静かに進行するBRICS+

中ロの世界構想:BRICS+
先日、岸田首相がウクライナを電撃訪問する同タイミングで、中国の習近平総書記がロシアを訪問しました。世界の注目が岸田首相に逸れてしまった感がありますが、世界全体からすれば、中ロのこれからの意図を読み解く方が重要です。その声明には、彼らの新しい世界構想がおぼろげながら表現されているからです。

中ロの世界構想に関する指針*は、以下の通りです。
・国際法を遵守し、機能不全の国連改革を進める
・内政不干渉の原則を尊重する
・核兵器を使用しない
・持続可能な成長を目指し、多国間協力を推進する

少々解説しましょう。国連安保理では中ロとも拒否権がありますので、結局は何一つ進まず、国連を機能不全にするということでしょう。内政不干渉は、欧米に対し、台湾をたきつけ、中国からの独立を目指させようとする動きへのけん制で、事あるたびに中国が使用するレトリックです。さらに、欧米が中ロを独裁国家と非難するので、これに対する反対声明とも理解できます。ここまでは過去にもよく言われていたことです。

注意が必要なのは、ここからです。核兵器の不使用は、興味深いです。ウクライナ戦争でプーチン大統領が核使用の選択肢をちらつかせている最中に、中ロ共同声明で核不使用を謳うのですから。完全にプーチン大統領の核兵器使用の可能性発言は、単なるブラフであることが分かります。

次に、欧米は民主主義を押し付けたがりますが、中ロはどのような政治体制であろうと気にせず、多国間協力を進め、共に持続可能な成長を目指すということです。これなら、どんな独裁国家や寡頭政治国家でも、反対しません。そして、中東や中ロのお膝元の東アジア、中央アジアのほか、アフリカにも言及している点が興味深いです。そして、多国間協力の組織体として、BRICS+挙げています。

ご存じの通り、BRICsとは、ブラジル、ロシア、インド、中国をエマージング市場としてゴールドマンサックスが投資家向けレポートで作った造語です。その後BRICは何度かサミット会談を開いていたのですが、2015年に南アフリカが正式に入り、BRICSとなりました。そこへ、最近拡大化傾向を見せています。昨年の拡大会議(BRICS+)に、アルジェリア、アルゼンチン、エジプト、インドネシア、イラン、カザフスタン、セネ
ガル、ウズベキスタン、カンボジア、エチオピア、フィジー、マレーシア、タイの13か国が参加しています。**そこで、中国はこの組織体が途上国と新興国を代表するとし、G7と対抗意識を見せています。また今年BRICS+に、インドネシア、パキスタン、エジプト、カザフスタン、サウジアラビアが正式加盟の見込みと報じられています。***

ここで興味深いのは、中ロに従おうとする国ならどこでも入れるというわけではなく、各地域の準大国級を基準にしている点です。国家規模がある程度あれば、いい投資対象になるともいえますが、純然たるGDPで比較しているわけではないので、政治的な選別が行われていると考えた方がいいでしょう。

では、BRICS+に参加するメリットとは、何でしょう?基本的には、中ロがG7を除外した別世界経済圏を構築しつつあるので、そこにも入っておこうというリスクヘッジによるものでしょう。加えて、政治体制について不問ですから、政治を持ち込まずに経済提携であるとしてアクセスしやすいでしょう。(独裁国家でも、国民全体が経済的により豊かになれば、反乱の危険性は下がります)

20世紀後半であれば、途上国には資金、輸出市場、技術の全てかいずれかが不足しており、富裕国(G7)が提供する条件を呑み、友好関係を築くか、独裁国家、失敗国家などと罵倒され、富裕国優位に動いていたわけですが、21世紀の今日は違います。G7は既に世界GDPの3割強でしかなく、G7以外の国々で資金、輸出市場、技術を全て賄えます。事実A
IIB設立翌年の2014年時点で、南南貿易額が南北貿易額を2.2兆ドルも上回ると報じられています。****

