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ゆきがた座談会:青木酒造さん


「鶴齢」「雪男」で名高い青木酒造の阿部さんを迎えての「ゆきがた座談会」。「HATAGO井仙」の囲炉裏を囲んで始まりました。青木酒造さんにはHATAGO井仙のプライベートブランド日本酒「仙七」を作っていただくなど、宿と深い繋がりの酒蔵さんです。酒蔵と農家さんとの関係、日本酒の国際化など盛りだくさんの内容になりました。内容のアーカイブをお届けします。
聞き手は株式会社井仙代表の井口智裕です。

進行役:井口 今日も日本酒についてざっくばらんに色々な話ができるのを楽しみにしています。今日のゲストをご紹介します。青木酒造株式会社 専務取締役の阿部さんですどうぞよろしくお願いします。
入社以来もう28年ということで、営業を中心に青木酒造の中心的な役割を担っていらっしゃいます。青木酒造さんのことを知らない方もいらっしゃると思いますので簡単にご紹介していただけますか?

阿部 青木酒造の阿部です。どうぞよろしくお願いします。
弊社のメインは「鶴齢」というお酒で、そのほかに「雪男」、高級酒の「牧之」との3つの銘柄で酒造りをしています。
ここ越後湯沢の隣の南魚沼の塩沢ということで享保2年1717年に創業しました。
八代将軍吉宗が征夷大将軍になったのが享保元年なので、その翌年に創業したことになります。
実は享保年間の創業の酒蔵はとても多いんです。世の中が平和で景気が良かったのではないかと言われています。
初代の青木源左衛門から今307年目の酒造りをしています。

井口 307年ていうと、新潟県でも吉乃川さんに次いで古いくらいでしょうか?

阿部 創業年がわかるというところで言うと、新潟で4番目と言われています。
登録してないところもあるのでちょっとよくわからないんですけど。。

井口 この地域では実は八海山さんとかは意外と歴史が浅く大正ですよね。と言っても普通の企業ならもちろん大老舗ですが。
前回来ていただいた白瀧酒造さんは江戸末期の1855年で高千代さんもそのくらい?でしょうか。
だからその中では青木さんはかなり老舗ですよね。

阿部 そうですね。ただ昔はもっと酒蔵もあったらしいですよ。
今の酒屋さんもも古いところは元々は作り酒屋だったところが多いそうですね。
戦争などでお酒が作れなくて合併や何かで残っていないところも多いそうです。
うちの社長は今12代目ですけど、現社長のおばあちゃんが戦時中も頑張って毎年酒造りしていたんだよと言っていました。
わずかな配給のお米で作っていたそうです。そしてできたお酒を満州に送っていたそうですね。
また、歴史を紐解くと今でこそ酒だけですが意外と薬も売っていて「はっか油」を取り扱っていたそうです。
大正の写真で薬局の看板とか薬の看板が多いんです。それもあって先代の社長は薬科大学を出ているんですよ。
はっか油ってご存知ですか?虫除けに使ったり今風に言うといわゆるハーブ・ミントですね。

井口 そうなんですか。薬を売っていたとは意外ですね。
お酒の話に戻りまして、青木酒造さんのお酒の特徴を紹介いただけますか?

阿部 もちろんここは雪国、雪深いところなので酒造りにとって環境が良く、まず雪解け水が長い時間かけて土に浸透して、伏流水になります。
それを地下水80mの井戸から汲み上げています。酒造りに良い軟水です。巻機山という日本100名山からの伏流水を使っています。
お米自体もいいお米がとれます。今は酒造好適米として農家さんと契約して「越淡麗」という酒米を多く使っていますね。
越淡麗は新潟県でしか栽培できなくて、しかも新潟の89蔵でしか使えないことになっています。その89蔵のなかで青木酒造が一番多く使っていています。
このお米はきれが良いく程よい味わいがあって僕らが目指している「淡麗旨口」のお酒にちょうど良いんです。
新潟のイメージは「淡麗辛口」ですが、新潟は広いので海沿いには海沿いの、山沿いには山沿いの特色があります。
お酒は食文化と共に育っているのでどこもが淡麗辛口が合うというわけではないですよね。
この辺雪国は、冬場流通が閉ざされるので乾物や保存食文化が色濃く甘じょっぱい味が多いので、酒は旨みのあるタイプが合うのではと私たちは思っています。
また、地域の雪のエネルギーを利用することを考えて300周年の契機に雪室を作って、酒の貯蔵熟成をはじめています。

井口 雪室ってご存知ですか?近くだと八海山さんも大規模な雪室でお酒や焼酎を熟成していますね。
うちでも提供しているアグリコア越後ワイナリーのワインも雪室貯蔵しています。

