2023/12/31 とりとめのない雑記

 今年も終わるなぁ、と大してしみじみとも思えないくらいの気持ちで迎えた大晦日。朝はおばあちゃんに頼まれた買い物をしにスーパーに向かった。

 年末のスーパーは楽しい。店中がもう新年迎えましたと言わんばかりにお正月の飾りつけでいっぱいになって、カニだ肉だ鯛のおかしらだかが所狭しと並べられている。人も結構いる。師走は何年経とうと忙しいものらしい。
 いつもは躍起になって割引シールをチェックする僕も多少気が大きくなっていて、でっかい海老天をいつもじゃ買わない値段で買った。年越しそば用の天ぷらだから高いのは仕方ない。パートのおばちゃんも無限に天ぷらを品出ししていた。

 メモを片手に、ぽんぽんとカゴに放っていく。天ぷら、日本酒、仏花、丸餅、白みそ、歯磨き粉……。最後のはおばあちゃんの必要なやつ。歯磨き粉なのにめっちゃくちゃしょっぱいやつ。塩を歯に付けて磨くよりまずい。
 一通りかごに入れて、レジに並ぶ。死んだ魚のような眼をしたおばちゃんと素早いレジ打ちには目を見張るものがある。ポイントカードハオモチデスカレジブクロハヒツヨウデスカサンバンデオシハライクダサイ。呪詛。年末まで働いてくれてありがとうございます。

 家に帰って冷蔵庫に荷物を入れて、それからおばあちゃんの様子を見た。おばあちゃんは横になることが多くなった。でも横になったところで眠いわけじゃないのでしんどそうだ。まぁ体調が良かったらね、と昨日から話していたから、一応聞いてみる。
「喫茶店でも行こうか?」
「行く」
 即答だった。それから時間をかけて頑張って立ち上がった。食欲があることは何より安心だ。人は食欲のためなら元気になれるみたいだし。

 僕の肩より低い身長の、しわしわで小さいおばあちゃんの手を引きながらお気に入りの喫茶店に向かった。喫茶店は『年末年始も営業します』と心強くも店員さんの気持ちを慮ってしまう張り紙がしていた。僕らはいつもの、といってもたまたま空いてるだけだけど、端のテーブル席に座った。
「一口でええねんけどな、どっちも食べてみよか」
 そういってランチのサンドイッチセットとホットサンドセットを指さした。この店のサンドイッチはコメダ珈琲並みにでかい。残りを食べるのは誰や思ってんねんとは思うけどそんなこと言わない。食べたいなら食べれるだけ食べたらいいよ。僕はどちらも注文した。

 やってきたのは相変わらず量の多いサンドイッチとコーヒー。ヨーグルトまでついてくる。
「ランチのサービスで、当日お代わり無料なんですよ」
 店員さんがにこにこして教えてくれた。喫茶店で食い倒されると感じたのは今日が初めてだった。
 とにもかくにも、おばあちゃんはサンドイッチもホットサンドも一欠片ずつ食べた。ゆっくりと、すこし咽ながら食べるのを僕ははらはらしながら見つめる。あれ、たまごの部分要らんの?
「たまご苦手やねん」
 いや注文するとき「たまごとツナ」って言うたの自分やんとは思うけどそんなこと言わない。食べたいものだけ食べたらいいよ。僕は残りと除けられたたまごの部分を食べきった。

 家に帰ると満足したらしく、おばあちゃんはまた横になった。僕も満腹なままこたつに入り込んだ。こたつは本当に危険だ。いつでも数分入っただけで眠気を誘ってくる。夜ご飯作らなきゃなとかいろいろ思ったけど、その思考も溶けてそのまま昼寝した。寝返りするたびに足がこたつの天面に当たって煩わしかった。

 夜はビーフシチューを作った。大晦日にビーフシチュー?と思われるかもしれない。僕も思う。でも何故かおばあちゃんの家に来るとハンバーグとか洋食ばかり作ってほしいと言われる。ほんとは好きなんだけど、あんまり上手く作れないらしい。その点は僕に任せてほしい。一人暮らしで炊き出しみたいな量のビーフシチューを作るのが得意だからね。しっかり1時間半くらいかけて煮込んだ。ついでに年越しそばのだしも作っておいた。

 おばあちゃんはビーフシチューを半分くらい残してしまった。途中で気道だかの変なとこに入って咽ちゃったらしく、「ごめんな」と呟くおばあちゃんの骨ばった小さな背中をさすっていた。今までそんなことなかったもんね、自分でもこんなんじゃなかったのにって思ってるもんね、しんどいよね。残りは明日食べるからって言ってたから、一応ラップして冷蔵庫に入れておいた。謝んないで、美味しいって言ってくれたからそれで良いんだよ。

 一通り洗い物も終わったからタイムラインを見ていた。今年は○○頑張ったとか、来年は××頑張るっていった明るい話題で埋め尽くされていた。いいな。いいね。そうだね。きっと。そう思える年にできたなら、きっとそれはあなたの力ですよ。よく頑張りました。
 自分は今年一年どうだっただろう。そんなことを、年末だけじゃなくて毎日思っていたような気がする。ううん、なんか今年は疲れたなって思ったよ。来年こそは、みたいな言葉でうやむやにしていこうかなとも思うけど、なんか違う気がするな。こうして一年が終わって、また数時間後にはその延長戦が始まるんだろうか。それも悪くないけどね。でもまぁ。

 来年は、後悔しない年になるといいな。それくらいの願いなら七福神の神様たちも許してくれる気がする。

 本年も貴方が僕を覚えていてくれてありがとうございました。
 皆様、よいお年をお迎えください。

 2023/12/31 結城雪也

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