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そして、映画は唐突に終わる。「The Princess プリンセス・ダイアナ」

前回ご紹介した映画「The Princess プリンセス・ダイアナ」は、様々な困難を乗り越えた後、新たな人生を歩み始めていたダイアナ妃の死で終わります。

ダイアナ妃が亡くなった1997年8月31日、わたしは英国にいて夜行バスでリバプールからロンドンに戻った朝に彼女の死を知りました。

英国の方は特に、あの日何をしていたか、自分がいつダイアナ妃の死を知ったか、忘れないと思います。

ダイアナ妃は深夜に事故に遭い、早朝に亡くなったのですが、深夜起きていた人たちは、いち早くニュースを聞いていたのでした。

映画の中で、その日に一般の方がたまたま撮影していたらしい映像が。


テレビを見ながらゲームをしていた男性たちは事故の第一報を知った後もまさか亡くなるとは思わず談笑しつつゲームを続けているのですが、その後もどんどん速報が。

「ダイアナ妃が亡くなった」と知ると悲鳴のような叫び声をあげ、ゲームもやめ、みんなでテレビに見入るのです。

きっとそのほかにも、次々に入ってくる速報にショックを受けながら朝を迎えた人たちもいたのでしょう。

そして、ダイアナ妃が亡くなったあの日から葬儀までの悲嘆にくれる人々の様子、人々が供えた花、花、花・・・。

当初すでに王室を離れていたダイアナ妃に対して弔意すら示さなかった王室、さらには君主制に対して国民が反感を募らせる様子も描かれるのですが、特に印象的だったのは葬儀の映像でした。

ダイアナ妃の葬儀の様子は何度も報道されたので誰しも目にしたことはあると思います。

でも、大抵の場合、沈痛な音楽やナレーションがついていました。

今回の映画で、まるでその場にいるかのようにナレーションも音楽もない葬儀の映像を見ていると、静寂の中で、教会の鐘の音とともにダイアナ妃の棺を乗せた馬車の馬の蹄の音が響き、号泣する人の声も聞こえるのです。

突然母を亡くし、世界中が見守る中で葬儀に参列したウィリアム王子(当時15歳)とヘンリー王子(当時12歳)の心境はこの映画の中では語られていませんが、ヘンリー王子は2017年の「ニューズウィーク」のインタビューで、このように話していました。

「母が亡くなったばかりだというのに、私はその棺の後ろについて長い道のりを歩かなければなりませんでした。

何千人もの人々が私を取り囲み、テレビでは何百万人もの人々が私を見ていたのです」

「どんな状況であっても子どもにこのような行為を要求するべきではないと思う」

そして、その葬儀の映像でこの映画は終わるのです。

その終わり方はやや唐突に感じられるのですが、この映画は過去の実際の映像でできているのでダイアナ妃が亡くなり、その葬儀が終わった時点で、もう新たな彼女の映像が出てくることもないのです。

あの事故でダイアナ妃の人生が突然に終わってしまったことを実感する終わり方でした。

また、この映画のポスターなどには
「彼女を本当に“殺した”のは誰?」
とあります。

映画の中では、撮影中の取材者のカメラに
「マスコミが彼女を殺した」
という言葉を投げつける男性が。

確かに、ダイアナ妃が亡くなるまでエスカレートし続けたパパラッチの執拗な追跡はあってはならないことでした。

公務の場や、マスコミの取材が許されている場面だけでなく、完全にプライベートの部分にまで付きまとい、通常なら気がつかないような離れた距離からも常に高性能のカメラが彼女を狙っています。

そのストレスたるや、どれだけ大きかったことでしょう。

チャールズ現国王の
「注目される立場を割り切らないと、正気を失うよ」
という言葉がありますが、割り切れる限度を超えていました。

でも、「全てが知りたい」という「善意の一般人」の欲求があり、メディアにとって読者や視聴者の求める情報を提供することがビジネスとなり(お金を生み)役に立つことであるから取材も加熱するのですよね。

だからと言って、取材対象を傷つけるような、プライバシーを奪うような取材をしていけないしましてや、命を奪うようなことがあってはならないのです。

ダイアナ妃が生きていた頃はまだスマホもなくSNSでの情報拡散もありませんでしたが、もしダイアナ妃が今も生きていたら。

彼女はメディアからだけではなく、一般人が向けるスマホからも逃げ続けていたのでしょうか。

ダイアナ妃の生涯を追うだけでなく、現在も続く問題についても考えさせられる映画でした。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

*写真は井の頭公園を題材にした三田圭介さんの作品。(写真OK)

写真だとわかりにくいのですが、遊んでいる子供達が水の妖精のようにも見えます。


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