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東京と伝染病

先週は東京出張があった。赤羽に宿泊し、鰻を食べた。初めて新文芸坐に行って「サンライズ」を観た。
1927年のものなので、youtubeに全編アップロードされている。
不倫相手に、奥さんを殺して!と言われ、のぼせ上っている夫はその通り殺そうとする。妻は殺意に気づき逃げる。偶然他人の結婚式を見かけ、改心する夫は、妻に花束やパンを捧げ関係修復を希望する。みたいな話。
音楽はついているが声の無い作品で、サイレント映画を観たことがなかったので心配だったが、その分、俳優の表情が豊かでとても良かった。おもしろいシーンしかない。小ネタ満載でフリがきいててちゃんとオチていた。
人間がおもしろいって思うことって、ずっと変わらないんだな。

翌日は朝から品川で巨大ECサイトのイベントに参加。東京の担当者と大阪の担当者と、システムのサポートと、他の新規出店者の方など、大勢の人に会い、挨拶をして喋る。
サービスごと、会社ごとのブースを回って、今までオンライン上でしか会ったことのなかった人に沢山会って、オフ会でもあった。無理やり時間をやりくりして、何度も打ち合わせを重ねる。システムのサポートの方は特に、何十時間も一緒に作業をし苦楽を共にしてきたので初対面な気がせず、夜遅くまで今後会社をどうやっていけばいいかの話を、腹を割れるだけ割って話した。オーバカナルでチキンを頼んだら半身が来て「私の家は土用の丑の日にチキンの丸焼きを食べるので、切り分けるの慣れてます。」と手羽先と手羽元と胸肉とモモ肉に分けくれた。

沢山の人に会うのは疲れるし大変だが、誰の話を聞いてもおもしろい。上司が行けばいいのでは、と思ったが、人の話を聞くのが得意な人が行ったほうがいい。厳密には、人の話を聞いて、誰にでも伝わるように編集してアウトプットできる人が行かないと意味が無い。
清潔で、パワハラもマンスプも無く、気の利いたジョークを織り交ぜながら1日色々な人の話を聞いて回り、毒が抜けた気がした。
小さい会社で働き続けること、ラクだし楽しいが世間からどんどんずれてしまうので、よい機会をいただいた。

新幹線の終電を逃し、イベントのせいでどこのホテルも満室なので横浜で一泊。安いので変な部屋だった。
ボディソープのボトルが2本あり、片方に赤いマジックで力強く”shampoo"と書いてあった。友人に風呂場の写真を送ったら「いやな感じがする」と言い出したので、おばけの話はやめろ、と伝える。隣の部屋から携帯が振動する音が聞こえた。

翌日帰阪後、すぐ出社。学んだことをみんなにシェアし、吐きだし、パンパンだった頭のリソースをあける。私が伝えたかったことは全部伝わった手ごたえがあり嬉しい。
寝不足で疲れも溜まっていて極端に物覚えが悪くなっている。あの、あれ、赤い、あ!そうイチゴ!とかになっている。

久しぶりの自宅に戻ると、子供たちが飛び出してきて「咳が出てしんどいのにパパが無理やり学校に行かせた」と言う。計ると38.8で、泣いてしまいそうになる。
おそらくインフルエンザだろう。
翌日が土曜だったので往診を呼び、陽性が出てタミフルをもらった。
39.9度。医者は解熱剤を飲ませなくてもいいと言うし、理屈も分かるが、親として燃えるように熱いわが子を抱くのが恐ろしいのだ。本人が「しんどくない~たまに咳だけ」と言うので、とりあえずタミフルだけ飲ませて寝かせ、一晩隣で見守る。

朝起きると私もガサガサの声になっていて怠く、つらくて早く起きてしまった。予防接種をしているから発熱しないが伝染している気がする。
タミフルの効果はすさまじく、子供は平熱に戻っていた。夫に「俺は寝るから買い物に行ってきて」と言われて、途端に全てに絶望し、がっかりし、タミフル服用している娘を残して買い物に行くこともできないので初めてネットスーパーを利用した。こうやって、できることが増えていく。初対面の人と笑顔で喋るのも昔はできなかった。私が器用に見えるのは、辛い思い出が多いからではないのか。
子供を任せられると思っていたが、本当はただ傍観して時間がきたら適当なものを食べさせているだけで、何かトラブルが起きたら対応できない。これは育児参加なのか。時代がどんどん変わる最中で、他人と夫は「よそのパパはそんなことしてくれない」など私を贅沢だと思うだろうが、私にはそうは思えない。

昨夜、ケリー・ライカート監督「ミークス・カットオフ」を観た

荒野と光がとても綺麗で見とれてしまう。徒歩のロードムービー。近道を知っているから付いてこい、と言うミークスを信じて移民団を離れたが、横柄なミークスにみんなの不満は募っていき、次第に何も信じられなくなる。本当に道は合っているのか、本当に水は飲めないのか。ゴールを見失い、道であるかも分からない道を何日も歩き続ける家族。

不安のなまま、足を進めるしかない。

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