スクワットのフォームを詳しく指導することの弊害
スクワットはキングオブエクササイズとも言われるほどポピュラーな筋トレ種目です。
健康のためにはスクワットが大切。
ボディビルディングをするならスクワットから逃げるな。
美しいボディラインのためにはスクワットが基本。
など、筋トレの代表的な種目ですが、同時に難易度が高いと感じる方も多くいるのではないかと思います。
特に、筋トレ初心者で、ジムに入会してみたけどバーベルをつかったスクワットにはなかなかチャレンジできない。という声は多くの方から聞いてきました。
なので、スクワットの指導はトレーナーにとっても重要な仕事の一つであり、ビジターの単発セッションではスクワットだけを教えて欲しいというご依頼もあったりします。
そんなスクワットという種目ですが、指導にあたってはフォームについてあまり詳しく言葉で伝えない方が良いのではないかと考えています。
(これはトレーニングの種目全般的に言えることですが、今回はスクワットを代表として考えます)
足幅はこう、膝の向きはこう、骨盤は前傾する後傾する、胸を張る張らない、こういうエラーにはこうする…といった声掛けによる指導がその人の将来的な成長の邪魔をしてしまうと感じているからです。
この理由と、言葉による指導の前にやっておきたいことをまとめたので、チェックしてみてください。
意識と無意識の運動制御の特徴
動作は意識すること(随意運動)と無意識で行うこと(不随意運動)が組み合わさって行われています。
飛んできたボールをキャッチする時、手や腕は一般的に随意運動でコントロールしていますが、その時どういう姿勢をとるか、どう重心をコントロールするかは無意識的な運動によって行われています。
人間の身体は車のようにハンドルとアクセル、ブレーキ、だけでコントロールできるようなシンプルな構造では無いため、意識での制御に限界があるのです。
その為、動作をする時は一部分を意識で、それ以外の大半を無意識で行うようになっています。
ここから動作のコントロールについて意識と無意識の特徴についてまとめます。
言葉による指導は意識へのアプローチである
言葉による指導「膝をこうする」「骨盤をこうする」は、意識して身体を動かすことへのアプローチです。
意識して覚えたことは、意識している時は使えるが、意識していないときは使えない
もし、スクワットの動作になんらかの問題があった時、それを意識して直すことに成功したとしても、意識した運動ができない状態だとまたその問題が発現してしまいます。
ストレスが増えると、意識できることが少なくなる
どんな時に「意識」が使えないのかというと、高いストレスに晒されているときです。
つまり、スクワットでいえば扱う重量に比例してストレスが増し、意識が使えなくなってきます。
無意識が行う動作は、パターン化された動作と防御反応に分かれる
意識が使えなくなった時、無意識がどう動きを制御しているかというと、①パターン化された動き=身体が覚えた動き。②防御反応=効率やメカニクスを無視したストレス反応。の2つがあります。
防御反応は例えば背中を過度に反ったり、顎が上がったりといった動きである、この防御反応がでると、理に適った動きができず怪我のリスクも高まります。
防御反応を抑えるために、意識が使われる。
重量が増えると、意識できることが少なくなってくると先ほど説明しました。
その理由の一つに、意識が防御反応を抑えているということがあります。
つまり重量が増えてフォームが乱れるのは、意識で押さえていた問題が意識が使えなくなったことで発現するパターンと、防御反応を意識で抑えることができなくなったことで発現するパターンがあるということです。
意識ではなく無意識へのアプローチでフォームを改善したい。
意識が使えなくなった時でも、最初に抱えていた問題を起こさずに動作をするためには、無意識的な動作のコントロールにアプローチをする必要があります。
これに成功すれば、意識の大半が防御反応を抑えるために使われている状態でも、フォームを乱さずに動作を行うことができます。
言葉による指導は意識へのアプローチなので、無意識化されにくい。
最初に戻りますが、言葉は意識へのアプローチです。
実は、スクワットのたびに意識して動作を反復しても、これは無意識化されにくいため、別のアプローチを考える必要があるのです。
無意識へのアプローチ方法
①痛みや可動域
痛みがある場合、無意識的にそれを避けた動きをしてしまいます。
また、構造的な問題で可動域に制限がある場合、理想的なフォームが取れない可能性があります。
これらの問題を抱えている場合はいわゆる治療などが必要なケースもあると思います。
マッサージガン、フォームローリング、フロッシングバンド、その他徒手的なケアによってこの問題を取り除くことで自然とフォームが改善する場合もあります。
②筋緊張バランス
