子の端に座る場所を確保した。
文庫本を開いて活字を追う。
4〜5ページ読み進めたところで気がつくと、車内の長椅子は既に埋まり、立っている乗客が各ドアの両隅に陣取っている。
小声で話すカップルの隣では、友達同士と思われる女の子たちは手元のスマホの操作に夢中。
ひとりで乗っている客はみな、スマホの画面に見入っている。
老若男女、電車には様々な乗客がいる。
その中で、ボクはひとりの男性が気になった。

歳は60歳前後だろうか。座っているが、中肉中背なのがわかる。
軽くオールバックにした頭髪はまだ健在だが、そう毛量は多くなくなっている。
ちょっと明るめの茶色に染めているが、根元が白くなっているのがわかる。
肌は少々焼けている。ゴルフ焼けというイメージ。
黒いジャケットに黒いジーンズ。
足元はスニーカー。ソールがやや高く、ちょっと高めのランニングシューズのような感じ。
それなりの会社で重職に就いている人の休日というように見えなくもない。
少なくとも、単純な労働者風ではない。
しかし、そのイメージを一つの方向に絞り上げる強力なアイテムを身につけている。
それが、

白ブチメガネだ。

こうなると話が変わってくる。
仙台という地方都市で、この雰囲気にこうした思い切ったメガネをかけてくるということは、マスコミ方面か。
地方タレントのようにも見えるが、テレビなどで見たことがない顔なので違うだろう。
地方局の営業部長、地元広告代理店の社長、専務あたりか。
これで銀行員だったら、日本もかなり服装に関しては自由になったもんだと思うが違うだろう。
まぁ、でも最近はテレビに出てくる大学博士は、旧来のイメージのような無表情なハゲ・黒メガネなんて一人もいない。
革ジャンに銀髪とか、金髪にサングラスとか、キャラ付けをして覚えてもらいたい新人芸人のようにも見える。
それに比べたら、目の前の白ブチメガネはまだ控えめだ。
どういう職業の人なんだろうなぁ。

ボクは彼の特徴を羅列して、妻にLINEで送った。
<どういう職業だと思う?>
すると、しばらくしてバイブ音とともに返信が届いた。

<笑福亭笑瓶の追悼じゃない?>

そうきたか〜!
予想だにしない角度の返信。
その時、ドアが開いて乗客がぞろぞろと降りていく。
窓からホームの駅名を見ると「せんだい」と書かれている。
あれ、もう着いちゃった。
ボクは慌てて立ち上がり、電車を降りた。

本塩釜駅から仙台駅までは約30分。
人間ウォッチングには少々短いようだ。

あれ?笑福亭笑瓶さんの眼鏡って黄色だったような。
ご冥福をお祈りいたします。

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