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「プラン75」がもし本当にあったら2

前回に続き、映画「プラン75」のお話です。
(注・映画のネタバレも含みます。) 

改めて、映画のタイトルでもある「プラン75」は、
「75歳以上の国民が自らの生死を選択できる」
という架空の制度です。
 
この映画の早川千絵監督は
6/28(金)のTBSラジオ
「アシタノカレッジ」に出演し、
ライターの武田砂鉄さんが
映画のことや監督ご自身のことについて
とても丁寧に質問されていました。
 
そもそも監督がこの映画を
作りたいと思ったのは2017年。 

「それまでの10数年くらいの間に
『自己責任』という言葉が
すごく聞かれるようになり、
社会的に弱い立場の人たちへの不寛容が広がり、
「助けを求めたくても求められない人たちが
すごく増えていると思った。
 
『世の中の空気がとても冷たくなっている』
と感じ、
この映画のアイデア浮かんだ時に
『今のままだと(PLAN75のようなことが)
日本で起きてしまうんじゃないか』
と思った」
と話していました。
 
その後も自己責任論や生活保護バッシング、
政治家や著名人の発言に憤っているうちに、
2016年の夏に障害者施設の殺傷事件が起き、
監督は
「一線を超えてしまった」
と衝撃を受けたのだとか。
 
「自己責任ということに違和感を持っていても
その言葉がすごく浸透していて、
どんな大変な思いをしていても
『自分が悪い』と思ってしまう人が多いのでは」
と感じた監督は、4年くらいかけて
何度も脚本を書き直したのだそうです。


その間にコロナ禍になり、
「世界中が不安になっているのに
さらにその不安を煽るような映画を
作っていいのか」
という葛藤もあり、
「ただ問題提起するだけじゃなく、
自分の願いを
この映画に込める必要が
あるんじゃないかと思った」
とのこと。
 
そして、
「こういう映画を作ろうと思っている」
と70-80代の方達に話して見ると、
「こういうのがあった方がいいと思う」
「そういう選択肢があった方が安心だ」
という人がかなり多かったそうです。
 
そして、その後に続く言葉は100%全員が
「人に迷惑をかけたくない」
だったとか。
 
倍賞千恵子さんが演じる主人公のミチもまさに
「人に迷惑かけちゃいけない」
というタイプの人でした。
 
78歳で1人暮らしの彼女は
仕事も失い、住むところも失いそうになり、
彼女なりに手を尽くした最後に
プラン75に申し込みます。
 
申込者は1日15分、
コールセンターのスタッフと
会話をすることができます。
 
実はこれは
「申込者が途中で気持ちを変えることなく
最期の日を迎えるための死のサポート」。
 
河合優美さんが演じる遥子も、
このコールセンターのスタッフ。
 
主人公の美知は遥子を「先生」と呼びますが、
コールセンターの
新人研修らしきものを見ていると、
遥子達スタッフは特に専門家ではなく、
アルバイトのような形で集められた
一般の方達のよう。
 
新人達を指導する女性は、
「お年寄りっていうのは寂しいんです。
みなさんがうまく誘導してあげなくては」
と優しい口調で伝えますが、
それは申込者達が気持ちを変えずに
死に向かうための誘導をする、ということ。
 
何気ない話をする相手もいないミチは
遥子との電話の中で
夫との思い出話などを
楽しそうに話すのですが、
規定の時間になると無情にブザー音がして
ミチは名残惜しそうに話をやめるのです。
 
最初はその仕事に
おそらくなんの疑問も抱いていなかった遥子も、
自分が担当したミチと最後の電話をして
「いつもおしゃべりできるのが、嬉しかった」
と言ってミチが電話を切ったあとは
涙をこぼします。
 
もう一人、市役所?の職員として
「プラン75」の
申請窓口で働くヒロムは、
気持ちの優しい、仕事熱心な公務員ですが、
物語が進むにつれて
自分のしている仕事の意味に気づいていきます。
 
「彼らは最初は仕事だからやっている。
 
無自覚で、非人間的なシステムに
加担していることに気が付かず、
悪気もなくやっている
そのことに彼らがふと気がついて
人間的な感情を持ち、
自分たちが歯車の一つになっていることに
気がつく。
 
その気づきが一つの希望になっているのでは」
と監督は語っていました。


また、この映画には
現場でプラン75のサービスに関わる人たちは
出てきますが、
この制度を決めた人など
権力側の人は出てきません。
 
監督は
「顔の見えない誰かが決めていて、
どこにあらがえばいいのかもわからない」
状態を見せるために、
そういった人たちは
あえて出さないと最初から決めていたそうです。
 
そのような人たちは
生活に困らないだけのお金もあり、
この制度を利用することは
ないのかもしれません。
 
この制度を選ぶ人は財政的に厳しく、
頼れる家族もなく、住むところもなく、
他に選択肢がなくて選ぶ人が
多いのかもしれません。
 
でも、そんな人たちが
安心して暮らしていけるようにするのが
国の仕事なのではないのでしょうか。
 
プラン75はこの先の人生に不安のある高齢者に
「何の心配もなくなりますよ」と
優しい顔をしながら
国がその方達が生活できるように
サポートする代わりに
その方達を死に導き、
国の負担を減らすような制度です。
 
厄介なのが「親切そうな顔」をして
不安な思いの高齢者に近づいていくこと。
 
武田砂鉄さんは
「圧倒的悪意でなく、形上は『善意』として放たれているから
『あなたのため』と言われると受け入れてしまうところはある。
 
その善意の暴力性のようなものを
強く感じる映画だった」
と語り、監督も
「この映画を作るときに
『これは優しい顔をした暴力である』
と思い、描いていこうと思った」
と話していました。
 
見る人の年齢や状況によっても、
この映画の感想は大きく変わると思います。
 
それでも、わたしは人には
「生きたい」という本能的な気持ちが
あるのではないかとも思うのです。
 
「生きたい」と思う人が、
慎ましくとも穏やかに
暮らせる社会であってほしい。
 
そう願わずにはいられません。
 
長くなりましたが、
今回も最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。


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