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Walkin' Walkin'

突然仕事を辞めた。みんな泣いてくれて、私が辞めないためにどうしたらいいかの話し合いで喧嘩したとか、寂しいからデスクを片付けられないとか。嬉しかった。ケーキももらった。夜中まで話した。
渦中にいる時は会社こそ人生と思い込んでいたが、冷静になると健康で生活が担保されるなら職場なんてささやかなことで、転職活動もただのマッチングなので淡々と断られ、私からも断り、最終的に古くて小さい会社でマーケターとして働くことになった。データを見て企画を出し文章を書き動画を作りデータを見る。ずっとインターネットに居るとこうなる。そこが居心地悪ければもう一社待って下さってるのと、フリーランスでもいいし、どうとでもなるんだな、という感じだ。

久しぶりに長い休みが始まった。
胃痛や眼精疲労などのため鍼灸、遠近両用の眼鏡を作る、銀行回り、家の掃除などの雑務を少しずつこなしている。

引き合わせたかった友人達と集まり、味噌を仕込んだ。大豆を潰して味噌玉にして保存容器に投げ入れるのは何年やっても気持ちいい。当日の朝まで豆の煮具合を動画で送ってもらい厳しくチェックをしたので、みんな美味しいお味噌が秋にはできると思う。食事をしてチャイを飲み音楽を聴いた。プロに淹れてもらったチャイはカルダモンの香りが爽やかで表面の気泡が破れないよう食べるように口の中に運ぶとジュワジュワと弾けて更に香りが立ち美味しい。チャイってこういうことか、と初めて分かった気がした。癒しと活力、相反するようだが同時に存在し得るのだと感じる。
味噌仕込みが終わっても音楽を聴いたり夕飯を食べたりお酒を飲んだり話が尽きることは無く、深夜に家まで送ってもらった。

ロームシアターで石橋英子さんのライブを観た。
濱口竜介監督の新作「悪は存在しない」から繋がる映像が流れ、ステージにはパソコンと機材とフルートが置かれたデスクがひとつ。石橋英子さんが即興で音楽を付けていく。上映の都度違うそうで、映像のリズムや登場人物の心の動きをその場で音楽に変えていく技術、人間離れしているとしか言いようがない。
良かった良かった、と友人と言い合いながら、適当な大衆食堂に入り味噌煮込みうどんを食べた。
人生の終わり方の話をする。

行列のできる洋食屋にカキフライを食べに行った。キッチンにはサラダとパスタが盛られた皿が堆く積まれ、オーダーとともに衣のついた具材がどんどん油に放り込まれ、私たちが入った時はまだ誰にも食事が出されていない状況で、これは待つかもな…と覚悟したが鬼のオペレーションであっという間に提供された。カキフライは爆弾のようで、口の中を何度も火傷するが食べるのをやめられず、涙を流しながら食べる。

もうすぐ関東に引っ越す息子が遊びに来て、スニーカーを買ってやり、夫とドラクエウォークの話で盛り上がり、全員で大正タグボートのライブイベントに行った。田渕さんとても素敵だった。



もちろん映画館にも通っている。

哀れなるものたち ヨルゴスランティモス監督
詳しいことは書けないが、女性の成長を記録した作品。自分の体は自分だけのものであること、他人に束縛、搾取されるべきではないこと。本を読み知見を広げ、自分の道徳心と正義感に従い人生を軌道修正していく様は冒頭と同一人物とは思えない。

バスドゥヴォス監督、初めて。しばらく実家に帰るから冷蔵庫を空にしたい主人公は残り物でスープを作り、配る。そこで知り合う、苔を観察する研究者。スープ飲まない?というお誘い、私もしたいしされたい。お弁当じゃなく、煮物でなく、スープ。そのくらい気軽に人を誘える感じが、とても素敵だったな。スープ作ったんだけど、飲まない?なんて、嬉しいに決まってる。

これもバスドゥヴォス監督。終電を逃して、家に帰るための方法を探しながら夜中のブリュッセルを散歩する。人を助けて、犬を助けて、冒険は続く。

アリ・アスター監督の新作。友達とレイトショーで観に行き、ボー然と深夜解散して、公式の解説を読み、2度目を観に行き、やっとおもしろいと思う余裕を得た。ゴール地点が分かってやっとストーリーが入ってくる。内容は何も言えないが、全力疾走するホアキンがかわいいので観た方がいい。アリアスターの中で一番好きだ。

そして今日は、シネヌーヴォの小津安二郎特集
「その夜の妻」と

「長屋紳士録」

迷子か捨てられたか定かではない子供を、笠智衆演じる田代が拾ってくる。面倒だガキは嫌いだ、と長屋のみんなで押し付け合いになるが、というお話。

ここ、本当に目と鼻の奥がツンとして、よく分からない感情で苦しくなる。痺れる、とでも言うんだろうか。


モラトリアムは来週まで
あと少し、遊んで暮らそう。

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