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【エッセイ】あの日、ボクたちはささやかな秘密を共有した

(1205文字)

近所に小学校がある。
平日の午後に出かけると、下校中の小学生たちに遭遇する。
少し懐かしい。自分の子供時代じゃなくてね、娘の子供時代。

よく見てみると、男女二人で歩いている子供が数組。
一年生、二年生くらいならまだしも、五年生、六年生くらいの子供たちも男女二人で歩いていたりする。
しかも今時の子供たちは大人っぽかったりするからね、カップルがランドセルを背負っているような不思議な感じに見える。

そういえば、ボクの娘も男友達と下校したりしてたな。
ボクが子供の頃はそうじゃなかったなぁ。
二人で歩いているのを見られた日にゃぁ「カップル、カップル」とからかわれちゃうからね。
生まれた時から家が隣同士で仲良しだった幼馴染みの男女も、学校じゃ意識して話していなかったもんな。
今の子供達の男女の距離感が羨ましいと思いつつ、心の中の昭和の少年は「羨ましくなんかないやい!」と走り去る。

小学校3年生か、4年生くらいの頃だったと思う。家族で上野動物園に出かけた。父と母に妹、そしてボク。
行ったことは覚えているのに、何を見たのか、どういう会話をしたのか、パンダを見たのかどうかすら覚えていない。
覚えているのは昼食のワンシーンと気まずかった感情だけだ。

おそらく、動物園のレストランだったと思う。
そこで同級生の女の子の家族と出くわした。
そして一緒に昼食をとることになった。
同じクラスだが、あまり話したことがない子だった。
家族は向かい合わせに座った、と思う。
そしてボクの目の前にはその子が座った。
話すことなど何もない。
それどころか、まともに顔を見られない。
恋愛感情があったわけじゃない。
自意識とか、プライドとか、男女のアレコレなんて言葉も知らなかったので、少年にはその感情を、自分自身にすら説明できない。
ただ黙々と目の前の食べ物を口に運ぶことしかできないのだ。
彼女から話しかけてくることもなかった。
ただそれだけ。
食事の時間は1時間もあったかどうか。
しかしボクには非常に長い時間に感じられた。
その時の光景が、色あせた一枚の写真のように脳裏に焼き付いている。

翌日、学校に行ってもボクたちは話すことはなかった。
ボクは前日の出来事を誰にも話さなかった。
それは彼女も同じようで、クラス内で話題になったりからかわれるようなこともなかった。
それからボクはなぜか少し彼女が気になるようになった。
好きになったのかといえば、そうじゃない気もする。
秘密を共有したような仲というか。
それは彼女も同じだったのか、それともボクのそんな気持ちが伝わってしまったのか、一度だけ授業中に目があった。
ボクはとっさに視線を逸らした。
それだけだ。

これが高校生だったら、ここから恋愛が始まるなんてこともあったかもしれない。
秘密の共有は恋愛の始まりには有効だ。
しかし、高校生のボクにそんなチャンスは訪れなかった。
なぜなら、男子校だったからだ。

あーあ、共学に行けばよかったなぁ。
人生最大の後悔。


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