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すぐに"NO!"しない大切さを教えてくれた人

今でも尊敬している、大好きな先輩がいます。
会社員時代に大変お世話になった方。

当時私は30歳くらいで、その会社に転職して2年くらい経ったころ。
社会人としてそこそこ働き、その会社にも慣れて、仕事ではっきりと自分の意見を言えるようになっていました。
そんな自分にちょっとした誇りを持ちつつ、ちょっとだけ酔い始めていたかもしれません。

同僚とふたりで主に担当していた主催イベントは会社の目玉で、大きなプレッシャーとやりがいを感じながら必死で取り組んでいました。
当時の上司は非常にユニークなアイデアマンで魅力的な方でしたが、自分のアイデアの実現可能性については私たちに考えさせるという形をとっていました。

ある夜、残業中に上司から、とあるアイデアを実行したいと話がありました。
そのアイデアの元には大きな誤解があり、どう考えても実行には大きなリスクが伴い現実的ではないとすぐ思いました。
私たちは端的に、それは実現できない、と、理由を話しました。
残業続きで疲れているなか、なんでそんな無理なことを今言うのかと、ふたりともイライラしており、少しきつめの言い方だったかもしれない。

上司はふたりが話すのを聞いたあと、
「あなたたちは、私の言うことを否定してばっかり! 柔軟性のないつまらない人間だわ」
と怒りました。

忙しいときに勝手に誤解して実現できないアイデアを投げつけておきながら、つまらない人間だと吐き捨てるように言われ、悔しくて悔しくてPC画面を睨みつけながら涙がこぼれるのを必死で我慢しました。
誰のせいでこんなに仕事が立て込んでいると思ってるのよ!!

その後上司が帰ったあと、同じく残業していたその先輩が、意気消沈する同僚と私に
「ちょっと遅いけど、1杯だけ飲んで帰る?」
と、声をかけてくれました。

お店で、しょんぼりする私たちに先輩は語りかけました。

「ふたりの言うことは何も間違ってなかったと思う。でも、あの人に毎回真っ向勝負で正論だけぶつけても、ふたりが壊れてしまうだけだよ」

「その場で相手のアイデアを否定する必要はないと思う。一度、なるほどそんなアイデアもあるんですね、検討してみます、て答えたらいい。それで2日後くらいに、検討してみたんですけどこういう理由で難しいと思うんですって言ったらいいんだよ。そうしたら、上司もアイデアを一度受け止めてもらって満足するし、しっかり検討してくれたっていういい印象につながるでしょ」

ものすごく大きな鱗が、目からぼろんと落ちました。

私は、すぐにジャッジができてはっきりと自分の意見を述べられることこそが、仕事ができることのように勘違いして思い込んでいました。
先輩のアドバイスは、誰も不快な思いをせずに同じ結論を導き出せる、すばらしいアイデアだと感じました。

それから早速アドバイスどおりに実践しました。
すると、その日から世界が変わりました。
上司との仕事がスムーズになっただけでなく、仕事やアイデアに対する姿勢そのものが変わりました。

すぐにジャッジせず、アイデアを一度受け入れて検討する。
先輩のアドバイスは最初、その場をうまく切り抜ける処世術のように響きましたが、それだけじゃなかった。
第一印象では難しいと思われたアイデアでも、本当に落ち着いて検討してみることで、新しい方法や道筋が見えてくることがある。

私のなかで、アイデアに対する思考が「これは実現可能か?」ということから、「どうしたら実現できるか?」に、だんだん変わっていきました。

はじめは、実現不可能だということを上司に納得してもらうために考えていたことが、話しながら「こうすればできるかもしれない」という考えが湧いてくるようになったのです。

これはとても大きなことでした。
自分の人生でやりたいことに対しても、「どうしたらできるかな」と考えるほうが気持ちがいいし楽しい。
「こんなの無理に決まってる」と思ったらそこから一歩も動けないけど、「どうしたらできるかな」と思ったら、できることから動き出すことができる。

私の生きる姿勢までも変えてくれたあの言葉に、10年以上経つ今でもものすごく助けられています。
あの先輩のような仕事人になりたい、と、ずっと思い続けているのです。

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