人の姿勢は筋緊張バランスによって決まります。
話をめちゃくちゃシンプルにすれば、肩の前側の筋肉が緊張していて、肩の後ろ側の筋肉が弱っていたら猫背、巻き肩といった姿勢になっていくイメージは伝わるかなと思います。
負荷がかかっていない状態でのニュートラルがずれていたら、そこに負荷をかけた、ダイナミックな動きが正しく行われることはありません。
このズレは脳内にあるボディマップの乱れや、総合的な身体のコンディション(睡眠、呼吸、栄養)などの影響を強く受けます。
このニュートラルを獲得することで、効率の良い動作が無意識的に発現しやすくなってきます。
③筋出力の調整
筋緊張のバランスは比較的、静的な場面での話でしたが、次のステップでは動きの中での出力の調整にフォーカスします。
ある筋肉の出力の目盛りが『ゼロ』か『100』しかなかった場合、力が入っていないか、もしくは力を全開で発揮するかの二択しかありません。
体中の様々な筋肉がチームプレーをすることで、一つの動作は達成されます。
サッカーで例えるなら、止まって休んでいるか、全力スプリントかしかできない選手は監督としては非常に使いにくいですよね。
その曲面に合わせて、適切なスピードをコントロールできる状態であることが優秀なプレーヤーの条件であると思います。
筋肉も同じように、筋肉の出力を自在に調整できる必要があり、特に無意識的に活躍する筋肉の10%以下の出力のコントロールが非常に重要な役割を持っています。
サッカーのディフェンスの細かい位置取りのように、速くなくてもよいけど、繊細なコントロールができるように訓練をしていきましょう。
④全身を協調させた筋出力、多種多様な動作
痛みや構造的な問題がなく、筋緊張のバランスが整い、細かい筋出力の調整もできるようになったら、いよいよ強い力をどう発揮していくかというフェーズに移ります。
スクワットは、バーベルを含めた体の重心が地面に近づき、また離れるという動きです。
つまり、重心と地面との関係性を理解して動作を行う必要があります。
これを理解するために、様々な「スクワット動作」をとりいれ、そのちょっとずつ違う動きの中の「共通点」を学んでいくとが大切です。
多種多様なスクワットが、スクワットという動作においてどう全身の筋肉を協調させていくのが効率的なのかを学習していくのです。
ここまでの無意識へのアプローチによって、フォームに対して直接的に言葉で介入をしなくても、動作がより安定した効率の良いものになっているはずです。
意識を使わずにフォームを改善しているので、もし重量が増えてきて意識が使えなくなっても、問題が発現することはありません。
意識のキャパを増やす
とはいえ、いわゆるバーベルをつかったバックスクワットをするためには、ある程度の約束事としての意識的なスキルが最低限必要です。
また、競技性を追求していく中で意識的に制御した方がより重いスクワットができるという場面もあるかもしれません。
さらに、防御反応を抑える能力は意識のキャパに依存するので、これが多いに越したことがないのです。
意識のキャパを増やすためには、まずはできるだけ無意識化した動作を増やし、それを強化していくことが挙げられます。
これは先ほどのアプローチの延長線にあり、より身体の制御を上達させ、より多様な動きを強くしていくことが重要です。
また、筋緊張バランスでもお伝えした総合的な身体のコンディション(睡眠、呼吸、栄養)も意識のキャパに関係します。
コンディションの悪さは「生命の危機」に繋がるため、コンディションが悪い状態だと防御反応が出やすくなってしまうのです。
ここまで説明してきた「意識のキャパ」は前頭葉の働きとリンクします。
その為、前頭葉の働きを鍛えるようなドリルもこれを広げるために役立つと考えられます。
その中にはいわゆる脳トレも含まれますし、逆にだらけた刺激のない生活は前頭葉の働きを低下させ意識のキャパを減らしてしまいます。
まとめ
意識と無意識という観点から、動作の制御、動作の学習を解説しました。
トレーナーをしていて、以前はフォームへ声掛けした指導を多用していましたし、今もついやってしまう瞬間もあったりします。
ただ、声掛けで修正した動作の問題はその瞬間は解決したように見えて、問題を先送りしているだけで、その後、結局別の形で対峙することになることが何度もありました。
根本的な原因は無意識の領域にあるので、そこにアプローチしない限り本質的な意味での改善は起こらないようです。
このnoteではそれぞれのアプローチの具体的な方法まではご説明できませんでしたが、機会があったらそこの解説もしていきたいと思います。
また、恵比寿のKEYFITにお越しいただければ、無意識の領域へのアプローチでお悩みを解決するサポートをさせていただきます!
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