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日記「歳をとりたくない」

コンプレックスのひとつは爪。蜆みたいに不格好でおまけに薄いから伸ばすとちょっとした拍子にべろりんと裏返って痛い思いをする。若い頃は甘皮を押したり剥いたりして少しでも綺麗な形に整えてマニュキアを塗っていた。マニュキアを塗れば薄い爪を伸ばしても補強される。

それでも常に深爪状態でいたのは、ピアノを弾くとかちかち音が鳴ってしまうことと、こねこね料理をすると爪と皮膚の間にこねこねが入ってしまうこと。家事をすれば上手く塗れたマニュキアもすぐに剥げてしまう。気付けばマニュキアは夏の素足シーズンに足の爪に塗るだけになっていた。

安いマニュキアを安いからと試しに買ってもどうも色がしっくりこない。それにどうせすぐに剥げてしまうからと安いマニュキアを買う癖がついた。たくさんの色を楽しめるのも安いマニュキアさん達のおかげではあるのだが。

今は服もコスメも安くて可愛い物がたくさんある。形も色も豊富。そんな安い物達を纏って鏡の前に立ってみるとなんとも滑稽なる自分に愕然とする。肌の色に馴染まない色、体型に合わない服。歳相応という言葉は好きではないが歳相応という言葉が似合わない。

10月の誕生日。娘から誕生日プレゼントをもらった。母の日と誕生日には必ず何かをプレゼントしてくれる娘。娘忖度なしに私に合った物や欲しかった物を絶対に外さない。普段の会話から私らしさを見つける能力に長けている優れた娘である。そんなこんなで爪とマニュキアの色に悩んでああでもないこうでもないと言っていた私にお高いマニュキュアをプレゼントしてくれた。自分ではこのお値段でマニュキュアを買うことはまずない。早速塗ってみると塗りやすいし乾きやすいし剥がれにくいし発色も良いし、何しろ色がぴったり好みの色で歳を重ねた手に似合う。歳相応という言葉の重みを感じる。

先日、娘が通う大学の学園祭が行われた。行くつもりはなかったのだが娘から保護者が結構来てるから来る?とお誘いを受けた。娘は学園祭の実行委員で忙しいらしいが行ってみることに。娘にもらったマニュキアを伸ばしかけの爪に塗る。服装は背伸びし過ぎずカジュアルに。

キャンパスは若い大学生らで華やかだ。若いという装飾品をもう纏っている。歳をとることに恐怖すら感じてしまう圧倒的なオーラがあっちからもこっちからも漂ってくる。混雑したキャンパスでやっと娘に会えると来て来てと腕を引っ張られる。いつも話に聞いている〇〇ちゃん〇〇くん達を紹介される。みんな明るく元気に挨拶してくれる良い子ばかり。ふと思う。娘は友達に母親を紹介するのが嫌ではないのだなと。寧ろ紹介したいようなのである。そうか。娘にとって私は友達に紹介しても恥ずかしくない母親なんだ。急に嬉しくなって顔が火照ってしまう。更年期特有の火照りとは違う火照りが胸のあたりをくすぐる。

帰り道、せっかく都心に来たのだからとデパートをふらつく。歳をとりたくない。とはいえ歳相応に私らしくいればそれでいい。こっそり高級なデパコスのアンチエイジング化粧品を購入し、11月にしては暑すぎる車内で額の汗を拭った。

#日記
#更年期

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