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言葉の風。

言葉は、風みたいなものだと思う。

時には激しく、時には優しく。
時には冷たく、時には暖かく。
時には行く手を阻み、
時には背中を押してくれる。

自分の中だけに吹くこともあれば、
突然向きを変え、他人にも影響して、
心を変えてしまうこともある。

あの時、確かに、
僕の中で「言葉の風」が吹いた。

30歳。

2017年のある日。
人事に配属されてすでに8年目。
僕は悩んでいた。

人事という仕事の中でも、
「社内コミュニケーション」を
担当する部署に異動し、
役員のスピーチや社員へのメッセージなど
「言葉」を使う業務が激増。

それまでの7年間、まがりなりにも人事として
「言葉」を使う業務をしてきたが、
その部署で求められる「言葉」の質と量は、
経験してきたものとは比較にならなかった。

昔から…

悩む僕が思い出したのは、
高校・大学受験の記憶。

志望校に行くために死に物狂いで勉強した。
しかし、国語、特に現代文の成績だけが、
どうやっても上がらない。

というか、
どうやったら上がるのかさえわからない。

他の教科のように、覚える、論理的に考えると
いった解決策が見つからなかった。
(最後は奇跡的に何とかなったが、
 なんとなった理由さえ分からなかった)

やっぱり…

7年も人事の仕事をやってきたのにもかかわらず、
「やっぱり、文章は苦手なんだな…」と
悲しくなりながらも、
なんとか締め切り間近だった
役員のスピーチを書き上げた。
予定表で翌日の部長相談の時間を確認し、
暗い気持ちになって帰宅の途に着いた。

そして、翌日。

部長にスピーチ案を見せる。
しかし、どんどん部長の顔は険しくなっていく。
「直しておくから、後で取りに来るように。」

心の中で「またダメだったよ…」と思いつつ、
別の仕事をしながら部長のフィードバックを待つ。
そして、数時間後、部長からのフィードバック。

部長が赤を入れた資料を読んだその時…
たしかに僕の中で、「言葉の風」が吹いた。

言葉の風。

僕が書いた、
かたい言葉は、柔らかく。
厳しい言葉は、やさしく。
曖昧な言葉は、具体的に。

そして、人事っぽい言葉は、
その役員の人柄が溢れる言葉に。

言っていること、
コピーライティングの言葉で言えば、
“What  to  say”は全く変わらない。

しかし、“How to say”を変えることで、
文章が描く世界が全て変わった。
聞いた人の心が、動く言葉に。

実は、このスピーチは、
諸事情で結局使われなかった。

しかし…、

嘘でも偽りでもなく、
この「言葉の風」をきっかけに、
僕の心は動いた。

この言葉の風をきっかけに、
僕は「言葉をライフワークにしたい」と
心に決めた。

この言葉の風をきっかけに、
僕は「コピーライター」という職業を知った。

この言葉の風をきっかけに、
僕は「コピーライター養成講座」に通った。

この言葉の風をきっかけに、
僕は本業でも、もっと「言葉」を使う業務に
つくことができた。

そして、この言葉の風をきっかけに、
僕は「言葉の企画2020」で、
100人の「言葉の同志」を得て、
「おとなチャレンジ」をし続けている。

言葉には、人生を変える力がある。

「そんな大袈裟な…」と
思う人もいるかもしれないが、
言葉によって、
実際に僕の人生は大きく変わった。

もちろん、人生が変わったからといって、
なんでも上手くいっているわけじゃない。

仕事では、今でも「全然ダメだ…」と
落ち込むこともしょっちゅう。

宣伝会議賞も、なんとか数本が一次通過。

言葉の企画2020の課題でも、
選んでもらうのに必死。

毎日、悩み、落ち込み、悔やみ、苦しむ。
33歳にもなって、
なぜこんな必死になっているんだろうと
思うこともある。
もっと早く言葉に目覚めていればと
思うこともある。

座右の銘

でも、僕には、心に決めた座右の銘がある。
ガンジーのものと言われる、この言葉。

Live as if you were to die tomorrow.
Learn as if you were to live forever.
明日死ぬかのように生きよ。
永遠に生きるかのように学べ。

言葉を志し、必死になっても、
結局どこにたどり着けるかはわからない。
結局どこにもたどり着けないかもしれない。

それでも、小さな一歩でも、倒れても、
這ってでも、前に進み続けたい。

自分がしてもらったように、だれかの人生を、
「言葉の風」で、
もっともっとよいものにできるように。


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