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八海山の酒造り ゆきがた座談会アーカイブ

ゆきがた座談会、今回のゲストは清酒八海山で有名な(株)八海醸造さんの製造部長の倉橋敦さんです。富士山のふもと、静岡県出身で発酵の博士でありながら「麹は酒の骨格で品格」「終わらない会社」「日本酒を世界に」「南魚沼地域への愛情」など大変情熱的で刺激的なお話を聞かせていただきました。
聞き手は株式会社いせん代表の井口です。

井口 みなさんこんばんは。今日はみなさんご存知だと思います、この地域の清酒八海山を造っている(株)八海醸造さんの製造部長である倉橋さんにおいでいただきました。八海山さんというともちろん日本酒のイメージがあると思いますが、近年は焼酎や、ビール、最近国際的な賞を受賞して話題になったジンやウイスキー、そしてお手元のあまざけと幅広く手がけていらっしゃいます。その辺りをまず伺って良いでしょうか?

ryugon「幽鳥の間」ではじまった座談会
参加者には「麹だけでつくったあまざけ」がふるまわれました。機能性表示食品になりました

倉橋 みなさんこんばんは。八海醸造の倉橋です。今日はお越しいただき大変ありがとうございます。我が社はお酒、中でも食中酒と言われるお食事と一緒に楽しんでもらうお酒を主に造っている会社です。大正11年創業なので次の9月で103年目です。日本酒の会社としては若い方ですが、おかげさまで100年という節目を迎えることができました。売上の7割が日本酒です。ですが今、井口さんにご紹介いただいたように3割は日本酒でない様々な種類のお酒、そしてあまざけなどアルコールでないものも造っています。
なぜか?と申しますと、私たちが日本酒を作る過程で様々な醸造や発酵に関する技術や知識が蓄積します。それを使って、様々な日本酒そして日本酒でないものもどんどん造ろうというのが我が社の方針です。例えば今日お持ちしたあまざけは、麹造りの技術を応用発展させて造っています。麹菌を利用した初めての「機能性表示食品」になりました。このように私たちの仕事は総合酒類業、または総合発酵業とでも言いましょうか。お酒造りの技術を核に、様々な良い製品を造りたい、私達の商品や地域の文化を外に発信したい。「終わらない会社」にしたい。という思いがあります。

八海山の企業コンセプトについて熱く語る倉橋さん

井口 それではまず日本酒についてお聞きしたいのですが、八海山さんの目指す酒造りってどんなものでしょう?

倉橋 そうですね。酒質で言うと先ほども申し上げたようにいわゆる「食中酒」ですね。食事と寄り添って飽きずに飲み続けられる淡麗辛口のお酒、とも言えるかもしれません。
日本酒を造るには水、地域、人という要素それぞれが大事になります。清酒八海山は近くの「雷電様の水」という岩から湧き出る清水を利用して酒を造ります。酒蔵の使う水って井戸水の場合が多いのですが、水が岩から湧き出るって本当に珍しいです。外国からのお客さんを連れていくと「こんなのは見たことない!」って喜んでくれます。水質も酒造りに最適な軟水で本当に恵まれています。地域もとても自然豊かで良いところです。人ということで言うと、我が社は麹造りは全て人の手で行っています。酒造りが始まる9月から翌年6月まで、毎日1.2トンの麹を手造りします。なぜか。日本酒作りで一番大事なのがこの麹造りだからです。「麹は酒の骨格と品格を造る」というのが我々の共通認識です。
私たちが作っているお酒の主要な数量の銘柄は高級酒ではなく晩酌酒です。ですが最上級の「大吟醸造り」に準じた造り方でそれらのお酒も造っています。ですから毎日飲んでいただくお酒を「この味でこの値段だったらすごくコストパフォーマンスがいいね。」と思っていただければ一番嬉しいですね。

井口 「麹は酒の骨格と品格を造る」ってどういうことですか?

倉橋 そうですね。ただアルコール醗酵をさせるということで言うと、麹は無理に必要ではありません。ただ、同じ度数のアルコールでも麹を使ったものとそうでないものでは全然味わいが違います。麹を使わないと、薄っぺらいというか深みがないというか、我々の知っているお酒とは違う何か、と言う感じですね。逆に言うと麹がお酒に深み、味わいなどの私たちが美味しいお酒に求めているものをもたらしていると言えるかもしれません。

八海山の酒造り「すべての普通酒を吟醸造りに」

井口 なるほど。それでは地域に関してですが、最近ニセコにウイスキー蔵をつくったり、ブルックリンでも日本酒造りをしたりとしていますよね。他地域での酒造りはどんな意味があるのでしょう?

