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禁じられたチカラ 【R-TYPE 1987】

横スクロールシューティングゲームには、「御三家」と呼ばれるタイトル群がある。タイトーの「ダライアス」、コナミの「グラディウス」、そしてアイレムの「R-TYPE」である。

1987年に発表されたR-TYPEは、その完成度の高さから人々に驚きを持って受け入れられた。なぜなら、アイレムというメーカーに対する一般人の認識は、それまで「ファミコン版スペランカーを作ったところ」くらいの程度で、アーケードゲームではかろうじて「怪傑やんちゃ丸」がヒットした実績があるだけだった(このころまだ大工の源さんはない)からだ。一応、スパルタンXや、ロードランナーなど、他のメーカーがファミコン版を発売したにも関わらず、実はアイレムがアーケード版を出していた知名度の高いゲームは多々あるのだが、サードパーティ契約の関係上、その時期にはアイレムはファミコンソフトを発売していない。ちなみに、「スパルタンX」のファミコン移植版を任天堂が発売するときの貸しで、アイレムはファミコンのカセットに発光ダイオードを搭載することを許されたらしい。どういう取引だ。


R-TYPEは、STGだけでなくゲーム業界全体に衝撃を与えた。

まず注目されたのは自機の攻撃システムである。「フォース」と呼ばれる、無敵の着脱可能な、しかも自機から切り離した時も独自のアルゴリズムで敵を攻撃することの出来る、戦略上とてつもない可能性をもたらしたオプションがそれだ。

このフォースは自機であるR-9が何度やられようが決して破壊されない。敵のノーマルショットは無限に防いでくれるし、耐久度が一発の敵は体当たりでガンガン倒すことが出来る。しかも、切り離しボタンを押すと勢いよく飛んでいく「フォースシュート」を使うことができ、フォース自体のパワーアップ(三段階)状態によって、切り離し中にも3方向にノーマルショット攻撃をすることが可能なのだ。

R-TYPEはいかにこのフォースをうまく使いこなすかが攻略の鍵で、時には自機から切り離した状態で、自機とは別のルートを進行させて攻略することすら必要になってくる。当然その時の自機は無防備であるため一発であの世行きだ。プレーヤーはフォースと一蓮托生であることをゲーム中に何度も思い知らされることになる。さらに、一部の耐久力の高い敵やボスの弱点などには、フォースシュートを行うことによってフォースを「食い込ませる」ことすら出来る。この「無敵のオプション」というギミックが業界にもたらした功績は大きい。

R-TYPEは一般のSTGと違い、自機は殆どパワーアップしない。ステージ中に出てくるパワーアップクリスタルを取ると、フォースは成長するが、自機は基本的にスピードアップとミサイルアイテムを取った時にミサイルが撃てるようになる程度の強化しかされない。では、R-TYPEの自機はへっぽこなのかというと、そんな事はない。むしろ、素の状態ならばSTGでは最強の部類に入る機体だろう。何故ならば、自機であるR-9は「波動砲」をデフォルトで装備しているからだ。

R-9は、ショットボタンを押しっぱなしにしていると画面下部のゲージが溜まっていき、任意のゲージ量までためたところでボタンを離すと強力な貫通力を持つ「ため撃ちショット」を放つことが出来る。これが当時のプレーヤーには本当に衝撃的で、実を言うと波動砲は見た目に反してそこまで強くない兵装なのだが、インパクトが大きいせいか皆バンバン使うのだ。そして、ゲームセンターには波動砲がたまる音の「ぎゅいーん」と、発射するときの「ぼひゅん!」というSEが鳴り響くことになる。実のところこの「ため撃ちシステム」はR-TYPEが初出ではないのだが、この作品の与えたインパクトがあまりにも大きかったため、その後STGのみならずRPGのような、まるで別ジャンルの作品にすら取り入れられていくことになる。

R-TYPEの革新はそれだけにとどまらない。ステージ構成においても、後のSTGにフォロワーを続出させたシチュエーションがある。それが「巨大戦艦」だ。ステージ3は画面からはみ出すほどの大きさの戦艦「グリーン・インフェルノ」との戦いなのだが、これがまた強大なインパクトで、後に出るあらゆるSTGが雨後の筍のごとく巨大戦艦を登場させていったのだった。

そして、これはあまり知られていないことではあるが、自機の当たり判定はコクピット部分の1ドットしか無い。これは後の世の弾幕シューティングに採用される方式で、これにより苛烈な弾幕も何故か避けている的なことが起こりうる。とはいえ、R-TYPEは弾幕ゲーではないのでその恩恵は感じにくいかもしれない。

ここまでは、ゲームシステム面からR-TYPEが革新的である部分を書いてきたが、実のところそれらは全て前座だったりするから驚きである。では、R-TYPEが最も革新的だったのは何か、それはこのゲームが有する「機械と生物的ななにかが融合した異形の存在が跋扈する異様な雰囲気」だ。

R-TYPEは、当時大ブームを巻き起こしていたH.R.ギーガー的な世界観に影響されてはいるが、そのグロテスクさはやりすぎなほどに独特で、あくまで逸話だが2面のボス「ゴマンダー」をデザインした女性スタッフが社長から無言で精神科の電話番号を手渡されたという伝説が残っている。それくらい、このゲームに出てくるボスたちは強烈な個性を放っている。そして、後のシリーズでグロテスクさは、デザインだけでなくゲームの設定の隅々にまで及んでいくのだ。


