【#シロクマ文芸部】布団から
お題:布団から
文字数:965文字
布団からもぞもぞと這い出して、欠伸しながら伸びをした。
隣で寝ているヤツはまだ起きない。
腹が減ったので起こしてやろうと思ったがやめた。気持ち良さそうに寝ているからだ。
俺たちが乗った宇宙船は着陸に失敗して大破したが、幸い乗組員の3名は全員無事だった。
通信機器も修理不能で、母船に連絡を取ることもできない。
そうなれば、なんとかこの星で生きていかなければならない。
まずは様子を見に行こうと、恐る恐る宇宙船の外に出てみると、突然1号がこの星の生物に拉致されてしまった。
この星の生物は巨大だった。俺たちの10倍、いや、それ以上あるだろう。とても力ずくでは1号を救出できない。
隠れながら、遠目で1号を拉致した巨大な生物の様子を伺っていると、抱えた1号に何やら話しかけながら体を触っている。
すぐに殺すつもりではなさそうだ。
そこにもう一体の巨大な生物が現れた。マズイ、こっちにやってくると逃げようとしたところを、2号が捕まってしまった。俺は辛うじて草むらの中に隠れて無事だった。
そしてそのまま、巨大生物たちは1号と2号を連れ去ってしまった。
俺はひとりぼっちになって途方に暮れた。
とりあえずは食糧を見つけなくてはならない。宇宙船にあった宇宙食は全て燃えてしまった。
保存のためにペースト状になった食べ物だったが、あの味付けは抜群だった。あれなら宇宙以外でいつでも食べたい。
俺は食糧はもちろん、1号と2号を探すために巨大生物たちの住むエリアに足を踏み入れた。
そんな俺の前に、巨大生物が現れた。
そしてなんと、目の前にあの宇宙食そっくりの食べ物を差し出したのだ。匂いもそっくりで、俺はもうたまらず駆け寄ってむしゃぶりついた。
捕まったって構わない。どうせ食糧が見つからなければ死ぬのだ。
そしてその食べ物は味も宇宙食そっくりだった。俺は無我夢中で食べ続けた。
それから俺も巨大生物に拉致された。それがここに寝ているヤツだ。
不思議なことに、ヤツは全く俺に危害を加えることはなかった。
この巣からは出してもらえないものの、鎖に繋がれるようなこともない。
巣の中は暖かいし過ごしやすい。
そしてなにより、この布団というやつが気に入った。暖かくて気持ちよくて出られなくなる。
おっと、ヤツが起きたようだ。そろそろあの食べ物をくれるはずだ。
ヤツがチュールと呼んでいるあの食べ物を。
終
今週もシロクマ文芸部さんに参加させていただきましたー
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