阿部 今は全てのお酒を全部雪室になっている貯蔵庫でで保存しています。
倉庫はいくつかの温度帯の部屋に分かれていて、商品ごとに保存条件を変えてています。
世界的にもこれだけ人が住んでいる地域でこれだけ雪が降るってのは珍しいんですね。せっかくなので雪を利用しようと考えています。
今年は雪が少なくて雪を集めるのにとても苦労しました。
いつもの年は雪を1回入れたらだいぶ持つんですが、今年はもう溶けはじめています。1年間持たせたいけど今年はどうかな?と思っています。
新潟は去年全国的にも上位に来るほど暑かったので地球環境の変化があるのかもしれませんね。

井口 地域の話題で言うと、新潟はたくさんの酒蔵があって、もちろん同じ地域にも何社も酒蔵があるんだけど、
上手に味で棲み分けしていいますよね。誰が指導したわけでないと思うけど。
例えばこの魚沼地域だったら八海醸造さんと高千夜の酒は淡麗辛口、青木さんは淡麗旨口、白瀧さんはベースは似ているけど独自路線、など。
皆さん自分たちの個性を大事にしていますけど、これって直接酒蔵同士で話し合ったりしているんですか?

阿部 特に会議をしているわけではないんですが(笑)でも、新潟は製造担当者同士のの交流が多いですね。
醸造試験場さんの「新潟清酒学校」で若手が一緒に学んだり、と言うのも大きいと思います。

井口 一応ライバル会社ではあるけど、仲がいいんですね。

阿部 ライバルと言っても、全体に減りつつあるアルコール消費の中でも日本酒自体は一桁パーセントと言われています。
もう日本酒業界全体で一致団結して日本酒の魅力を知ってもらって消費を支えるしか生きていけない。その中で対立しても意味がない、と思っています。
まずはみんなで日本酒を盛り上げたいですね。

井口 今の社長さんは東京で育ったんですよね。

阿部 先代は今の社長のお爺さんにあたります。先代には娘ばかりでした。社長が東京で生まれ育って26歳の時に先代が急逝したんです。
先代の危篤状態で養子縁組をして突然酒蔵を継いだので相当苦労したと聞いています。
そういう意味ではある意味素人でお客様目線を持っていて、それが新しいやり方に良い形で出ていると思います。

井口 青木酒造さんは伝統的な酒造りを守りつつ、新しいこともやりつつで伝統と革新を両方やってる蔵ですよね。
販路も広げていますよね。最近東京でも「鶴齢美味しいよね」って声もよく聞く気がします。

阿部 元々は地元で呑まれる酒がいいと言う考えでやっていて、基本は今も変わらないのですが、現社長の方針で、それだけにこだわると地域の過疎化や飲酒環境の変化で会社が続かない恐れがあるので、
大きな目で見ると新潟県は地元、日本も地元、だから東京も地元、そこにはちゃんと売りましょうということに変化しています。
今は地元、新潟県内、東京がそれぞれ30%ずつです。

井口 世界に売っていこうというのはないんですか?

阿部 世の中の流れはそうですけど、今のところ輸出はそれほど力を入れていないですね。今輸出は全体の4%くらいです。
今の製造量と販路を維持していれば、ウチの規模であれば国内流通だけで会社と雇用を維持して行けるだろうという考えです。

井口 言いづらいかもしれませんが、地元の晩酌酒というか普段消費のお酒は安いですよね。よそから高くてもいいから高級酒を出してよと言われたら?

阿部 それはそうですね。今は晩酌酒の割合が多いですけど、いかに高品質高価格帯のお酒を増やしていくかというのも考えています。
世間のニーズも、家に一升瓶を買って帰ってたくさん飲むという人が少なくなっています。良いお酒を少し飲みたいということに変化しているのを感じますね。

井口 いいお酒を飲むということでいうと、観光という視点はいいですよね。旅行に来て、酒どころ新潟、魚沼にせっかく来たので美味しいお酒を飲みたい、
という需要はあると思います。そういう意味でも宿でもちょっと普段と違う高級なお酒も出していきたいですね。


井口 今日は試飲のお酒を用意していただいたので、いただきながらお話伺いましょう。まずは「鶴齢 純米吟醸」ですね。

萩野(HATAGO井仙スタッフ) 鶴齢の純米吟醸は定番のどんな料理にも合うお酒ですね。私の中ではウッディでムスクのような香りの印象です。
食事のコース中盤の味が濃い料理の時などに合わせていただくことが多いですね。

阿部 いいですね。もちろんお酒の飲み方に模範解答みたいなものはなくて皆さん楽しんでいただければいいのですが、
私たちが言うと技術的なことが多くなっちゃうので、お酒を提供される現場の方の意見は貴重ですね。
この酒はうちの蔵を支えている柱とも言っていい商品です。どんな食べ物にも合う、淡麗旨口を目指しています。


井口 それじゃ皆さん乾杯しましょう。カンパーイ。金額的にもちょうどいいですよね。4合瓶で1500円前後で1ヶ月に何本か買って飲める。

阿部 価格のことを言うと、最近は原材料からなんでも値上がりしているので色々大変です。今使ってるお米は農家さんと毎年契約して仕入れているのですが、
コロナ禍には売り上げがぐんと下がって、製造量も減らした時があったんです。だたその時にもお米は約束した量で全て購入しました。
また、今年は夏の猛暑など天候不順で米作りが大変で、粒が小さかったりだったんです。「等外米」と言って酒造りに使えない米がたくさん出て米の価格が上がる傾向だったんですが、それはいつもの価格で出してもらったりとしていました。
ただ今年から作るお米の値段は諸々の値上がりで原料価格をあげざるを得ないかなというところです。

