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メタバース×青空文庫~PD(著作権切れ)コンテンツの可能性~

1.メタバース×青空文庫

読書好きの方においては、みなお気に入りの読書スペースを持っているように思うが、そこに仮想空間が加わる可能性がでてきている。

こちらはバーチャル空間(VRChat内)で青空文庫を読むことができるシステムである。
そもそも青空文庫を知らない方のために簡単に説明しておくと、青空文庫とは既に著作権が切れた文学作品などを集めテキストデータ化し、無償・自由利用可能なものとして公開されているデジタル・アーカイブの一つである。
(青空文庫では現在1万6000冊以上の本を自由に読むことができる。)

この青空文庫をバーチャル空間内に、いわば自分の本棚として設置し、自由に好きな場所で読めるようにしたシステムが上記の「青空文庫システム」である。
その魅力につき制作者であるスズキさんは以下のインタビュー記事においてこう語っている。

例えば、雨の日に家の中で雨音を聞きながら。例えば、夕焼けに照らされた電車に揺られながら。例えば、朝マズメの湖で釣りをしながら。VRChatには既に沢山の人々が各自の理想の世界を作っていますから、本に合った世界で読書をするのも面白いかもしれません。(一部抜粋)

VR空間に“自分の書斎”が持てる 「青空文庫システム」誕生 1万6000冊以上から読書が可能

あらためて言うまでもなく、読書においてはいかにその世界に没入できるかが重要な要素の一つであるが、この現実世界の多くの場所では、否が応でも無粋な光や音が入ってくる可能性がある。「いっそ本以外何もない空間で思う存分読書に没頭したい」読書好きの方ならこう思ったことは一度や二度ではないだろう。

その点においてメタバース(仮想空間)内というのは、これ以上うってつけの環境はない。上記インタビューでも語られているように、各自の理想の世界で思う存分読書を楽しむことが可能である。

たとえばこの「草原の図書館」で、好きな本を好きなだけ読める。幸運にもそんな時代が既にきている。

2.メタバース×PD(パブリック・ドメイン)コンテンツの可能性

今後メタバースの可能性を探る上で、こうした著作権切れ(PD:パブリック・ドメインなどと呼ばれる)作品は極めて重要になってくるだろう。

まさに上の読書の例などは、パブリックドメイン作品を集めた青空文庫というデータベースが既に自由利用可能なものとして存在していたおかげで、作者や出版社といった権利者に許可をとるコストも不要で素早く活用でき、最高の読書環境がメタバース(仮想空間)内にできる可能性をいち早く示すことができた。

もちろんこの青空文庫は、呼びかけ人で推進役であった富田倫生さんをはじめ多数の作品を愛する方々が、ボランティアで一字一字入力するといった途方もない作業の上に、使い勝手のよい公開データベースとして成り立っているものであり、改めてこうした青空文庫に携わる全ての方々に敬意と感謝の意を表したい。

本来メタバース内で何らかのコンテンツ(映像、アート、音楽などのライブイベント、ゲーム、デザインなど)を公開しようと思うと、通常はそうしたコンテンツに含まれる著作権をはじめとする無数の権利者との間での権利処理と呼ばれる作業が必要となる。
こうした権利処理というのは(特に過去生み出された)コンテンツ利用にあたっては、しばしば極めて困難な問題として我々の前に立ちはだかり、誤解を恐れずに言えば、通常はそうした権利処理コストを払ってもなお採算のとれる見込みのあるコンテンツ以外は、永遠に眠ったままという事態もありうる。

そうした時間的・金銭的な権利処理コストはメタバース×〇〇の可能性を自由にかつ手軽に探る上では一つの障害になり得るものであるが、いわばこうした権利処理コストが不要で、自由に活用できるコンテンツこそがパブリックドメイン作品である。

まさにメタバース×青空文庫が新しい可能性を示したように、私の乏しい発想では思いもよらないメタバース×既存コンテンツの可能性を皆で自由にアイデアを出し合い、パブリックドメイン作品を利用しつつ試行錯誤していけたら、もっと楽しいコンテンツ体験が待っているのではないかと、そんな未来が実現することを(やや他力本願的に)期待しながらこの記事を書いている。

…と、ここまで書いたところで、そもそも著作権切れ(パブリックドメイン)作品かどうかをどうやって判断すればいいんだよという声が聞こえてきそうなので、以下簡単にご紹介。

3.著作権の寿命について(その計算方法)

この著作権の寿命のことを著作権法では「保護期間」という。
著作権の保護期間が終わると、その著作物は誰でも自由に利用可能となるのが原則である。

この保護期間が終了した作品のことを上では著作権切れ(パブリックドメイン)作品と呼んでいたわけだが、それではパブリックドメイン作品をフル活用しよう!と思ったときのために、簡単に著作権の保護期間の計算方法をご紹介しよう。

…といっても、実はこの計算方法、信じられないほどの例外の上に成り立っており、はじめて保護期間を考える方がそうした例外も含め完璧に理解しようと思うと困難を極める。
そこで、ひとまずここではこの手順さえ知っておけば保護期間が明らかに終了しているものや、明らかに保護期間中であるものを選別することはできるだろうという検討順序を紹介する。ぜひこちらを参考にパブリックドメイン作品をフル活用してもらいたい。(田島 佑規)

①著作者の死亡の年(匿名・変名・団体名義は公表の年)から 50 年後の年の末日を計算する。
②①の計算の結果が 2017 年までのものは、保護期間満了(いわゆる著作権切れ、パブリックドメイン)
(例:著作者が 1964年 7 月死亡の場合は、①の結果が 2014 年 12 月 31 日 となり2017 年以前であるから、既に保護期間終了)
③①の計算の結果が 2018 年以降のものは、同年 12 月 29 日の著作権法改正により更に20 年、保護期間が延⾧されるため、原則として 2022 年時点ではすべて保護期間内。
(例:著作者が 1969 年 10 月死亡の場合は、①の計算によると 2019 年 12 月 31 日となるので、20 年延⾧され 2039 年 12 月 31 日まで保護期間内。)
④外国作品の場合、以下の事情により、国内作品よりも保護期間が延びたり、逆に保護期間が短くなったりする場合があるため、極めて古い時期の作品であって明らかに保護期間を満了しているもの(100 年以上前に著作者が死亡している作品など)以外は、別途検討が必要な場合あり。
⑴ 戦時加算
 戦前・戦中の連合国の作品は、戦時下にあった期間については、特例法により一定の日数分、日本での保護期間が延びる。
例:主要な連合国の戦前作品の加算日数(概ね 10 年強)
 米・英・豪・カナダ・仏など:3,794 日/ブラジル:3,816 日/オランダ:3,844 日/ベルギー:3,910 日/南アフリカ:3, 929 日/ギリシャ:4,180 日
⑵ 相互主義
 本国での保護期間が日本より短い外国作品は、「相互主義」により本国での保護期間終了と共に日本での保護期間も終了。
例:イラン(死後 30 年)/中国、インドネシア、マレーシア、エジプト、UAE など(死後 50 年)

※その他、写真の著作物や映画の著作物については、上記以外に別途検討を要する例外もあり。

保護期間のごくごく簡略な検討順序(2020年現在。他にも例外などはある。)


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