そして、その南南貿易に使用される通貨が、基軸通貨の米ドルやユーロではなく、人民元やロシアのルーブルだったらどうでしょう?BRICSは既にその仕組みづくりを完了しています。

2013年中国が中心に立ち上げたアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立の際には、日本でも話題になりましたが、これとは別にBRICS+が2015年に新開発銀行(NDB)を立ち上げました。いわば、AIIBが世界銀行なら、NDBはIMF、ともいうべき、中ロ版ブレトンウッズ体制を立ち上げています。

すなわち、BRICS+内の通貨安定のためにNDBがあり、準備金は米ドルの他5Rと言われています。(当事国の通貨が、Renminbi, Ruble, Rupee, Real, RandとすべてRで始まるため)そして、AIIBがBRICS+経済圏へ融資するのです。いわば、今までG7が南北問題に真剣に取り組んでこなかったツケが回ってきたとも言えます。すなわち、この経済圏の拡大に比例し、世界需要が減るため、基軸通貨としての米ドルやユーロの価値は下落
していきます。そのうち日本も、エネルギーやの食糧を5Rのいずれかでしか輸入できなくなるのかもしれません。

但しさすがに現在のところ、基軸通貨として、5Rの国際信用力は力不足です。その場合、通貨の価値を担保するもの、それはゴールドです。アメリカも戦後当初からニクソンショックまで米ドルを基軸通貨とするため、金本位制(中央銀行が通貨とゴールドとの交換を保証する制度)としていました。それと同様のことを考えているのでしょう。しばらく前から中国が米ドルを売り、ゴールドを大量購入していると噂されていました。

恐らくその噂は事実のようで、既に2022年中国のゴールド保有量は、1.4万~3万トンとアメリカ連銀の金準備金(約8千トン)を上回っているという人もいます。*****(但し、中国の中央銀行の金準備金は約2千トン)

黒幕は誰だ?
さてここまで見てきましたが、著者は中ロの構想に違和感があります。なぜなら、中国やロシアらしくないからです。中国の場合、東アジアの延長線上にある一路一帯構想や九段線なら分かるのですが、唐突に世界の裏側のブラジルや南アフリカに触手を伸ばすのは不自然に感じます。また、ロシアにしてもそのような世界戦略があれば、ソ連時代にもっと南米やサハラ以南に深く接触していてもおかしくありません。

世界地図を広げ、友好関係を作るべき国はどこかと当たりをつけ、それまでの関係の濃淡に関係なくアクセスするのは、中ロらしくありません。

そこで、改めてBRICsを提唱したのは誰かを考えてみましょう。それはユダヤ系金融機関のゴールドマンサックスです。そしてこれらの4か国をエマージング市場として売り出しました。しかし、実際2001年の提唱からこの20年間、13%の伸び率を見たのは中国だけで、インド、ロシアは5%以上の伸びを見せましたが、ブラジルは3%程度です。******後付け理論ではありますが、インドネシア、ラオス、ミャンマー等他に有望な候補国
があったろうに、と思います。

また、たかがアメリカの一大手金融機関がBRICsを造語された程度で、当事国の首脳が集まるのも、ちょっと必然性が分かりません。むしろゴールドマンサックスに招待、指名されたと言った方がいいのかもしれません。そして知恵を付けられたのでしょう、自国の金鉱を掘れ、ゴールドを買えと。最初はアメリカがアフガン、イラク戦争を始め体力を消耗しているので、米ドルの準備金を高く持っているより、ゴールドの比率を上げておいた方がいい、という程度だったかもしれません。そのうち、いよいよアメリカ経済はおかしくなっていきそうだから、新興国や途上国との間で経済圏を作ったらいいですよ、その中で機能するブレトンウッズ体制の作り方をご指南しましょう、お仲間をご紹介しましょうと、NDBやAIIBが設立され、南アフリカが加わったのかもしれません。

