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アーカイブ:ゆきがた座談会「白瀧酒造さんと」(後編)

上善如水の誕生

富沢:白瀧酒造より 井口:(株)いせん代表 黒田:地元タクシー会社所属

井口:白瀧酒造さんの代表酒「上善如水」はどのように誕生したのでしょうか?
冨沢:上善如水は今から約30年程前、バブルの真っ只中の頃に生まれました。スキーブームで湯沢も非常に賑わっていたのですが、せっかく湯沢に来ても、若い方が全く日本酒を飲んでくれなかったんです。そこで、なんとか飲んでくれる方法は無いものかと考えたんですね。
まずは見た目の新しさ。今まで日本酒はずっと茶色い瓶を使ってきました。それは直射日光による劣化を防ぐためです。上善如水には日本酒ではタブーとされてどこも使われていなかった「透明瓶」を使用しました。
そして飲みやすさ。従来の飲みごたえとは逆に、さらりとした飲み口、香りの良さにこだわりました。
金曜日の仕事を終えて、湯沢まで高速でスキーにやってくるお客さんの為に作ったのです。昔からの日本酒ファンには「白瀧は金魚が泳げるような酒を作った」とまで言われましたね。
黒田:確かに上の世代の方は、昔ながらの日本酒の荒々しさを好んでいたので「なんだこれ?」という感覚だったように思います。
冨沢:そうなんです。金魚が泳げるような酒というのは揶揄で、戦後に割水の多いお酒が出回り、金魚が泳げるような薄い酒という意味で「金魚酒」と言われていたんです。ですが、女性や若い方には「水のようにするする飲める」と好評で、一気に広まっていきました。
井口:それまで年配層にしか需要のなかった日本酒に革命を起こしたんですね。白瀧酒造さんの名前を知らなくても「上善如水」は知っているという人が多いですよね。そいいう意味ではやはりとてもインパクトがあったんですね。
でも、さっきの杜氏の話に戻ると、日本酒造りは杜氏の専売特許だったわけですよね?いわゆる金魚酒と揶揄されるような新しい酒「上善如水」を造ることに、よく杜氏さんは納得しまたよね。
冨沢:今では当たり前のことですが、上善如水の開発には、いち早くマーケティングを取り入れました。「都会のオフィスで働く27歳の女性に手に取っていただける日本酒とは?」というターゲット層を絞りました。
井口:30数年も前にすでにマーケティングを取り入れていたんですね。
冨沢:実際、杜氏も納得はしていなかったですし、他の杜氏からも「こんな酒を作って恥ずかしくないのか?」とまで言われていたようなのですが「上善如水」がどんどん認知されるようになり、次第に意識が変わっていったんです。今は全国各地でふわっとして香り高い「吟醸酒」を多く見かけますが、「上善如水」がそのきっかけを作ったと言えますね。
井口:日本酒ファンを「上善如水」が増やしたんですね。
黒田:「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」がありますが、その先駆けにもなったんでしょうね。
冨沢:香りを楽しむお酒、という意味ではそうなのかもしれませんね。
お酒の味は水で決まる
冨沢:ちょっとここで、水の飲み比べをしてみましょう。今日は白瀧酒造の酒造りで使う仕込み水と、HATAGO井仙の温泉水、硬水をご用意しました。

上善如水の仕込み水(非売品)
珍しい水の飲み比べ


井口:全然違いますね、硬水はわかりやすいですが、仕込み水はすごく柔らかくて飲みやすい。
タクシー:水の硬度は日本酒作りにどう関係があるんですか?
冨沢:灘・伏見の日本酒に使われる硬水はミネラルを多く含み、発酵しやすいんですね。
なのでどんどん発酵が進みます。キリッと辛みの効いたお酒になります。一方新潟の雪解け水は軟水でミネラル分はあまり含んでいません。味わいとしては辛いというよりスッキリしています。「淡麗辛口」と言われています。
一時期、新潟でも灘・伏見のような日本酒を頑張って造ろうという動きもありましたが、水が違うのでなかなかうまくいかない。「そもそも水が違うのだから、新潟らしい日本酒づくりをするべきだ」という醸造試験場の先生からのアドバイスもあり、新潟県の酒蔵は、改めて新潟らしいお酒造りを追求し始めました。「淡麗辛口」という言葉はその時に生まれた言葉ですね。
井口:淡麗辛口がこのようにして広まったわけですね。
冨沢:飲んでいただいて感じたと思いますが、硬水と軟水でかなり違いますよね。なので当然と言えば当然ですが、目指す出来上がりも違うんです。
井口:なるほど。淡麗辛口の対極は灘・伏見の日本酒になるんですか?
冨沢:そうですね。いわゆるキリッとして辛みの効いた酒は、灘・伏見地域の硬水によるものです。対して新潟の飲み口柔らかでスッキリした味わいは雪解け水の軟水。30年ほど前に淡麗辛口ブームが訪れましたが、その時は主に八海醸造さんや越乃寒梅さんが「淡麗辛口」とPRしたのがきっかけでしたね。
井口:そう考えると新潟は団結していますね。みんなで「淡麗辛口」を目指すべき方向として設定した。一方、上善如水は元々はマーケティングを取り入れて飲みやすい日本酒づくりを目指したんだけど、それが淡麗辛口にもちょうど当てはまったわけですね。
冨沢:そうですね。同時期でした。ではここで上善如水の飲み比べをしてみましょう。上善如水、上善を炭酸水で割って青シソをちぎって加えたもの、です。

上善如水カクテルを作る


井口:青シソの上善、爽やかで美味しいですね。和製モヒートのような。ちなみに日本酒カクテルを初めて開発したのも上善如水でしたっけ?
冨沢:割と早い頃から始めましたね。従来、日本酒というとどれも「こう飲むべし」という飲み方があるのですが、上善如水はクセがないので、いわゆるホワイトリカーのような使い方もできるんです。オレンジジュースで割っても美味しいですよ。
井口:HATAGO井仙でも日本酒カクテルとして上善如水を使って提供しています。次のアペリティフは、青シソのモヒートにしてみようかな。

上善如水の青シソモヒート


みんなで試飲しました


冨沢:ハーブもいいと思います。夏場は特におすすめですよ。
井口:いいですね。今日は白瀧酒造さんの歴史と挑戦を一通り伺いましたが、このカクテルもまさにチャレンジ精神を感じる一杯でした。
参加者(東京より・男性):ちなみに、この辺りでしか買えない日本酒などはありますか?
冨沢:はい、地元の酒屋さんにしか出していないお酒もあります。今の時期だと茶色い瓶に首掛けだけの「無濾過生原酒」通常、日本酒は火入れをして殺菌して作られますが、無濾過生原酒は出来立ての絞りたてをすぐに瓶詰めしている希少なものです。
井口:「無濾過生原酒」はこの時期だけですよね。
冨沢:はい、生産本数も少ないですが。まだ酒屋さんに少し残っているかもしれませんのでお早めに。
参加者(東京より・男性)ありがとうございます。早速探してみます。
井口:ちなみに今日のお酒はまだありますので、この後もゆっくり楽しんでください。冨沢さん、今日はありがとうございました。
冨沢:本日はありがとうございました。

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