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「固定観念にとらわれずに、自由にアイデアを考えましょう!」というファシリテーションに対する改善提案

ワークショップやファシリテーションを専門に仕事をしていると、現場の方々とコミュニケーションをするなかで「外部でこのような酷いワークショップを経験した」「こういうファシリテーションに、参加者として不快な思いをした」というような報告が、耳に入ってきます。(たまに自分たちもやっちゃってるなー..と思って、耳が痛くなることもあります笑)

そのなかでも、多く耳にする”愚痴”が、以下のようなファシリテーションに対するものです。最近もひょんなところで目撃談を聞いたのでツイートしたところ、多くの方に共感をいただきました。

これだけ多くの方に共感いただける「あるあるの失敗パターン」にも関わらず、なぜこのようなファシリテーションが絶えないのでしょうか。もしかすると「このファシリテーションがなぜイケてないのかの理由」が実は言語化されておらず、かつ「明確な代替案」が普及していないからなのかもしれない、と思い、簡単に考察と改善指針をまとめます。

なぜ「固定観念にとらわれずに、自由にアイデアを考えましょう!」はダメなのか

この教示は、ファシリテーターにとってはよかれと思ってしている発言で、「日常のしがらみは気にしなくてよいので、あなたの好きなようにアイデアを考えていいですからね!」と、むしろエンパワメントをしようとする発言です。倫理的にまずいことを言っているわけでもなければ、本来的には参加者を不快にさせるものでもないはずです。では、なぜこれがダメなのか。

まず、参加者からしてみれば、「それがなかなかできないからワークショップに参加しているのに..」「そう言われましても、”固定観念にとらわれないアイデア”なんか簡単には出せませんよ..」という感想がベースにあるのではないかと思います。創造性の認知科学研究を参照しても、人間の発想は無意識のうちに固定観念にとらわれてしまうものであり、「とらわれるな」と指示をされて、アイデアが跳躍できるのでれば、苦労はしないからです。したがって第一の理由は、そんなこと言われてもできないから、です。

そして第二に、ワークショップの成果は、ファシリテーターによってデザインされた学習環境、とりわけプログラムデザインによって決まるからです。創造的なアイデアを触発するような環境とプログラムがデザインされてあれば、本来は「固定観念にとらわれないで!」と懇願しなくても、「自然といつもとは異なる視点から考えたくなる状況」ができあがっているはずです。それがファシリテーターの仕事であるはずなのに、デザインに工夫を懲らさぬまま、直接的に「自由に考えましょう!」というのは、ワークショップデザイナーの怠惰でしかない。これが第二の理由です。

では、このようなファシリテーションをしなくて済むように、どんな対策が考えられるか。細かいものをあげれば無数にアプローチがありえますが、この失敗は初心者のファシリテーターに多いと想定し、基本的なアプローチを2つ示しておきます。

改善提案(1)課題に"ひねり"を加え、参加者の内発的動機と創造性を刺激する

第一に、グループワークやアイデア発想ワークの「課題設定の制約」に工夫を凝らすことです。自由に考えましょう!という「制約のない課題」が、参加者の思考を浅く拡げてしまい、考えるとっかかりがないほか、対話や議論が深まりません。

以前に、グループワークの課題の制約が、いかに参加者の創造性に影響を与えるかを実証すべく、ある実験を行なったことがあります。LEGOブロックでカフェをデザインするワークショップを題材に、プログラムの内容や時間の長さは変えずに、メイン活動の課題設定(問い)を2つのバージョンを作成し、参加者に投げかける問いの制約が変わると、参加者のアイデア発想のコミュニケーションプロセスがどのように変わるかを実験したのです。

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問いのバージョン(A)は、一般的なカフェのイメージに素直に設定した「居心地が良いカフェとは?」という問いを設定し、アイデアを自由に考えてもらいました。他方でバージョン(B)は、少しひねりを加えて、一般的なカフェのイメージには少しと少し違った要素を加えて「危険だけど居心地が良いカフェとは?」という問いを設定しました。

