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小説「ムメイの花」 #25自由の花

朝の日課。
家の前に立つ。
右手には1本の花。

今朝から始まる、ぱんぱんありがとう活動。
相変わらず右手の花は萎れ、下を向く。

この活動が花の答えに
繋がってくれることを願うばかり。



バニラによって結成されたチーム、
フェアリーズの初めての朝だ。

いつもの顔ぶれ……
いや、メンバーが合言葉「ぱんぱんありがとう」と共に
家の前に立つ僕の元へやってきた。

本を抱え、走って来るブラボー。
石につまずき、本を落とす。

片手に1本ずつ花を持ったチャーリー。
僕をまっすぐ見つめている。

いつの間にかいつも隣にいるデルタ。
カメラを通して朝のムメイを記録中だ。

「みんなおはよう。今朝からだね。
 ぱんぱんありがとうって何のことだったか
 ちゃんと覚えてる?」

「当たり前だよ、アルファ!
 ボクはちゃんと覚えてるさ!
 2回手を叩いてから、ありがとうと言うことだ!」

「また本を落としてしまった。
 そんなことより、ぱんぱんありがとうで
 いろんな物や人にありがとうを贈るんだったね!」

「アルファの花の答えに
 繋がるかもしれないねぇ。あ、おはよぉ」

「みんなの言うとおり。ではやっていこう」


いざやってみると
何に対して贈れば良いのかわからない。
地球へ向かうロケットの為にムメイに来た、
他の街の人に声を掛けるのも気が引ける。

とりあえず、ありとあらゆる物に
ぱんぱんありがとうをしていく。

空、打ち上がるロケット、
通行人、家、右手の花など、何にだって。

そのうち、ぱんぱんありがとうから派生して、
ぱんぱん!といかに大きな音で手を叩くか
研究するようになった。
というか活動に少し飽きが出てきただけ。

一番立派な音だったのはブラボー。
脇に抱えていた本を挟み、コツを伝授する。

「固い表紙の本を閉じたときの音を想像しながら、
 脇をちゃんとしめて叩くんだ」

反対に不発音ばかりのチャーリー。
原因ははっきりしている。
両手に花を握っているから。

「花がなければボクだって!」

チャーリーが手を叩く度、
悪かったですねぇと適当に受け流すように
ふわふわと花が頷く。


しばらくしてから真剣に取り組もうと
僕とチャーリー、ブラボーとデルタの
二手にわかれることにした。

チャーリーはありがとう贈りより、
手を叩くことにずっとこだわる。

「チャーリー、花を地面に置いたらどう?」
「問題ないよ!アルファだって花を持ちながらできてるし、
 花からの挑戦状なんだ!ボクにできないことはない!」

チャーリーは意地でも花を置くことはなかった。
そして僕はその意地の拳でアドバイスどうも!と
「ぱんぱんありがとう」をされた。


「オッケー、良きかな。
 あなたたちムメイ人さんは、
 拝み、何をされているですか?」

どこかの街の人が
僕とチャーリーの元へやってきた。
温厚そうな人だ。

「おはよう、おじいさん。
 僕たちは感謝をするクセをつけているんだ」

「なんと良きかな。私はユルスという街の者。
 ロケットに乗りに、ムメイに来ましたとさ。
 オッケー、オッケー」

「アルファのぱんぱんありがとうと
 ボクのとどっちが良き?」

「ほっほぅ。良き良き。
 そんな君もオッケー、許しましょう」

ねえ、とユルス人は僕の目を見てにっこり。

「許す?ボク何も悪いことはしていないぞ!」

「チャーリー、思い当たる節があるんじゃないの?」

きっと素直に、地面に
花を置かなかったことに違いない。

「良きかなムメイのお兄さん。
 オッケー、君も許しましょう」

「僕も?悪いことしてないよ?」

許すことがない自分もオッケー、全て許しましょう。
 幸せを拒む自分が消えるまで、許し続けましょう

チャーリーはコソっと僕に近寄り言った。
「アルファ、このユルス人から離れよう。
 ありがとうとか許すとか、
 自分を甘やかして何でもありだ」

「私の街、ユルスでは感謝”される”ことは
 縁起が良いと言われておりましてな。
 ”される”ようにしなきゃと思っていた私も、
 私が許しましょう。
 オッケ……おっともうこんな時間」

良き良き、と言ってロケットじょうへ向かっていった。

「ボクにはわからん!」

年下だからか、チャーリーはあどけない。
純粋といえば純粋だけど。

僕はこのことに関して理解できる気がした。
僕が僕を許そう、こころで言い続けたとき
不思議なくらい肩が軽くなったから。

許せない僕、いたんだ。


僕は歩いていくユルス人に向かって、
ぱんぱんありがとうをした。

僕に続いて、チャーリーも手を叩く。
はっきりとしたぱんぱん!という音だった。

チャーリーを見ると、
片手に1本ずつ持っていた花は
足元にそっと置いてあった。

僕も同じように右手の花を足元へ。


ぱんぱん、ありがとう。

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