井口 なるほどそう言うのって地域の支え合い、助け合いですよね。

井口 次が越淡麗の特別純米酒。これは塩沢産の地元のお米で仕込んだものですね。
それから「仙七」。これは僕から説明させてください。
これは実はHATAGO井仙のオリジナル酒で、オープンから18年作ってもらっています。無濾過生原酒と言って濾過をしない、火入れ殺菌もしないで酒本来の味わいが楽しめる美味しいお酒です。宿に泊まってる方しか飲めない、買えないものです。ラベルもありません。他で飲めないので。
青木酒造さんのような立派な酒蔵が、私たちのような宿屋に特別に作ってくれたお酒です。毎年いつも感謝しています。

萩野 やっぱり「仙七」は人気ですね。お客様に提供して期待はずれだったことがないです。皆さん喜んでいただいて、中にはケースで買って行くお客さんもいます。

井口 今年の「仙七」は去年とまたちょっと味わいが違う気がしますね。

阿部 先ほども話したように今年は本当に農家さんが苦労して、米作りが大変でした。だから酒造りも超大変でした。
でも先先代の杜氏も言ってたんですけど「米が良くない年ほどいい酒ができる」と言われてまして、なぜかと言うと米が良くないと蔵人が一生懸命酒造りをするからだってことらしいです。
ワイン等は質の良し悪しは原材料である葡萄の良し悪しがかなり大事なんですけど、日本酒はそれに比べると加工度合いや技術が左右するところが高いので、
どんなお米でも技術による対応次第で良い酒に持っていけるという部分は大きいと思います。それが日本酒の面白さでもありますね。

井口 その農家さんと酒蔵のものづくりのリレーっていいですね。
今年は気候が悪くて米作りに苦労したから酒蔵さん頼んだよ!となって蔵人がなんとか頑張っていい酒にするよっていう。


参加者 質問なんですが、この地元の方って若い方も日本酒お酒飲むんですか?

阿部 ちょっと答えがズレるかもしれませんが、僕は今49歳なんですが、僕らの世代って日本酒のイメージがすごく悪い世代。若い時に罰ゲームだったり一気飲みだったり、
イメージもオヤジ臭かったりで僕らの世代で飲み会で日本酒飲む人って少ないですよね。そして地域というか、今の若い世代って、そのイメージすらない。残念ながらそもそも日本酒と接点がない。って感じます。
飲み会も少ないですしね。ただ、最初に出会う日本酒がすごく質の高いお酒になっているとは思います。安めの居酒屋でも純米吟醸のお酒が出てくるとか。
だからニュートラルに飲んでもらえれば良い体験をしてもらえてると思います。色々な良い酒を飲む機会も得やすいし、恵まれていると言えば恵まれていますよね。

梅澤(HATAGO井仙スタッフ) 私は地元塩沢なんですが、若い時からやっぱり日本酒は青木酒造さん。冠婚葬祭には必ず青木さんのお酒が出てくるんです。
だから若い時から慣れ親しんだお酒ですね。地元の食べ物にも合いますし。やっぱりお酒は食文化と繋がりが深いと思います。

井口 食文化で言うと最近は外国人も日本食をお箸を使って上手に食べるし、そう言う方はやっぱり日本酒もって方多いですよね。海外の方にお酒を飲んでもらうには、食べ物も重要ですよね。

阿部 外国の人も飲む機会さえ増えれば日本酒は気に入ってもらえると思いますよ。日本酒はかなり色々な食材とマッチしますよね。
食べ物といえば、私が去年お酒のイベントでスイスに行った時にチーズを13種類買って蔵のみんなでどれが日本酒に合うか食べ比べしたんです。
というのも、向こうのディストリビューターさんから宿題で、日本酒に合うものを探して欲しいって言うことでした。
ワインのようなマリアージュですね。そうしたら合うものは結構合うけど、これはダメなものもやっぱりありますね。日本色はもちろん合いますが、日本酒に合う洋食の食材も研究中です。
あと、ワインとの比較でいうともう一つ、日本酒はもともと新鮮、しぼりたてが良いという概念があるけど、私たちは日本酒もワインのようにビンテージという価値を作れないかと考えています。
うちには雪室もあるし、貯蔵して熟成した日本酒の新しい味と楽しみ方ができないか考えています。
ちょうど先日、雪室から2018年ビンテージの酒をリリースしました。市場の反応がとても楽しみです。

井口 新潟はかつては団結して淡麗辛口っていうトレンドを作ったけど、今度はエージングで新しい流れ、文化を作るってのも面白いですね。
今日は色々興味深いお話ありがとうございました!


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