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小説「ムメイの花」 #32本音の花

朝の日課。
家の前に立つ。
右手に花はない。

人通りが少ないムメイの朝。
地球に向かうロケットは
飛ばなくなってしまった日々。

僕の前を通り過ぎるムメイ人が
挨拶をしてきた。

「 おはよう、アルファ!
 いつになってもお前は無表情だな。
 
 ロケットが飛ぶと嘘が日常になって、
 ムメイも物騒になったもんだ 。

 ひょっとしてお前が
 花と睨めっこしていたせいか?
 まぁ、良い1日を! 」

ロケットが飛んでいないとなると、
思った以上に大きな声に聞こえる。
そして思った以上にこころに響く。

今までこんなこと、
全然気にならなかったのに。


フェアリーズはいつものように集合した。

走ってやってくるブラボーは石につまずき、
抱えていた本を落とす。
いつもと変わらない光景だ。

チャーリーの視線の強さも変わらない。
デルタの不思議なカメラ撮影だって
何も変わっちゃあいない。

僕は花がない今に順応して
花の答え探しを諦めた方が良いんだろうか。

「ブラボー、チャーリー、デルタ、おはよう。
 みんなが変わらないならそれだけで良いや」


ブラボーが花の話題を持ち出した。
「本屋で店番をしていたら、お客さんから
 偽物の花を作り高く売るムメイ人が出たって聞いたんだ」

「ボクもパパから聞いたよ!
 花の寄付を装って騙すムメイ人もいるみたいだ!」

「ぱんぱんありがとう活動をしたいのに、
 これじゃ誰も信じられなくなっちゃうねぇ」

僕は迷い、蓋をした自分の気持ちを思い起こした。
「花がなくなることは僕だけの問題じゃない。
 ムメイにも問題が起こる。これで良いわけないよ」

ブラボー、チャーリー、
カメラを下ろしたデルタが一斉に僕を見る。

何か行動を起こさねば。
僕は続けた。

「花が残っていそうな場所、思いつかないかい?
 自然が豊かな場所だとか」

「あれぇ、そう言えばぁ……」

デルタは首から掛けたカメラを強く握った。
「みんなの学習帳の表紙のコンテストに応募した写真を
 ミツメ山で撮影したのぉ。そのときは結構咲いてたぁ」

「ナイス、デルタ。何かわかるかも!
 行ってみるしかないね」


そうしてフェアリーズは
花の手がかりを求め、ミツメ山へ向かうことに。

撮影をしたとされる場所へ向かっている途中、
デルタは少し前を歩いて僕たちに向かって
カメラのフラッシュを光らせた。

「ねぇねぇ、みんなの夢ってぇ?
 はい、ブラボーからぁ」

「夢?急だなあ。僕は注目されることに抵抗なく、
 自分に自信を持てるようになることさ。
 チャーリーはどう?」

「ボクは偉い人になりたい!
 みんなに真似されて困っちゃうくらい偉い人にね!
 そう言うデルタは?」

「私はねぇ、 地球の花をカメラに収めたいのぉ。
 地球の花を見た人は絶対に感動するんだってぇ。
 近いうちに行けたら、いや行こうと思ってるぅ」

夢を語っているときのメンバーの顔は
羨ましかったし、応援をしたくなった。

それにしてもデルタはカメラを覗きながら
よく後ろを向いて会話をし歩けるものだ。

「アルファはぁ?」

「え?えっと……僕は……何だろうか。
 急に聞かれても僕はよくわからない」

「花の答えを見つけることじゃないのぉ?」

「夢と言われると違和感がある。
 『ハナヲミヨ』と言われて探しているだけだし、
 これって夢と言える?」

「アルファはまだそんなことを言っているのか!
 花の答えを探すことで良いだろ!」

年下だろうと関係なく、チャーリーは呆れ
僕は脇腹を軽く殴られた。

「うっ。まぁそうなんだけど……」

結局、僕にとって
しっくりくる夢を答えられなかった。

でもひとつ、話をしていて気がついた。

それは、自分の叶えたい夢が
応援してくれている人にだって夢であるということ。

フェアリーズひとりひとりの夢は僕の夢。
逆に僕の夢が仮に「花の答え探し」だとしたら
それが今はフェアリーズの夢になっている。

だからこそ、今の僕は目を逸らさずに
花を甦らせねばならない。

本当の自分の夢を今の僕は
はっきり言葉にできないけど、
今はそんな場合じゃないんだ。


そうこうしているうちに、デルタは立ち止まり、
あたりをきょろきょろと見渡した。

「ここらへんのはずぅ」

そこには花が咲いているわけではなかったが
『ハイルナ モドレ』と書かれた看板が。

ブラボーは言った。
「アルファ、この先はどうする?」

チャーリーとデルタも何も言わず
僕に判断を委ねた。

今の僕に迷いはない。
花の魔法に出会ったときだって
『ハイルナ オカエリナサイ』の看板から
恐怖と戦いながらも進んで大正解だったから。

今回だって同じに違いない。

「もちろん、行こう」


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