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え? 「今季はもう終わった」ってこないだ言ってなかった? ハナシ違わない?

日曜の夜はサンデー・ナイト (Sunday Night Football) だぜ。プライムタイムの試合に、カンザス・シティ (Kansas City Chiefs) がランボー (Lambeau Field) にやってきたぞ。

チーフスとマホームズ (Patrick Lavon MAHOMES II; #15 QB) は、例年よりは苦労している感があるとはいえすでに 8 勝。守備はラッシュには脆いがパスへの対応にはリーグ屈指の堅さを誇っており、パスが主体でラッシュを出すのが不得手なパッカーズ (Green Bay Packers) にとっては相性の良くないチームといえる。
でも勝っちゃった。
……勝っちゃった、というとうっかり間違って勝ったみたいに聞こえるな。言い直そう。勝つべくして勝った。なにしろ、最初のドライヴでタッチダウンを食らわせて以降、最後までリードした状態を保ったんだから。それも、チャンピオンを相手にだ。数週前にはタンキングを始めたはずだったのに、いったいどうしちまったんだ。

フットボールは通常、少なくとも最初のドライヴについては台本スクリプトを用意して試合に臨む。簡単にいえば「最初のプレイはこれ、次はこう、もしこのような状態になったらこれ……」という感じで、おおまかな予定を立てて練習しておく。それによって、選手が混乱しにくくなる。レストランに入る前に看板のメニューをながめておくのと同じだな。
まあ、いざ席に座ったら「すみませんそれもう終わっちゃったんですよ」といわれて、あわてて予定とぜんぜん違うパスタの皿になっちゃうんだけど。

パッカーズは前週に続いて先攻。そして、信じられるだろうか、今週もテーブルに届けられたのはご注文通りのタッチダウンだ! いきなり! ワオ! なんてこった! どっちのチームもタッチダウンできないまま 6―0 で終わったところもあったっていうのに、なんて贅沢だ!
しかもかなり理想的に運んだ。ケイデンス (cadence) はまだ今ひとつながら、いったん素早くセットして相手のパーソネルを逃さないようにするといった小賢しい手口も見られ(時間不足で不発)、余裕が出てきたように感じられた。このへんは急激にパスが通るようになったのと関係があるのだろうか……そういえば、ぜんぜんドロップしない。こないだまでレシーバーの頭や胸に投げてもボールをこぼしていたのに、今やわれわれは、彼らが身体から遠く難しいボールまで捕るのを目にしている。……やったか? 空気抜いたか?


ボールの空気を抜くとどうなるの?

ボールの空気を抜くと、持ったときやわらかくなるので摩擦が増えて投げやすく、また捕ったときの反発も小さくなるからパスオフェンスがすごく簡単になるよ! ためしてみてね! バレたときには携帯電話の通信記録を消して逃げ回ろう!

喜びの声、続々!

(Image: https://www.flickr.com/photos/brookward/28068122189)


パッカーズは、守備も急所の場面で頑張っていた。シャットアウトには遠いにしても、エンドゾーンの手前でぎりぎりこらえて前半をフィールドゴール 2 本だけにとどめた。
その間、オフェンスは長めのパスを連続で成功させながらタッチダウンで追加点。個人的には前半最後はフィールドゴールを蹴ってみてほしかったが、氷点下に冷え込むランボーで 57 ヤード飛ばすのを難しいと見たのは妥当な判断だろう。とはいえ 8 点リードで後半だ。バグっているんじゃないだろうか。あるいは夢でも見ているのか。

後半最初のチーフスのドライヴは反則の連発ですぐに止まりそうになったが、結局タッチダウン。トラヴィス (Travis Michael KELCE; #87) にやられるのはわかる。だが、パチェコ (Isiah PACHECO; #10) が元気に走り回っているのはわからない。さっき彼の脚の上に人が倒れながら乗っかったはずだと思うのだけれど、あるいはこれも夢だったか?

このハイライト動画では 2:37 からのプレイ。
2 点差になって追加点がほしいところ、フィールド中央で 4th & 1。パッカーズはタイトなショットガンから 7 歩のドロップバックでパスを選択。試合の分水嶺になりかねない場面で、レシーバーがボンクラだと思ったらできないコールだ。

パスラッシュは 4 人ながら中央から早い段階で漏れてきたため、良くない体勢で高い軌道のパスが飛んだ。これはちょっとやけくそ・・・・ぎみで、見た瞬間はかなりの割合でインターセプトされるだろうと思った。ここは誰にも触らずすんなりとラインの裏側に抜け出たディロン (Algiers Jameal William DILLON Jr.; #28) がガラ空きで、もし彼に投げられたら最高にクールだった。
でもまあ、しょうがない。そもそもむこうのほうが格上なのだ。経験的に、勝負事で明らかに格上の相手に勝とうと思ったときには、正攻法だけでは足りない。どこかでだましたり裏をかいたり、なにかしら一杯食わせないと最初からある力量差で押し切られてしまう。その意味でこのパスは、彼我の差を幸運によって埋めた。

着弾点の周りはチーフスでいっぱいだったが、ボールはちょうど彼らの手が届かない隙間に向かって落ちていき、しかもダブズ (Romeo Izziyh DOUBS; #87) がそこに入ってきた。ツイている。しかし、手そのものは届かないといってもチーフスは前後左右におり、プレイが終わったらロミオの首がモゲていても文句のいえないキャッチに見える。ひと昔前なら救急車だったのではないか。幸運の重ねがけだ。おまけにボールもこぼしていない。
これがこの試合、グリーン・ベイにとって唯一の危険なプレイだった。僕はモメンタム(momentum; いわゆる "流れ")など認めないが、こんなムチャクチャが通るなら試合もきっと勝ちにむかっているとは思った。

いっぽうで調子が良いとみてラッシュにパスにブロックにと都合よく使っていたらワトソン (Christian WATSON; #9) が限界に達し、7 キャッチ 2 タッチダウンの大活躍だったがまた壊れた。またハムストリングスだ。"ガラスでできている" とよく言われるけど、あれだけ高速で走り回って急停止と急加速を繰り返せば壊れないほうが奇妙だ。超人しかいなさそうに見える NFL においては珍しく、一般の人間味を感じさせる選手であるといえよう。お大事に。

試合の最終盤――NFL では珍しくないが、審判たちがスポットライトを求めて夜の蝶のごとく羽ばたき始めた。こっちはそういうの求めてないけど、彼らも目立つのが大好きだ
残り時間わずかで 8 点差を追うチーフスを助けるためなら本来は流さなければいけない時計は止めるし、ボールを抱えてフィールドの中を前方に走っているマホームズをヒットしたらパーソナルファウル。かと思えば明らかな守備側のインターフェアを見逃す。最後のパスについてもレシーバーをそっと両手で押しているのがしっかりと映った。釣り合いが取れたともいえるが、おかしな判定が大挙してやってきたと解釈するのも自然で、あまりすっきりしない終わり方になった。まあ、負けるよりはいいけどね。

そう、グリーン・ベイは負けないほうがいいのだ。ついこないだ「もう負けたほうが都合がいい」状態だったのに、今やプレイオフの圏内に両足が入っている。しかも内容が良いから理解に困る。ゲームチェンジャー級の選手を足す以外で、こんなに急激にチームが強くなることがあるのだろうか。『少年ジャンプ』の漫画でもあるまいに。
声高だったアンチもすっかり黙っている。僕の掌もクルクルだ。ラヴは世界を救う。


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