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揺らめき移り変わる「普通」と「特別」

「児童養護施設の検索結果をよりグラデーション豊かに」というテーマを立てて更新したnoteが5ヶ月前…!?施設に対して考えることが日々積み重なりつつ、筆が重くなること重くなること…。

 はい、ゆきちかさんです。不登校児童が「今日から復帰します」と学校に来た時の気持ちでいます。これがまたすぐ休んじゃったりするものだから、「この間から復帰した自分はどこ行った?」と処理能力を圧迫して日常動作すら重くなる。「一個記事書いて、またお休みするともっと重たくなるよね」「ぐはは、好きで始めておいて自縛するのウケる」「滑稽だからやってみよう」…とまあ、何とも懐かしい感覚と自問自答しています。

 はい、えーと、何を話しましょうか。児童養護施設の仕事、面白く続けています。何が面白かというと、「普通」と「特別」の間を行ったり来たりするプロセスが面白いです。プロセスの渦中にいる人、自分を含めて全体が面白いです。

 最近考えていたことを書いてみます。

「普通」と「特別」の関係性を考える

 社会の中で、自分と血の繋がりがある家族同士で暮らす人に比べて、そこから離れて別の場所で暮らす子どもは少数派です。施設に子どもを預けている親御さんも同様に少数派。「普通ー特別」の物差しで計ろうとしますと「特別」に近い存在になります。
 施設のやり方も多様ですね。少人数で構成される「家庭的」な生活と、多人数で構成される「集団的」な生活…という分け方をするとして、今はどっちがより「普通」でどっちがより「特別」なのか。「施設というか社会的養育の前提を問い直そうぜ」という議論が進んでいる今、本当に微妙なところにありますね。

 多くの人に共有される「普通」は、「特別」に比べてコミュニケーションコストを小さくする便利さを有しています。
 つまり、言わずともわかりやすい、サクサク集団で動ける、流れに乗りさえすれば雑多な面倒事をせずに済む、そんなお得な点があると思います。
 「特別」は、そんな「普通」に水を差します。せずに済んでいたコミュニケーションをせざるを得ない状況に陥れます。「特別」を弾き返して、それまでの「普通」を守るか、「特別」を取り入れて新しい「普通」に変えるか、という「特別」扱いの仕方を決定するためのコミュニケーションです。

 施設の話を使った例えとして、おやつの話をしてみます。

 結構な大昔(といっても数十年前)、うちの施設には「おやつ」の文化はなかったらしい。お菓子の存在は「特別」だった。それを毎日食べる「普通」に変えるには議論が必要だった。おやつ代が出せるかという切実なところもあったらしい。ただ周囲の一般家庭では「普通」になっていて、「え?おやつ、ないの?」と「特別」な目で見られる世の中になった時、議論は起こったようだ。おやつのありがたみを忘れることが危惧されたのではないかと想像する。
 議論の結果、おやつは「普通」に取り入れられた。だけど毎日食べるおやつが「特別」であると思われている間は、苦手なおやつであっても、食べ残す自由はなかった。
 毎日のおやつが「特別」なものとして思い出されない「普通」になった頃、おやつを食べ残して良いかどうかが議論された。苦手なおやつであっても、断れば残して良い「特別」が許されるようになった。
 その内、「苦手なおやつの日はほとんどおやつが食べられない」という子どもに対して、別のおやつを出すという「特別」も議論され、それも「普通」にまで辿り着いている。
 結果、「おやつがない」という日はもはや無くなり、「特別中の特別」へと遠ざけられた。新任職員が煙たがる、施設長やベテラン職員の昔話の中にだけ、かつての「普通」の感覚を残して。※私はもちろんありがたく聞いたw

 「特別」を「普通」にするプロセスと、「普通」が「特別」に追いやられるプロセスが同時進行で起きていて、コミュニケーションはずっと続いていきます。特別を手に入れることと、普通を失うことの両方が起きるので、入手を見る人と、喪失を見る人との間でエモい議論が起きます。余裕がない中での議論ほど紛糾する。自然の摂理ですね。

 コミュニケーションを通して、自分が変わることもあれば、環境の方が変わることもあります。自分がコミュニケーションを拒否して自分の「普通」を貫いても、環境の方が変われば自分は「特別」の側へ追いやられてしまいます。
 逆に、コミュニケーションを拒否し「特別」になった人の言葉に水を差された環境の方が新たな変化に向かうこともあると思います。誰であっても、あるひと時の「普通」を「特別」に帰さずにはいられない。何か一つを絶対化しようとしても、できるだけ長く継続させようとしても、無理が生じる。変わりゆくものと共に行く、というのが良いよなあ、と思います。

 さて、この後しばらくは、「普通」と「特別」の循環、というか位相変化?を元に、子どもが施設で暮らすことがどうなっていくか、家族の形がどうなっていくか、みたいなことをグラデーション豊かに描きたいと思います。今日はこれにて!

ゆきちかさん

自分の好きな施設に訪問して回りたいと思います! もしサポートがあれば移動費と施設へのお土産代に費やします!