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#2 少年の日の思い出

「うわぁぁぁ〜〜ん」

   朝7時。ヤマダ家にユキチ少年の泣き喚く声が響いた。2階で寝ていた弟と、父はなんだなんだと階段を降りてきた。
   ユキチ少年は母の腕に包まれて、恥ずかしげもなく泣いていた。

━━何故、泣いているのか。
   

   ごはんを食べていると、勝手に涙が溢れてきたのだ。服の袖がびしょびしょになるくらいの大量のしょっぱい水。なんだコレは…と、うろたえていると母親に見つかってしまった。何度もあくびをする振りをして、誤魔化す。だがしかし、次第に誤魔化せなくなり、次の瞬間には母の腕の中に飛び込んでいた。

   の前には母の服、そして泣いている自分。何故泣いているのか、当時の僕も、今現在の私も分からない。

ナニモ分からない。そして抑制

   と弟の目覚まし時計の代わりになった私の泣き声。自分がその騒音の元ということは分かっていた。分かってはいたのだが、その泣き声の主が自分ではない誰かだとと私は思ってしまった。何故かは分からないが…。

   の後、泣いて楽になったのか、人が変わったようにケロッとして朝ごはんを食べ、少年野球に行くことにした。

   「覚まし事件」があってから、私はもうこんな恥ずかしい事はしないと、大きく取り乱したような言動は取らないと、心に強く誓った。
   恐らくこの時の誓いが、これから10年間の心の抑制を選ばせたのだろう。

特に好きでもない野球

「いい子ちゃん」のできあがり

   それからというもの、全てをそつなくこなし、勉強も中の上、問題児と言われることはない。「いい子ちゃん」のユキチ少年ができあがりだ。(ただ、やはり心の片隅に、「これは本当の自分ではない」という気持ちがあった)

  思えば、この異常事態の時に自分の気持ちを吐露しておけば…と思ってしまう。
両親を恨んでいる訳ではない。むしろ感謝している。私の情けなさが、今の自分を作りあげているのだ。

  して、「いい子ちゃん」は親の期待に沿う形でそこそこの高校、そこそこの県外の大学に進学した。

to be continued...  】

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