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庭づくりをする人たち

6月はプライド月間。
何年か前から、私にとってプライド月間は心がざわつく月だ。
LGBTQの権利を、人としての誇りを感じる月のはずなのに、特に2020年ごろから日本では、プライド月間にはバックラッシュが起こる。
今年は特に目立っていて、ここ1-2週間のSNSやニュースはちょっと目を覆うような状態だ。人のこころに巣食う不安や闇の大きさをまざまざと知り、胃のそこがひっくり返るような、痛みを感じる。
そんな2023年6月16日、この国ではLGBTに関わるとある法律が作られた。

6月は、1年でも好きな月のはず。
私の好きな花であるバラが、軽井沢で花開き出す月だから。
この季節、職場に朝行くと、毎日違う蕾が花開いている。
長い長い冬をこえて、思えば裸ん坊の枝だったのに、どこにこんなエネルギーが隠されていたのだろうと、驚かされる。
1日1日、成長していることが見て取れる。
虫がいて、鳥がなき、命が巡っていることを感じられる。

毎朝花を摘むのが6月の楽しみ。

とても好きな絵本がある。
「庭の小道からー英国流ガーデニングのエッセンスー」という本。
長野は蓼科のバラクライングリッシュガーデンに赴いた時、ショップの本コーナにひっそりと佇んでいて、引き寄せられるように買った。
そこに、「庭づくりをする人たち」という章がある。

人間の行動のなかで、子どもを産むことは別として、庭づくりがいちばん楽観的で、希望にあふれたものです。庭づくりをする人は計画的で、少し先のことでもずっと先のことでも、将来を信じ確信している人なのです。
(中略)
いつも戦争のことを考え、それを予想してこわがっている人、人類と地球の終末を思う人、魂がしぼみ、時代の困難や脅威に打ちひしがれている人、希望も慰めもないと思い、新しい夜明けのかすかな光も見ようとしない人。そんな人には、庭づくりをおすすめします。庭づくりをすると、勇敢で大胆に、やさしくて冷酷に、きちょうめんででたらめに、おだやかで忍耐強くなることを、順ぐりに覚えていきます。何よりも今日という日を満喫し、明日に希望を持つことを覚えるのです。

庭の小道からー英国流ガーデニングのエッセンスー "庭づくりをする人たち"

なるほど、と膝を打つ。
庭づくりの哲学とか、感性のようなものに、人生につながる共感を感じていたけど、それがすべて言語化されたようだった。

庭づくりとは、思えば本当に気の長い作業だ。
私が作っているバラ園は、今年で3年目。やっと見た人がバラが咲いていますね、とわかる程度になった。もちろんまだまだ赤ちゃんみたいなバラ苗ばかりだけど、ちゃんと目でみてわかるように成長していくのが面白い。

戦争やコロナや、人間がこんなにあれこれと騒いでは揺らぎ、渦巻きながら生活しているけど、そんな様をどんな思いで見ているんだろう。
風にそよぐ花をみて、そんなことも思ったりする。

ロサ・エグランテリア。楚々とした花も風情がある。

「ウバユリ」という種類の百合が、軽井沢の野山には生息していて、働いているほっちのロッヂの森にもたくさんいる。これは種から発芽して、花が咲くまで7-8年かかり、花が咲いたらその個体は枯れてしまうそうだ。
そんなウバユリが、凛と首を伸ばして佇む姿を冬によくみかける。

ほっちのロッヂの裏の森で、ウバユリ。

種をまいても、芽がでるのはほんの一部かもしれない。
よしんば芽が出ても、花を見られるのは何年もあとかもしれない。
とてもとても気が遠くなるような確率の中で、それでもそしらぬ顔で花開き、未来に種を残す。

庭づくりも、人の営みも、同じだなと、ふと思う。
何より目の前のたたずまいにはっとしたり、日々の変化を感じられたり、明日や来月、ひょっとしたら何年も先の姿を思い描いて、そして信じて耕す。

たとえいま花が咲いていなくても、撒いている種が芽を出して、ちゃんと成長していると感じることもたくさんあることに気づくのだ。

人の営みで心がざわつく時には、庭づくりに立ち戻るとよい。
そして、みんなが庭を作るようになったら、世界はちょっと平和になるかもしれない。
そんなことを思いながら庭に出てみれば、いつもの緑も、より鮮やかに、希望に満ちているように感じられる。


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