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一人っ子論の歴史(6)~なぜバッシングされてきたのか

▼今回の記事のハイライト▼

女性が自分のやりたいことを優先すること、もっといえば、専業主婦とならずに仕事をし、授乳する時間がないために粉ミルクばかり与え、結果として育児から遠ざかるのが、一人っ子増加の原因だというのだ。
「一人っ子同士でも結婚後たくさん子どもを産んで両方の稼業を継げば問題ない」

この記事は連載企画「一人っ子論の歴史~なぜバッシングされてきたのか」の第6回です。
▼第1回無料公開しました▼

前回の記事では、太平洋戦争敗戦後、1940年代後半から1950年代の日本における一人っ子論の様子について触れ、戦争以前からあった一人っ子否定論が戦火を乗り越えて戦後に残り、一人っ子の親(特に母親)を悩ませ始めたことについて書いた。

今回の記事では、1960年代、高度経済成長期の日本において、一人っ子否定論に、働く母親へのバッシングや粉ミルク批判が重ねられる様子について見ていきたい。

●一人っ子にするくらいなら子どもは産まない方がまし

高度経済成長。
それは貧しかった日本が飛躍的な成長をとげ、国民全員が中流家庭になることができた時代といわれる。
経済の成長とともに、学歴のある者のみが良い出世コースに乗ることができるようになり、高校、大学への進学率が上がったのも1960年代である。

(みんながみんな幸せな時代など、本当にあるのだろうか。「あの時代はよかった」と振り返られるこの時代だけれど、そもそも、みんなが貧しい戦後すぐにだってお金持ちはいたのだし、経済成長があっても貧困から抜け出せない人たちはたくさんいた。均質化してしまうのはおかしいのである。)

そんな中「大学へ行くだけが幸せではない」と述べた人が、一人っ子言論界にいた。
山下俊郎氏にかわって一人っ子否定論の代表選手となる、心理学者の依田明氏である。
依田氏は、山下氏が初めて出版した一人っ子書籍に書評を寄せた依田新氏の息子だ。
彼は東京大学大学院を修了しているエリートなのだが、子どもの成長においては、大学進学よりも、きょうだいの間で育つことの方が大切と主張していた。

依田氏の主張は、1967 年に出した『ひとりっ子 すえっ子』という本に込められている。
タイトル通り、これは一人っ子と末っ子の成長と教育について、そのマイナス面を強調して触れた本である。

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