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わたしの好きなもの。(vol.2)観葉植物

小学生の頃、100均に売ってあった、手のひらサイズのちいさなサボテンがとても好きだった。

ペットを飼うには親の了承や、毎日のお世話、死という恐怖、それらすべてを引き受けることになるから荷が重いけれど、100円で買えて、「生き物」とも「置物」とも言えない、あいまいな存在のそれは、中途半端な私の「お世話してみたいけれど、めんどうは嫌」という欲求を丸ごと叶えてくれる、ちょうどいい存在だった。

サボテンはペットみたいに懐いてはくれないけれど、自己都合の愛を押し付けることはできた。「愛でる」という言葉が近しいと思う。愛でるというのは無条件の愛とはまた違って、行為そのものが跳ね返って自分に返ってくることだと知った。サボテンを愛でている時間、それは自分自身を愛でている時間だった。

サボテンはただそこに在るだけでなんだか心を落ち着かせてくれたし、自分だけの相棒ができたような、そんな特別な気持ちにさせてくれた。いつか一人暮らしをしたら、絶対に窓辺にサボテンを置きたいと思って空想を楽しんだ。

あんまり水をやらなくても窓辺で根気強く生きていてくれたサボテンは、だけど、いつの間にか捨てたのか、枯れたのか、覚えてもないほどあっけなく、窓辺からはいなくなった。

サボテン

サボテンの花言葉は「枯れない愛」

そんな風だから、私のサボテンの記憶はいつも窓辺にある。

そして窓辺は、どうにも逃れられない「家」という場所から気持ちだけでも自由になれる、そんな場所だった。

私の家はそんなに裕福ではなかったし、私自身に何かに秀でた才能もなかったから、この頃から「勉強」だけがこの生活から脱出できる唯一の手段であることくらい誰に言われるでもなくわかっていた。

1日のほとんどを勉強に費やしていたし、唯一の娯楽は読書だった。

経験には少なからずお金が必要だけれど、知識だけはいつだって、いくらだって無料だったからだ。

そして知識が増えれば増えるほど、家族とは話が合わなくなっていった。

何も知らずに、何も考えずに、この水準を当たり前として「地元」で生きていくには、あまりに私は世界を知りすぎていた。

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結婚祝いにおねだりしたウンベラータ。花言葉は『永久の幸せ』。

たくさんの格差を身に染みて感じながら、たくさんの悔しさを胸に秘めて、それでも「普通」の家庭で育ったかのような顔をして、私は生き抜いた。

努力は必ず報われるという言葉を私は信じていないけれど、私の努力は幸いにして報われた。

欲しいものをたいていは自分で買えるようになったし、経験に必要なお金も払えるようになった。見事「脱出」できたのだ。

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幹のくねくねがかわいいボトルツリー

結局、念願の一人暮らしが始まってもサボテンを窓辺に置くことはなかった。社会人になって慌ただしい生活を送っていたからだ。

朝まで飲んだし、遅くまで残業をしたし、気に入らない人に噛み付いた。そして疲れ果てて泣いて彼氏に電話した。回復したら、ザ・OLみたいな格好をして胸を張って丸の内を横切って、ヒールを鳴らしながらホームへの階段を駆け上った。そうかと思えば、精神的にどん底に落ち込んでまた彼氏に泣きながら電話した。そしてまた回復して、まつげにネイルに髪の毛に、と忙しく美容DAYを満喫した。

どん底に落ちたり、ハイになったり、本当に「慌ただしい」という形容がぴったりの日々だった。そんな日々に似合うのはサボテンじゃなくお花だった。(当時のインスタから写真を持ってきた)

実はこの時期にガジュマルも一応育ててたのだけど、びっくりするくらいすぐに枯らしてしまった。

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お花は即効性がある。誰がみても華やかで、おしゃれで、かわいくて、一気に気分をあげてくれた。

だけど、お花たちはサボテンよりもうんと短い命だった。華やかに咲いて、すぐに朽ちた。

今思うと、当時の精神状態にも似ているなと思う。

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ワイヤープランツの花言葉は『純愛』

会社を辞めようと決心がついた頃から、お花ブームは落ち着き、私の関心はまた観葉植物に戻ってきた。

今、私のお家の中には大きなウンベラータと、中くらいのボトルツリー 、小さなワイヤープランツの3つが生きている。それぞれにかわいくて、それぞれがゆったりと生きている。

華やかではないけれど、そっと心を癒してくれる観葉植物がそばにいる生活は今までで一番心地よく感じる。

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「わたしの好きなもの」シリーズ1つ目はこちらから。


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