倉橋 そうですね。やっぱり日本酒を世界の人に知ってもらいたい、と言う願いがあります。今日本酒が海外でブーム、とは言われていますが、実際は輸出額はまだ400億円、日本国内市場の10%です。なぜか。世界の人は残念ながらまだ全然日本酒というものを知らない。という現実があります。例えば私たち日本人はビールも、ワインも、ウイスキーも好きです。そして国内でどれも盛んに造られていますよね。そして日本産のそれらは外国でも評価が高いです。日本酒もできれば同じようになってほしい。つまり外国で日本酒好きな外国人が日本酒造りをして、それをその国の人が飲んで楽しむようになってはじめて日本酒が世界でメジャーになったと言えると思います。
だからニューヨークの「ブルックリンクラ」は八海山が行っているのは技術的なサポートです。主体はアメリカ人の2人、金融の仕事をしていたブライアンと、科学者のブランドン、2人とも日本酒好きで本当にいいヤツです。造られる酒の品質も彼らの頑張りと私たちのサポートでどんどん進化発展しています。今年の5月に搾ったお酒はかなりいいお酒でした。

井口 なるほど、八海山さんはあくまでサポート、なんですね。自分たちは技術も経験も持っているので、いろいろ自分で手を出したくなったりしませんか?

倉橋 ここは社長の考えでもあるんですが、アメリカの水と米を使ってアメリカ人が考えて造って初めてアメリカの酒だ、と思っているんですね。最近彼らの造ったお酒で面白いものがあります。ホップを使って香り付けをしていて、ビールのIPAのような柑橘系香りがあります。またホップを入れたことによって綺麗なピンク色なんです。こんなお酒は日本人の発想ではとても造れなく、素晴らしいと思います。本当に自由ですね。
ニセコに関しては、逆にここで日本人が造ったウイスキーというものを、年間20万人と言われる外国人観光客にそれぞれの国に持ち帰ってもらって日本の酒造文化を知ってもらいたい、という思いがあります。

ブルックリンクラのブランドンさんとブライアンさん
ブルックリンクラのお酒。ラベルがおしゃれ
ホップの入った柑橘系の香りのお酒。グラスに注ぐとピンク色に

井口 なるほど日本酒を世界のお酒にしたいと。素晴らしく壮大なプランですね。思えばラーメンも元は中国の料理だったけど、今は日本で様々なアレンジがされて、日本独特と言ってもいいレベルに達しています。外国からも日本のラーメンを目当てにいらっしゃる方も多いです。そのように日本酒も外国で新しい発展をすると面白いですね。八海山さんは地元の自慢の企業ですが、すでにみなさんの目は魚沼から外の世界に向かっているんですね。ちなみに倉橋さんは静岡ご出身ということですが、この地域は移り住んでいかがですか?

倉橋 この地域本当に好きです。南魚沼。私は富士山の見えるところで育ったので、雪と、山と、青空とっていう景色がとても落ち着きます。また人の感じも。なんかいいんですよね。今日皆さんが南魚沼にいらっしゃって、このryugonに泊まって、同じように感じているのではないかなと思っています。

井口 ありがとうございます。地元の人間として嬉しいです。
さて、せっかくの機会なので、皆さんの中から質問がある方はいらっしゃらないでしょうか? 

参加者 今日は旅行でryugonに来ました。先ほど夕食時にいただいた八海山、とても美味しかったです。ところで麹造りは全て人の手でするとおっしゃっていましたが、人間がすることで品質にばらつきとかは出ないのでしょうか?

倉橋 はい。作業は人の手でやるんですが、湿度や気温、材料米の水分量や状態を計測機械と人間の感覚の両方を使って把握して、手作業を含めて微調整することで、いつも同じ品質の麹を造っています。機械で作るとなると製造単位が大きくなりすぎて、逆に細かい状態の把握や調整が難しくなる部分もあります。状態を把握できる量ずつ、人間の感覚と機械の両方を使って品質を保つ、という考え方です。

参加者 お酒のおつまみのおすすめはありますか?

倉橋 これはよく聞かれて、しかも答えるのが難しい質問なんです。私は日本酒って食べ物実はなんでも合うと思うんですよね。先先代の杜氏さんはカレーライスをつまみにお酒を飲むって言ってました(笑)。私は甘党なんで、近くの和菓子屋さん「ことう」さんのお饅頭でお酒を飲んだりしますね。

井口 そうなんですよね。日本酒ってなんでもいけちゃうんです。ワインだとマリアージュって言葉があったりします。逆に言うと合わない料理もいろいろあるってことですよね。でも日本酒はなんでも合う。とんかつでも、カレーでも、餃子でも、スイーツでも。その辺の日本酒の懐の深さというか自由さっていいですよね。今日もそうだけど日本酒だとなんとなく座敷で、みんなでワイワイ打ち解けた和気藹々とした空気になりますよね。そんなところも大好きです。
いろいろ話はつきませんがご参加の皆様、倉橋さん今日は本当にありがとうございました。ここで一度一段落としますが、ぜひ皆さんご都合良い方はここで続きで一杯ご一緒しましょう。(そして座「呑」会はその後も更に熱く盛り上がり続きました)

情熱家の倉橋さんと生産量が一番多い銘柄という「八海山 本醸造」



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