R-TYPEの敵は「バイド」と呼ばれる存在だ。初期のシリーズでは「バイド帝国」などという表記があり、設定が安定していなかったが、1991年の会報誌に載った設定が、後の公式設定になることになる。それはこういうものだ。

それは26世紀の人類が生み出した惑星級の
星系内生態系破壊用兵器のなれの果てであった。

銀河系中心域に確認された、明らかに敵意を持った
外宇宙生命体との接触に備えて建造されたそれは、
反応兵器や次元兵器と異なり空間を汚染することなく、その効果範囲における全ての生態系を破壊する局地限定兵器であった。

月とほぼ同じ大きさのフレ-ムの中に満たされた、
すべてを侵蝕し、取り込み、 進化して、自分以外の生命体すべてを喰い尽くすまで活動を続ける人の手による絶対生物、それは、生体物理学、遺伝子工学、魔道力学までも応用して合成した人工の生ける悪魔だった。

これをバイパスパイルを通じて空間跳躍(D-wape)させ敵の母星の存在する星域に送り込み全滅させる計画は完璧に進んでいるように見えた。
だが、ほんの些細なミスによって"それ"は太陽系で発動した。
150時間荒れ狂った"それ"は次元消去タイプの兵器によって異次元の彼方へ吹き飛ばされ、一応の決着を見たのである。26世紀では。

だが、"それ"は生きていた。
異次元の中で進化を続けながら胎動を繰り返す肉塊。
気の遠くなるような彷徨の果て、時間を乗り越え、その力の発現した先には22世紀の地球があった。

そう、R-TYPEの敵であるバイドは、未来の人類がどうしようもなく敵対的な存在を葬るために生み出した、究極無比の破壊兵器だったのだ。そして、26世紀の人類が確認したという、「明らかに敵意を持った外宇宙生命体」でさえ、22世紀に飛ばされて、それから数百年間人類と戦い続けたバイドの末裔である可能性すらある。

人類はバイドを殲滅するために、アステロイドバスターと呼ばれていた小惑星破壊用の宇宙船を改造し、波動砲を装備させて軍用機に転用した。さらに、深宇宙探査隊が持ち帰った高エネルギー物質「バイドの切れ端」を改造し、あの無敵のオプション「フォース」を作り上げた。そう、人類が手にしたバイド討伐の最終兵器は、同じバイドから作られた禁断の兵器だったのだ。

バイドは遭遇するもの全てを侵食し、同化していく。スタートレックに登場するボーグのように、機械であろうが生命体であろうが次々と同化して、自らに取り込んでいく。それは、シリーズの自機であるR-9ですら例外ではなく、R-TYPE FINALでは、プレーヤーはバイド化したかつての自機と戦うことになるのだ。

R-TYPEの世界では、バイドを倒すために人類はあらゆる手段を講じる。その為には倫理にもとる行為もいとわない。パイロットを四肢切断して直接精神接続したり、23歳の女性を幼児固定して搭乗させたり、脳みそのみをコクピットに載せてみたり… とにかくバイドをこの宇宙から消すためならどんなことでもする、それがR-TYPE世界の人類なのだ。それほど彼らは追い詰められているということになる。

1987年のリリース以来、数々のハードウェアに移植され、続編が作られてきたR-TYPEシリーズだが、STGとしての歴史は2003年の「R-TYPE FINAL」をもって幕を下ろした…かに思われた。そう、誰もがそう思っていたのだ。

2019年4月1日。アイレムの後継会社の一つであるグランゼーラのウェブサイトが更新された。エイプリルフールに異様に力を入れることで有名(だが最近は鳴りを潜めていた)だったこの会社のウェブサイトである。そこに「R-TYPEがついに復活する」と書かれているのを目にしたファンの誰もが、「エイプリルフールだよね?ネタなんだよね?」と、信じたい気持ちを必死に抑えながら、4月2日に日付が変わるのを待った。

私も、どうしても落ち着かなくて4月2日の深夜からしばらくの間グランゼーラのウェブサイトを見守っていたが、いつまでたっても「R-TYPE FINAL2」という冗談めいたタイトルのページが削除、あるいはネタばらしされる気配はない。そして、ついにグランゼーラ公式Twitterアカウントから、16年ものあいだ聞きたくて仕方のなかったプレスリリースを聞くことが出来た。そう、R-TYPEはついにシューティングゲームとして現代に復活を果たすのだ。それも、クラウドファンディングで資金を募集するというではないか。

Kickstarterを利用したクラウドファンディングに私は出資した。プランは、デジタル版の購入と、サウンドトラック、そして、スタッフロールへの名前の掲示だ。小学生の頃からシューティングゲームをプレイし続けて、まさか自分の名前がゲームのエンディングに登場する日が来るなんて夢にも思わなかった。

グランゼーラの定期的な報告によれば、「R-TYPE FINAL2」のリリースは2020年末。あと1年程度待てば良い計算だが、正直グランゼーラには無理をしないでじっくりと作り込んで欲しい。我々の前にR-9の帰還を約束してくれるのなら、私は無期限で待つ覚悟がある。その代わりに、最高のR-TYPEをこの手に届けて欲しい。

令和の世になり、ファンにとっては待望の、そして人類にとっては絶望の日が訪れるまで、私はいくらでも待とう。

そう、私はとうの昔にバイド化シテイルノダカラ…

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