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【エッセイ】「津」のおじさんの想い出

津の親戚に不幸があり、この週末はお盆休みで帰省していたばかりの三重県にとんぼ返りで帰ってきていた。

日本一短い一文字の駅名「津」(つ)。
全国的にはそんな有名ではないと思うけど
三重では一応県庁所在地となっている街。

僕も結婚したタイミングで社宅が津市に割り当てられ、半年ほど住んだことがある。
たしか29歳の頃だったかな。

―――その後に東京にでて今年で21年目になる。


幼かった頃の「津」の想い出は
亡くなったおじさんの家で遊んだこと。
ひとつ違いのいとこ姉妹がいたので
機会をみつけてはよく遊びに行っていた。

いまや記憶がないころからの沢山の想い出
その写真アルバムが葬式の会場にあった。

幼稚園のころ?の僕といとこ(たぶん)

忘れかけていたいろいろな記憶の断片が
一気に頭のなかに沸き上がってくる・・・


近くの川に探検にいったり、スーパーでお菓子を買ったり、おじさんの趣味の大人用のプラモデルのスーパーカー、床の間に飾ってある日本刀の模型、
―――触って遊べないのが残念だったけど、少年ごころをくすぐるオモチャが沢山ある家だった。

とにかくその頃の僕にとっての「遊び」を
満喫できるところ、それが小さい頃の「津」のイメージだった。

亡くなった津のおじさんは、“けんちゃん”と呼ばれていた。小さい頃から僕も真似してけんちゃんと呼んでいた。
お酒屋は苦手で甘いものが大好きなけんちゃんは
口数は少ないけど、オモチャや遊びの先生のようなイメージだった。

「小さい頃、プラモデルや車やかっこいいオモチャを教えてくれてありがとう。これからは天国でゆっくり遊んでください。」


告別式の最後、花を棺桶に入れるときに僕が書いたメッセージが読み上げられた。
なんか五十になってるのに、小さい頃の気持ちそのままで書いたのが読まれて少し照れくさかったけど、けんちゃんに遊んでくれたお礼が言えてほんとよかったと思った。
そう思うと少し目頭があつくなって必死にこらえていた。


―――帰り道。近鉄のホームからお隣のJRを見ると、思いっきり“つ”と平仮名で書かれた看板が目に留まった。

日本一短い一文字の駅名の「津」だけど
僕にとっては沢山の楽しい遊びの想い出の時間が甦ってくる一文字だ。

めちゃめちゃ大人なのに、少年ごころを持った“遊び”を教えてくれた「けんちゃん」は、今日仏さまになって天国に遊びに行ってしまった。



人は一生のうちに
どれだけ心から楽しんで「遊ぶ」のだろう?
会社で偉くなったり、大金持ちになったり
有名人になったりしたとしても
心から楽しく遊ぶ時間がなければ
幸福ではないんだろう。

津のおじさん、けんちゃんは楽しく遊ぶ達人やったのかな、とふと思った。
73歳でしんじゃうのはちょっと早い気もするけど
楽しく遊ぶことを知ってるから
老化してへばってきた肉体から飛び出してのびのびと遊んでいるんだと思う。



好きなことはなんですか。
興味のあることはなんですか。
心から楽しく遊ぶ時間はありますか。



©️2023 Mahalopine

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