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桜の妖精 6

別れの日。
 
駅のベンチで電車を待つ。
「本当にありがとう。楽しかったよ。君に逢えて良かった」
「私も。来年、またここで待ってる」
 
連絡先を聞こうとして、携帯を取り出した手を、桜花が止めた。
「そういう繋がりじゃなくてもいいでしょう?私達。いつでも連絡出来たら、再会の楽しみがなくなっちゃう」
「・・・わかった」
「逢えない時間が愛を育てるって、ねっ?」
悪戯っ子のような桜花の微笑。
その代わりにと、桜花は手紙をくれた。
 
「そろそろ行かなくちゃ」
僕は手紙をリュックに入れて立ち上がった。
電車がゆっくりと近づいてくる。
 
扉が閉まる瞬間
「桜花、ありがとう」
そう伝えると、扉の向こう側で眼に涙をいっぱいためている桜花の姿があった。
彼女の周りに、桜の花びらが舞い落ち
(桜花の涙だな)
と思った。
 
彼女の姿が小さく消えていくのを見届け、座席に座ると、リュックから手紙を取り出した。
そこには、僕に対する感謝の気持ちと住所が書かれていた。
そして最後にお願い事が一つ。
二人で撮った写真を送ってほしいと。
 
 
東京に戻ったら、すぐに写真を送ろうと思っていたが、日々の雑事に追われてなかなか返信できずにいた。
ようやく返信できたのは、夏が終わりを迎える頃だった。
 
その後、彼女からの連絡はなかった。
 
季節は巡り、もうじき約束の春がやってくる。
桜の開花に合わせ、僕は昨年と同じ旅程を決めた。
ホテルも同じ場所に予約した。
 
(もうすぐ桜花に逢える)
そう思うだけで、心が高鳴った。
 
「なんだ、逢えない間に、愛、しっかり育ってんじゃん」
思わず声に出て、苦笑した。
 
そして、僕はまたこの場所を訪れた。
一年前に桜花と出逢った、約束の桜の木のもとへ。


 

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