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東久留米の北側 20年前の嘘

かつて、足繁くかよったこの場所を、私はときどき夢に見る。

駅を出たら、そこはバスのロータリー。
電柱ギリギリを行き交うバス。

こんな細い道がバス通りだなんて信じられないと思いながら、狭い歩道を歩いていた。

赤い看板の居酒屋を過ぎ、道なりに角を曲がったところに100円ローソンがある。
そこで2人前のパスタソースを購入し、彼の住むアパートへ向かう。

傍目にはつまらない日々に移っただろう。

けれど、間違いなく私はそこで青春を過ごしていた。
東久留米のアパートの一室で、恋をした。
ケンカもした。
勉強もした。
後悔も失恋もした。
たくさんした。

東久留米の北側は、感情が入り混じった宇宙への入り口だった。

彼と別れてもう、20年。
私は今も東久留米の北側に降りたっていない。
彼はとうに引っ越しをしているらしいし、電車に乗ればいつでも降りたてる場所に暮らしているのに。

それでも、
あの狭いバス通り、
黄色く光る駅前の松屋、
緑の100円ローソン、
東久留米の北側の風景をときどき夢に見る。

変わっていないといいな。
そんな自分勝手な要望と共に。

ひとつ嘘をついた。
彼の部屋で、私は恋をしていない。
東久留米に通っていたのは
私を必要だと慈しんでくれる、同じ年代の彼氏と馴れあいたかったから。

私は彼が大好き
そう自分にも言い聞かせてきたから、浮気された時は食事ができないくらい辛かったし、
フラれたときには涙が止まらなかった。

でも、それもイミテーション。

ドラマや小説で知った感情をなぞってみたかった。

自分のまごうことなき青春を思う時、私は自分の嘘に向き合わなければならない。

東久留米の北側は、出口のない宇宙への入り口。
そこに降り立つ勇気は、未だない。

—————
この「note」を20年前の私に見せなら何ていうかな。

「強がらないで!彼には私から告白したの」
「誰かに取られてしまうのが怖いからって毎日一緒に通学してたじゃない」

そうね、そうよね。
だけど私は知ってる。貴方が本当に恋をしていたのは彼の友達。
地味な彼の友達を貪欲に目で追う貴方を、彼は冷めた目でみてる。

けれど、彼は何も言わない。
地味な友達に自分の彼女が惹かれていることを許す人じゃないから。
貴方に本気で恋していて、手放したくないからじゃないのよ。

それとね、地味な彼の友達も、貴方に惹かれている。
でも同時に彼氏の友達である自分に媚びる貴方を軽蔑している。

「どうしてそんなことわかるの?」

それはね、
20年後、貴方が自分で確かめるから。

心配も期待もしないで、全て過去の話だから。
でも後悔はして、本当の気持ちに蓋してもいずれ滲み出てきちゃうものよ。

「間違えているかな?」

分からない。
ただ、東久留米の北側で青春を過ごしていたのは本当だと思う。
彼からもらった時計は、針が止まったまま、今も大切に保管しています。

正解なんてないんだと思う。
ただもしできれば、一人でスッピンの気持ちと向き合って欲しい。
ほら、東久留米の南側にあるドトールでコーヒーでも飲んで。考えてみて。

貴方は何を見つめているの?


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