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組織を遊ぶ、ルールのデザイン論:カルチャー改革の手がかり

ビジネスカルチャーマガジン『XD MAGAZINE』Vol.7(7月20日発売)に安斎の寄稿記事『組織を遊ぶ、ルールのデザイン論』が掲載されました。

雑誌のテーマが「遊ぶ」ということで、実は『問いのデザイン』の次は『遊びのデザイン』を執筆しようという構想もあったくらい、自分にはドンピシャのテーマ。さらにはちょうど法律家の水野祐さんと共に「ルールデザイン」について研究を進めていたこともあり、喜んで執筆をお引き受けしました。

雑誌には魅力的な記事が多数掲載されていましたので、よければ手にとってみてください。発売から2ヶ月以上経ちましたので、安斎の寄稿記事はnoteでも紹介します。


ルールを遵守する遊び、ルールを再構築する遊び

ルールと遊びは密接に関わっている。ゲームやスポーツを楽しむためにはルールの遵守が不可欠であるし、他方、既存のルールを破る行為にもまた魅惑的な何かがある。

フランスの哲学者ロジェ・カイヨワは、人間の遊びには「ルールに従うことで楽しめる遊び」と「既存のルールに捉われない自由な遊び」があると指摘した。前者はチェスやサッカー、ギャンブルなどが挙げられる。後者はごっこ遊びや見立て遊び、空想表現などがそれにあたる。

子どもは元来、後者の自由な遊びのエキスパートだ。私の4歳の娘は、たびたび「時間よ止まれ!」と私に魔法をかけてくる。私は一生懸命動けなくなったフリをするわけだが、ここでは現実世界のルールは無視されていて、代わりに別の暗黙のルールが新たに生成されている。このような、想像力によってルールを再構築する遊びを、カイヨワは「ミミクリ(mimicry)」と呼んだ。

こうした遊びはあくまで「子どもの世界」の話であって、ビジネスには無縁のように思える。実際に、一般的な企業では目標達成と人材管理のために仕事の進め方はルールに縛られていて、逸脱の余地がない。出社時間、営業ノルマ、業務マニュアル。それらは不祥事やトラブルのたびに新たに追加され、もはや覚えきれないほどだ。ルールを追加するほど組織は硬直化し、職場には閉塞感が蔓延する。そうして私たちは、気づけば”ルールの奴隷”となっていく。

このような状況を考えると、組織において「遊ぶ」余裕などないように思える。あるとしても、同僚と営業数値を競い合ったり、事業成長を育成ゲーム感覚で楽しんだり、リソースの不足を”縛りプレイ”と考えたりなど、心がけを変えることで「ルールに従う過程を楽しむ」のが関の山だろう。結局のところ、私たちはルールの奴隷になるしかないのだろうか。

“ローカルルール”で組織の創造性をハックする

本稿の提案は、想像力によってルールを再構築する「ミミクリ」遊びによって、職場の創造性をハックする考え方だ。自らルールをデザインする視点を持つことによって、閉塞感を打破し、組織を「遊ぶ」ことが可能になる。

いやいや、組織のルールを変えられるのは経営や人事の領分で、そうでない多数の従業員にとっては無縁ではないか。そう思われるかもしれない。しかし職場における”ローカルルール”であれば、誰にでもデザインすることができる。

ローカルルールとは、特定の地方に浸透した非公式のルールのことである。たとえばトランプゲームのひとつである「大富豪」には「革命」「8切り」「縛り」などの多様なローカルルールが存在する。大富豪のグランドルールは破壊しない範囲で、地方独自のアレンジが加えられたものである。組織においても、企業理念や就業規則を侵害しない程度に、自分の職場やチーム独自のローカルルールをうまくデザインすることで、仕事の面白さは格段に変わる。

ルールデザインの4つの基本型

ルールにはいくつかの型がある。本稿では、以下の4つの基本型を参考にしながら、職場のローカルルールのデザインアプローチを検討していこう。

  1. 禁止型:〜してはならない

  2. 強制型:〜しなければならない

  3. 条件型:もし〜の場合、〜する

  4. 意識型:〜の視点を持つ

(1)禁止型:〜してはならない

禁止型とは、特定の行動をさしとめるためのルールである。一般的に不祥事やトラブルを抑止するために使われることが多い。たとえば秘密保持のためのルールや、不正行為を防止するためのルールがこれにあたる。

しかし使い方によっては、禁止型のルールは人間の好奇心と創造性を刺激する。たとえば、人気バラエティ番組『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ)のかつての大晦日の特番シリーズに「笑ってはいけない」という名物企画があった。お笑い芸人たちに「笑うと罰せられる」という逆説的なルールが課されていることが独特の滑稽さを生み、人気を博していた。

