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中野ぶんちゃか日記 カヌレとワタシ

初めて食べたのは29歳ごろ。
転勤を機に結婚をしたものの、名古屋での日々は仕事も忙しいし、週末は伊良湖へサーフィンしたいし、深くまで仲間と飲みに行きたいしで、そりゃそうだ。奥様に怒られる日々。
とある冬の日、キリッと冷えた空気のなか、それでも朝の陽射しが頼もしく強く届き出す早朝。予定のない休日。久しぶりに二人で出掛け散歩してお茶でもしようということになり、地下鉄の東山線に乗って星ヶ丘駅(あたりだったか)におりて散歩していると、とある雑居ビルの2階に喫茶店がある。
まだ早い時間だから空いてないかもしれないねと外階段を上がると、ご主人が焼き菓子を焼いているところであった。
ちょうどオーブンから取り出したパンに乗った菓子は極めて黒に近く光の具合で僅かに茶色であり、それらは律儀に5個づつ整列している。
生まれたばかりのそのカヌレから立ち昇る、バニラと焼けたカラメルの甘く柔らかく、そして少しだけ焦げた暖かい香り。
入り口の鉄の枠の扉を開けたことで、足元から入る外の冷たい空気と交換する形で僕らの顔を包んだ。

痩せたその姿は60歳位だろうか、マスターは白いコットンのシャツに蝶ネクタイ、黒いパンツにエプロンを着けている。
「どうぞ。 本当は冷ましてから食べるのだけど、温かくてよければカヌレどうですか」
「あ、お願いします。珈琲もください」
出来たばかりのカヌレと温かい珈琲を僕らは頼んだ。
柔らかく、甘い。少し苦い。プリンのよう。  そして珈琲を一口。
窓から眺める街路樹は枝だけ。休日朝の車は少ない。マフラーに顔を埋めた女性が道を横切る。

もういい日確定ではないか。
感激したこともあり、お土産にカヌレ、もう二つ。

家で食べると予想以上に硬く歯が立ちにくいほど。
そして甘さと苦味が際立つコントラストの強いカヌレになっていた。

このカヌレが僕ら夫婦のナンバーワンであった。
この先、喫茶店や洋菓子屋でふと思いついて頼むと大体が力なく首をふる結果に終わっていた。でもご安心ください。ここに書くということは見つけたのです。苦節20数年(大袈裟)今いる近所のパン屋で焼くカヌレが硬くて美味しいのです。ちなみにパンも美味しい。パン屋の名前はアルゴリズムといいます。
休日には紅茶を淹れて一人暮らしの息子もやってきて今では家族3人で食べます。
昔食べたカヌレはさー と言ったり また言ってると言われたり

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