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小説「ムメイの花」 #43比較の花

朝の日課。
家の前に立つ。
右手に花はない。

昨日、花の灰を
チャーリーの庭の一角に撒いた。
今朝は花が開花しているか確認をする。

そのために5時に撒いた場所で
ブラボーとチャーリーと
待ち合わせの約束をした。

早朝に待ち合わせするなんて
人生で何度あるだろう。

デルタのカメラも
首からかけて準備万端。

5時まで少し時間があることを理由に
集合場所へは行かず、家の前に立っている。

緊張をして1人で向かえないんだ。


今は5時まであと10分というところ。

チャーリーが家の扉を開け、
出てきたのが見える。

僕に気がつくと
まっすぐ見つめてやってきた。

「おはよう!アルファ」

「チャーリー、おはよう。
 ちゃんと早く起きれたね」

「目覚まし時計を2つかけたけど、
 ボクの方が先に起きたよ!
 灰はどうなったかな」


5時まであと5分になった。

本を片手に、
ブラボーが走ってくる。

「おーい、アルファ、チャーリー。
 おはよう!」

僕はブラボーに向かって言った。
「石に気をつけて!石!」

僕の忠告なんて無意味。
足元の石につまずき、本を落とす。

本を拾いながら僕たちの元へ。

「アルファもチャーリーも
 花を見に行かないの?」

「みんな揃ってから行こうと」
僕が言うとチャーリーもコクリと頷く。


5時まであと1分。

ようやくチャーリーの家の庭に向かう。
四隅を紐で囲ったスペースが見えてきた。


5時ジャスト。
灰を撒いた場所に駆け寄り、
チャーリーは言った。

「咲いてい……」

僕が後ろの言葉をつなげる。
「ない」

肩を落とす僕とチャーリーに
ブラボーは言った。

「もう少し待ってみようよ」


灰を撒いた場所を囲み、
僕たちは将来の話をして
花の開花を待った。

何かの映画で見たことがある、
夜に森で焚火を囲んでするような会話だ。

「アルファとブラボーは
 花が咲いたらどうするの?」

ブラボーは持っている本を見せながら答える。
「この『注目される方法』の本を
 僕の考えで書いてみようかな。
 実体験から花を守る内容の本を書くのもアリだな」

「ふうん。アルファは?」

「地球に行って
 地球の花を見て来ようかと」

実際のところ、
本気?と詰められたら迷ってしまう。
またはっきり言えない僕。

それでももし花が咲いたら、
行動や思考がピタッと止まってしまうのは怖い。

僕の気持ちを悟られぬよう、
チャーリーに矛先を変える。

「で、チャーリーは?」

「ボクは先頭に立ってムメイ人をリードする
 偉い人になろうと思ってた。

 でもみんなと過ごしていくうちに、
 花に詳しい研究者も悪くないって迷う」


気がつけばもう7時。

チャーリーは言う。
「ボクの大切な灰が!
 アルファの仮説、ハズレかよ」


灰からは芽が出ることも、
期待していた花が咲くこともなかった。


「そんなはずは……
 ブラボーが持っていた灰も、
 チャーリーが持っていた灰も
 どっちも同じ灰。

 でもブラボーのは
 芽のようなものが出ていた。
 この違いは一体何だ?」

「僕はチャーリーと違って
 灰自体に興味はなかった。
 灰が本に挟まっていただけだったよね」

「ボクは集めた灰を毎日眺めて、
 香りを楽しむのが好き。
 本当はボクだけのものになったらな!
 ブラボーより灰への熱は高いぞ!」

熱い想いを表現するように、
右手で自分の胸をつかむチャーリー。

「熱で言ったら僕は本に対しては熱いよ」
ブラボーは持っていた本を抱きしめる。

「だから読んだ本には毎日欠かさず
『ぱんぱん、ありがとう』をしてるんだ」


僕は背筋が伸び、体が熱くなった。
大切なことを忘れていたじゃないか。

デルタの件からフェアリーズを解散し、
感謝をすることを止めたんだった。

「2人とも!違いは、ぱんぱん、ありがとうだ」

ブラボーとチャーリーは僕の顔を見る。

「そうだ!実は昨日、僕の本屋に
 新しいみんなの学習帳が届いた。

 デルタが応募した写真が
 表紙になっていたんだよ!

 本屋の窓いっぱいに陳列させて、
 ムメイのみんなが花に
 注目できるようにするね。

 みんなが花へのありがたみを
 思いだすかもしれないし!」

「ブラボー、早速ありがとう。
 それじゃあ僕は
 右手にデルタが撮った花の写真を1枚持とう。

 そして、これまでの花の写真を
 かつて花が咲いていたところに飾る。
 祈りを込めた、ぱんぱん、ありがとうと共に」


「ボクはどうしたら?」

「残っている灰を
 ムメイ中に撒いてもらえないかな?」


不安な気持ちが
垣間見える表情のチャーリー。

「仕方ない。ボクも灰と共に
 ぱんぱん、ありがとうの種まきをしよう」


ブラボーとチャーリーの前では
言わなかったけれど、
僕はこの活動の様子を欠かさず
写真に収めることもこころに誓った。

きっとデルタに届くはずだから。


なんとかこれで結果を出せたらと
首からかけたカメラに触れた。

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