問いの制約(ひねり)の比較実験
A:居心地が良いカフェとは?(自由度高:ひねりなし)
B:危険だけど居心地が良いカフェとは?(制約高:ひねりあり)

結果、居心地が良いカフェとは?と問われたグループは、「ここにソファが欲しい」「照明は暗めがいいよね」「バーカウンターも設置しよう」「いいねいいね」「そうしよう」などと、グループのそれぞれのメンバーの要望を出し合いながら、比較的スムーズに制作が進んでいました。しかしながら、提案されたアイデアが作品に”足し算的”に採用されていく傾向にあり、創造的なコミュニケーションが起きていたかというと、疑問が残りました。

他方で、危険だけど居心地が良いカフェとは?と問われたグループは、最初は「危険だけど、居心地が良い…?」などと困惑した様子を見られました。ところが次第に発想と好奇心がくすぐられ、「雪山で心地よく眠れるカフェはどうだろうか?」「漫画喫茶で、火災が起きるとか..」「それは命が危険すぎるでしょう(笑)」などと、一見すると矛盾したこの2つの条件をなんとか乗り越えようと、アイデアを果敢に出しながら試行錯誤をする様子がみられました。

そして次第に「自分にとって居心地が良すぎるコミュニティは、かえって危険だと感じる」「クラブのような非日常性の強い場は、危険もあるけれど、居心地の良さもあるよね」などと、それぞれが自分の体験を振り返りながら、”危険だけど居心地が良い”を取り巻く価値観や経験を共有し、アイデアの源泉を探っていく様子がみられました。結果として、課題設定にひねりを加えたグループ(問いB)のほうが、遥かにコミュニケーションが活発に交わされ、創造的な対話を通して、新しいアイデアが導かれていたことが明らかになりました。

ファシリテーターから「自由に!創造的に!」と懇願されなくても、自然と常識の外側から発想したくなるような制約を課題に設定しておく。これがプログラムデザインの基本中の基本です。

改善提案(2)課題は自由にしておくが、そこにいたるまでの"足場かけ"に工夫を凝らす

必ずしも、グループワークやアイデア発想のワークの課題そのものにひねりを入れなければいけないわけではありません。多様なアイデアの可能性を許容するために、自由課題にすることは、熟達したファシリテーターの実践においてもみられます。

その場合は、メインの課題にいたるまでの「種まき」「仕込み」をいかにしておけるか、が重要になります。ワークショップデザインの用語でいえば、丁寧に「足場かけ」をしておくということです。

足場かけの方法はさまざまで、たとえば以下のような支援が考えられます。

ex)メインワークの前に、自分の経験をいつもと違う視点から内省するような個人ワークを入れておく
ex)固定観念を揺さぶるような事例を話題提供でインプットしたり、フィールドワークで観察をしたりする
ex)グループメンバーの一人ひとりに、異なる知識をインプットしておく(参考:ジグソーメソッド)

ただし、丁寧にプロセス設計がなされていない「ただ単に刺激的な情報を大量を浴びせれば、参加者はきっと何か思いつくだろう」といったような、足場かけになっていない乱暴なプログラムも少なくないようなので、「種のまき方」にも工夫が必要です。以下は参考記事です。

以上、オーソドックスなアプローチではありますが、「課題にひねりを加える」「足場かけの工夫をする」というプログラムデザインの基本的な工夫を2点紹介しました。ファシリテーターとして熟達するならば、望ましい状況を「参加者に懇願する」という姿勢は"負け"だと思ったほうがよいかもしれません。創造的な状況をいかにデザインの力で実現するか。それがワークショップデザインの奥深さなのです。

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ミミクリデザインが発行している無料のレポート「ワークショップデザイン・ファシリテーション実践ガイド」(PDF)もあわせてご覧ください。

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