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小説「ムメイの花」 #44奇跡の花

朝の日課。

家の前に立つ。
右手には1枚の花の写真。


ブラボーとチャーリー、
僕たち3人は花を咲かせるべく
日々それぞれ活動を続けていた。

ムメイの街に花の写真を飾ったり、
花の灰を撒いたり、
ぱんぱん、ありがとうを忘れず
今度こそ諦めることはなかった。


活動初日、咲かない。
そりゃ初日だ。

3日目、咲かない。
まだ3日目だ。


……1ヶ月目、咲かない。
頑張れ、と自分に言い聞かせていると
いつも見かけるムメイ人から聞かれる。

「おいアルファ、
 お前最近何してるんだ?
 相変わらず無表情で変なヤツ」


3ヶ月目、咲かない。
花の灰が少なくなってくる。
撒く量を減らさないと後がない。

僕の前を通り過ぎていく
ムメイ人の会話が聞こえた。

「花のために活動をしている
 ムメイ人なんだって」


…1年目、咲かない。
諦めたい。
花の灰は遂になくなってしまった。

でもここまで続けてきたことだ。
明日咲くなら
ぱんぱん、ありがとうだけでも……

いらぬことを考えだしていると
あるムメイ人が僕に近寄り言った。

「ぱんぱん、ありがとうって何?
 良いことが起こるって本当?」


3年目、咲かない。
もう悔いはない。

花に興味がなかったムメイ人たちが
僕の前に来ると立ち止まり、
ぱんぱん、ありがとうをするまでになっていた。

そしてこんな声かけ。

「ムメイの街に花が咲きますように」


そして今朝から4年目に入る。

今朝はどこかから漂う香りが気になる。
パンを焼く香りとは違う。

香りがする方にふらふら歩いていると
時計おじさんの姿が見えた。


僕が物心ついたときからいるムメイ人。

毎日むっとした、強面で
毎日同じ時間に
毎日同じ速度で
毎日同じ方向に向かって歩く
個性的な人だ。

「おはよう、おじさん。
 今日も同じことをしているんだね」

「小僧に言われる筋合いはねえ。
 時間が狂う、あっちいけ」

なんとなく黙って
おじさんと一緒に歩いてみた。
香りがする方向と同じようだし。

何分くらい歩いただろう。
突然風が吹き、僕のおでこに
何かがぴたりと張り付いた。

手で取り、立ち止まる。

「これは……」

おでこについたのは
紛れもなく1枚の花びらだった。

おじさんは構わず足を止めずに
前へ歩いていく。
僕は駆け足で歩み寄った。

「おじさん!花だよ!見て!
 どうも今朝は花の灰のような香りを
 感じていたんだ!
 ムメイの街のどこかに咲いているのかな」

おじさんは振り向いて冷静に言った。

「小僧の目は何のために付いている。
 節穴か?よく見て歩け」

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「あれ……?」

不思議なことに、地面を見渡すと
開花したばかりの花が一面に広がっていた。

カメラを覗いていなかったのに
なぜ肉眼では気がつかなかったんだ。

「おじさんは花の在処を知っていたの?」

目線を上に上げると
既におじさんの背中は小さく、
遠くへ歩いていってしまった。


背後からは
ブラボーとチャーリーの声が聞こえる。
2人揃って走ってきた。

「おーい、アルファおはよう!
 なんだこれは!」

「ブラボーと一緒にアルファを探していたよ!
 やった、咲いた!」

花畑ではブラボーは
石につまずくことはなかった。

「おはよう、ブラボー、チャーリー。
 ブラボーが躓かなかったことにびっくり。

 それにしてもここの花、
 それ以上にびっくりだろ?」

花が目の前にあるだけで
会話が止まらない。
興奮してみんなの声が大きくなる。

「これからは徐々に
 家の屋根にも花が咲くようになるかな?」

「ムメイに住む人も
 花に注目してくれるようになったのかな?」

「ロケットも飛ぶようになるのかな?」

僕は2人と
首からかけたカメラに触れながら
こころから思ったことを言った。

「本当にみんなのおかげ。
 ブラボー、チャーリー、デルタ、
 ここの花もみんなありがとう!」

そして1本、花を摘み取った。

ーー右手には1本の花。

カメラを覗き、
右手の花や辺りの花を写真に収める。

花を見ているとあることを思いだす。

結局、答えがまとまらない
あのときかけられた言葉。

「ハナヲ ミヨ。
オマエニ フソクスルハ、
ハナヲ ミルチカラヨ」


今この空間はとっても心地良い。

なのに、ここも
僕の居場所ではない気がしてしまい、
満たされないこころ。

僕こそ花より厄介なやつだ。
僕のこころは何を求めているんだろう。

家に帰ったらこころを
文字にして整理してみよう。

さてと、忙しい1日になりそうだ。

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