​これを参考に、職場において一般的に「良し」とされている行動を禁止してみてはどうだろうか。普段とは異なる試行錯誤が誘発され、刺激的な会議になるはずだ。

例:会議において、良いアイデアを提案してはならない
例:会議において、1分以上長く話してはならない

(2)強制型:〜しなければならない
強制型とは、特定の行動を必須とするためのルールである。出社時刻や日数、勤務時間、全社総会への出席などに適応されることが多い。管理型のマネジメントと相性がよく、創造性や遊びとは無縁に思える。ところが禁止型と同様に、遊び心を持ってローカルルールに落とし込めば、以下のような例が思い浮かぶ。

例:上司の意見に対して、必ずツッコミを入れなくてはならない

実行には上司の協力が必要であるが、うまくいけばこのルールを”言い訳”にして、心理的安全性の醸成にもつながるかもしれない。小道具に凝るのであれば、ハリセンを用意しておくのも一興だ。

(3)条件型:もし〜の場合、〜する

条件型とは、特定の条件において適用されるルールである。もし必要経費が規定金額を超える場合は事前申請が必要、といったものだ。

筆者が経営するMIMIGURIでは、”アジェンダブレイク”と呼ばれる会議ルールがある。会議のアジェンダと無関係でも、どうしても話したい衝動が湧いた場合は、脱線しても構わないというルールだ。

例:もし衝動が湧いた場合は、会議のアジェンダから脱線してもよい

無条件に「いつでも脱線してよい」としてしまうと、秩序が崩壊し、仕事が成立しない。しかしこのように適用条件を明示することでバランスが生まれ、互いの衝動を尊重する風土にもつながる。

(4)意識型:〜の視点を持つ

意識型とは、特定の意識や態度を奨励するルールである。企業の行動指針(クレド、バリュー)などがこれにあたる。たとえば「チャレンジする」という指針が掲げられていた場合、常に挑戦を意識することが奨励される。

あくまで”奨励”で強制力が弱い分、意識型のルールは短期的な実験に向いている。たとえば以下のようなものはすぐに試しやすいだろう。

例:会議の冒頭で、各自”アイデア発想が豊かな人物”を思い浮かべる。身近な人でも、有名人でも構わない。この会議では、常にその人物かのようにふるまってみる。
例:これから1週間、ターゲットユーザーになりきって生活してみる

ローカルルールは伝染し、組織を変革する

こうした”ローカルルール”の多くは、すぐには大きな成果にはつながらないだろう。しかし実験を繰り返していくと、稀に思いも寄らない効果につながることがある。手応えを感じたら、すぐに他のチームに試行錯誤の過程をシェアすることがポイントだ。

“ローカルルール”の強みは、伝染力である。シェアしたルールをもし隣のチームが真似し始めようものなら、それは大袈裟でなく、組織変革のきっかけになる。非公式であるはずのローカルルールのうねりが経営に届いたとき、それは公式なグランドルールに昇格する可能性を秘めているからだ。この過程を経営学では「組織学習」と呼び、イノベーションの手段として注目されている。

人間の遊びは、常に新しい文化を作り出すきっかけになる。さあ、ルールデザインを始めよう!


【お知らせ】無料ウェビナー『チームを覚醒させる「問い」のデザイン:新時代のミドルマネジメントの真髄』開催

10月3日(火)に新作無料ウェビナー『チームを覚醒させる「問い」のデザイン:新時代のミドルマネジメントの真髄』を開催します。

6月の経営層向けの「新時代の組織づくり」ウェビナーが3,200人動員、満足度98.6%と大好評いただきましたが、今回はミドルマネージャーやプロジェクトリーダーの方向けに実践的な内容をお届けします。

2020年に書籍『問いのデザイン』がベストセラーになり、その後も『問いかけの作法』『パラドックス思考』など、マネジメントにおける「問い」の技術についてはあらゆる角度から深堀りしてきました。

一貫して、これまでのビジネスや組織論が立脚していた【軍事的世界観】から脱却して、不確実な時代で価値を切り拓く【冒険的世界観】のマネジメント論を確立したいという想い。そして、そのために冒険(Quest)の指針しての問い(Question)が鍵になる、という確信が、通底しています。

今回のウェビナーでは、これまでの研究知見を概観して編み直しながらも、さらなるアップデートをかけて、チームマネジメントの武器としての「問いのデザイン」について語り直す機会にできればと思います。

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