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小説「ムメイの花」 #33運命の花

僕たちフェアリーズは
花を探しにミツメ山へ。

『ハイルナ モドレ』の看板を目の前に立ち止まる。
看板が立てられた所には大きな切り株があり、
切り株を中心に4本に道がわかれていた。

ブラボーは僕を見て言った。
「アルファ、この先はどうする?」
「もちろん、行こう」

チャーリーも会話に参加する。
「進むとはいえ、道は4本あるよ。
 どうすんのさ?」

しばらくの間、僕は静かに考える。

バニラに出会ったときの成功体験……
効率良く、時間を短縮できる方法……
勇気を出して決めて行動すれば……

一応考えたものの、今回ばかりは不思議と
こころが決まっているようだった。


「よし!ひとりひとり、それぞれの道を行こう。
 この先に花はきっとある。そうだろ、デルタ?」

「この辺りに花があったと思ったんだけどぉ。
 この先は知らないなぁ」

ブラボーは一気に心配そうな表情をした。
元々八の字眉のくせに、表情というのも不思議だ。
不安そうなこころがきちんと現れている。

「事前に良いも悪いも情報がないけど、大丈夫?
 僕も何も聞いたことがないんだけど。
 チャーリーはどう?」

「ボクもパパから聞いたことない!」

「ほら、アルファも知らないだろ?
 情報を仕入れてから試した方が良くないか?」

「ここまで決めさせておいて……」

僕が途中まで言いかけると、
何かが頭上を飛んでいった。

それはどこか見覚えがある鳥ーー。

「あれは……」



「やっぱり!アルファも見覚えが?
 あの鳥っていつかの朝、
 アルファと僕が話をしていたときに
 パンを盗んでいったヤツに似てると思わない?」

僕も同じことを思っていた。

いつかの朝、まだ僕の右手に
1本の花が存在していたときのこと。

家の前で「花を見ること」について
ブラボーの考えを聞いていた。

ブラボーが出来立てのパンを持って来てくれて
僕に渡そうとすると、空からそのパンを目がけ
盗んでいったあの鳥だ。

そのときと同じように
さっき飛んでいった鳥の口元にも
何か咥えているように見えた。

「何を咥えていた?
 いや、まさかそんなことないよな」

僕の呟きにデルタが反応する。
「花を咥えているように見えたぁ」

「デルタ、カメラは?
 今のシャッターチャンスだったじゃん!」

チャーリーがデルタのカメラを横から覗こうとする。

「……あ、撮ってないやぁ」
「こういうときに限ってなんでだよ!」
右足を強く地面に蹴りつけるチャーリー。

「私、鳥が飛んでいった方の道を進むねぇ。
 花があったら地球に行けるぅ」

デルタは4本のわかれ道から
自ら進むべき道を決め、歩き出す。

「デルタ、待って!
 『ハイルナ モドレ』の看板の所でまた集合ね!」

聞こえていたんだろうか。
デルタはそのまま行ってしまった。

「さあ、僕たちも行こう」

ブラボーとチャーリーは
完全に納得している様子ではなかった。

それでもそれぞれの道に進み、花を探した。



僕が進んだ道はとにかく細く、
一面に広がっている蔦が足に絡みつき、
前に進むことが難しかった。

懸命に進み続けてみたものの、
蔦に気を取られ前を見て歩くことができず、
結局花を見つけることはできなかった。


集合場所に戻ると、僕よりも先に
ブラボーとチャーリーがいた。

「こっちの道にはなかったよ。
 ブラボーとチャーリーの道はどうだった?」

「僕が進んだ道は、
 高い草がたくさん伸びていたよ。
 僕ですら埋もれてしまうくらいさ。
 何度かきわけても目の前を遮られてしまって
 花は見つけられなかったよ」

「ボクの進んだ道は本当に何もない所だった。
 草すら生えてなくて、石ころばっか。
 周りは見通せたけど僕しかいないって感じの道だった!」

「あとはデルタか……」


しばらく待った。
そして辺りが暗くなり始めても、
デルタは集合場所へは戻って来なかった。

「アルファの言っていた集合場所のこと、
 聞こえていなかったのかな?
 ふらっと家に帰っていたりして」

「そろそろボク、帰らないと。
 パパに怒られちゃう」

確かに、デルタはいつも彼女だけの世界に没頭する。
自分の世界を見つけると迷わず進み、
気が済んだら知らぬ間にいつも僕の横にいる。
そういう子だ。

「まぁ、デルタのことだしね」

もしかしたら進んだ道には
カメラに収めたいものが
たくさんあったのかもしれない。
僕には決して入れない、彼女だけの領域だ。


僕たちオトコ3人は
花を探すのはまた明日にしようと
話がまとまり街へ戻った。


今朝の行いと決断が勇敢なものではなく、
無謀だったということにはまだ気がつかず。

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