事実、BRICSのインド以外は、金埋蔵量が非常に高いです。世界1位はオーストラリアですが、ロシアは第2位、南アフリカは第4位、ブラジルは第7位、中国は第8位です。*******(インドは鉱物資源が豊かで、昔からゴールドを掘り続けているせいか、今日採掘可能な埋蔵量は低いですが、今後の技術革新次第ではまた浮上する可能性はあります)

さて、世界中でこのような大規模にゴールドを買え、掘れと一番いいそうなのは誰でしょう?それは、イギリスのロスチャイルド家以外にありません。200年以上もこの家が実質世界中のゴールド価格を決めていたのですから。そうした知恵を中ロに付けたのが、彼等ならとてもしっくりきます。

但し当然ですが、彼らはとても巧妙に動いています。まず2004年にゴールド価格を決めるカルテル(ゴールドフィックス)から突然手を引き、********全世界を驚かせました。そして10年後の2014年にこのカルテルは談合の罪に問われ解散の体をした上で、改めて全く仕組みが同じで中国を仲間に入れたカルテル、ロンドン貴金属市場協会(LBMA)として再スタートしています。200年以上ゴールド価格を決めてきた仕組みに対して公
正取引ではないと解散させるという茶番劇は、恐らく中国を入れるためであり、このスキャンダルやその後の事件にロスチャイルド家が関与していないというアリバイ作りでしょう。

しかし、ロスチャイルド家がうま味のあるゴールド価格決定ビジネスから手を引くのは、さらに大いなる計画の一段階にすぎないようにも思えてなりません。中ロ他のゴールドをできるだけ産出させた後で、ゴールド価格を一気に暴落させるか、5Rを一気にゴールドに交換せざるを得ないような状況を作り、中ロがやむなく吐き出したゴールドを、ロスチャイルド家が丸ごと取得し、かつゴールド価格決定カルテルに返り咲くというような筋書きが用
意されているのかもしれません。相手が相手なだけに、後でどんなちゃぶ台返しがあるものやら、分かったものではありません。あるいは、素直にアメリカの単独覇権では扱いにくいから、ライバル組織を作って、冷戦Ver2.0として両方を操りたいという思惑なのか、先の展開が読みにくいのは確かです。いずれにせよ、BRICS+の動向には今後注意が必要です。

*Chris Devonshire-Ellis, “The Putin-Xi Summit – Their Joint Statement and Analysis”, March 22, 2023.
https://www.china-briefing.com/news/the-putin-xi-summit-their-joint-statement-and-analysis
**遠藤誉「習近平が発したシグナル「BRICS陣営かG7陣営か」」、2022年6月26日
***Yaroslav Lissovolik, “BRICS reaching out to PEAKS: the next wave of expansion”, February 11, 2023.
https://moderndiplomacy.eu/2023/02/11/brics-reaching-out-to-peaks-the-next-wave-of-expansion/
****Raj M. Desai and James Raymond Vreeland, “What the new bank of BRICS is all about”, Washington Post, July 17, 2014.
https://www.washingtonpost.com/news/monkey-cage/wp/2014/07/17/what-the-new-bank-of-brics-is-all-about/
*****Liam Hunt, “Gold Reserves by Country (2022): An Unbiased Ranking and Review”, Gold IRA Guide, September 8, 2022.
******世界銀行データを基に著者が試算。https://data.worldbank.org/
*******U.S. Geological Survey, “Mineral Commodity Summary 2021”, 2021.
https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2021/mcs2021.pdf; World Gold Council website, “Gold mining: India gold market series”, March 17, 2022. https://www.gold.org/goldhub/research/gold-mining-in-india-gold-market-series
********The Rothschild Archive website.
https://www.rothschildarchive.org/business/n_m_rothschild_and_sons_london/rothschild_and_gold


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