【スポーツ界にもITunes!?】 ボクシング世界タイトル戦に見る、既存スポーツメディアの限界
米国時間2月22日に開催され、極めて大きな注目を浴びたボクシングWBC世界ヘビー級タイトルマッチのデオンテー・ウィルダー選手とタイソン・フュリー選手の事をご存知の方はいるでしょうか?そして、その背景でもっと大きなビジネス面での闇が暴かれていた事も?
日本ではヘビー級に有力選手が少ない事から、あまり注目されていなかったかもですが、この試合はヘビー級が大人気な米国では凄い注目を集める一戦でした。
この二人、実は18年12月にも同じくWBC世界タイトル戦を争ったのですが、その際は物議をかます判定の末、同店引き分けに終わりました。その為か、今回はその決着とも目され、世紀の再戦として大注目されていました。
結果は、フュリー選手の7回TKO勝ちであり、試合自体は各方面から絶賛を浴びる好カードとなりました。(補足:試合に負けウィルダー選手は、この試合後契約条件に含まれていた再戦条項を行使し、近い将来3度目の対戦が行われる可能性が濃厚。)試合のハイライトは以下ご参照!
<マッチハイライト>
そんな超優良カードなこの試合、米国では定番となっているペイパービュー(PPV: 試合を視聴する為に、一定金額を各世帯が個別に払い、その視聴権を買うというもの。逆にお金を支払わないと、試合は家では見られない。)形式にて独占放映され、その価格は79.99米ドル(約9,000円)に設定されていたのです。かなり高額ですよね。。
僕も17年に開催されたホリーフィールド対パッキャオ戦を確か80米ドル程で購入し、家で見た記憶ありますが、どうしても見たい試合であり、高額でも払わないと見れないとなると、確かに払ってしまうかと思います。
日本ではこのPPVという仕組みは馴染み薄いかと思いますが、これは米国で第一次ボクシングブームが起きた1960年代に開始され、80年代後半にボクシングに加えプロレス等の人気が急騰し始めたころに更に定番化していきました。
そして、このフュリー対ウィルダー戦も例外なく多くのPPV注文数を集め、80-85万のppv購入があった事が分かりました。一見すると、凄く良い数字に映るかもしれませんが(単価約9000円で80万件の購入があれば、それのみで約73億円の収益なのですから!)、過去事例と照らし合わせてもここまで注目された試合としては、同数値は極めて弱い数字であり、運営者側はかなり困惑したかと思います。
では、なんでこんなにも注目された世界タイトル戦のPPVが売れなかったのでしょうか?
純粋にもうボクシングの人気がないのでしょうか?それともスポーツ放映を見る人が純粋に減っているのでしょうか?
いえ、実はもっと深い闇が眠っていたのです。
1.PPV販売不振の裏に潜んでいた闇
実はこの試合、近年のスポーツ視聴体験の価格高騰を背景(注:同体験価格の高騰については、以下記事ご参照)に米国で乱発している違法ストリーミングサービスの餌食になってしまったのです。
なんと各種ソーシャルメディア上にて合計1,000万から2,000万もの違法視聴者がいた事が後の調査で分かったのです。。。
(注:単純計算で、被害総額約1,000億円~2,000億円!?にも上るとは。。。)
元々斯様なストリーミングサービスは上記PPVというより、ケーブル価格の高騰等によってTV上で見づらくなった4大スポーツの試合をネット上で無償で見る人が多かったかと思いますが、今ではその範囲を広げ、今回のように比較的転載しづらいPPVにも進出してきたいのです。
しかもその見易さは極めて簡単であり、日本でいう2ちゃんの様なサイト(Reddit)にアクセスすれば簡単に見れてしまうのだから、仮に違法だとしても、①その容易さ、②無償である事に鑑みると、それはそちらに視聴者を奪われますよね。。
最近NBAは上記Reddit上での違法ストリーミングが増えすぎた為、同サイトに対する締め付けを強め、今ではReddit上ではNBAのストリーミングリンクが見られないようになりました。
ただ、正直にReddit上に無くなったからといって、斯様な無償ストリーミングが消えるかといったらそうではないかと思います。イタチごっこが起きているのみだと思われます。
2. この流れ何かに似ていませんか??
時を2000年前半に戻してください。
この時代、Napster、Winmx、Winny、Kabos等P2Pと言われ、実質違法に音楽・動画がMP3形式他にて共有・DLされるサービスが流行したのを覚えていますか?
日本では確かWinnyを開発した方が逮捕されたりもして、このサービスの悪い側面に大きな注目が集まっていたかと覚えています。
しかし、実はこの悪名高きファイルシェアサービス、後の巨大合法ビジネスを作っていたのはご存知でしょうか?
このMP3での音楽DLの需要に目を付け、それに「音楽をカタログ化」したり、MP3のDL時に起こり得る「ウィルスの侵入を撤廃する」等付加価値をつけて巨大ビジネスに仕上げたのが、そう、アップル社のiTunesなのです。
当時無料で買えるもの(違法DL)をお金を払って買う人はいないと、多くの人にサービスそのものをばかにされていましたが、今となってみたら巨大事業になったのですから誰が正解だったかは分かりますよね?
つまりその時も今回のスポーツ放映同様、商品(音楽・映画)自体には興味あるものの、「設定価格」(当時のCDはアルバムで約3000円、DVDで4000円程)を満額払ってまで購入する事にユーザー・視聴者は興味なかったのです。
3.ではこの流れに対してどうすればよいのか?
恐らく多くの人の意見は、「締め付けるべき!」「違法ユーザー・アップロード者に罰則を与えるべき!」という点を上げられると思います。
それでも良いかもしれませんが、個人的にはそれには大反対です。
上項にも書いた通り、罰則強化をしてもそれはイタチごっこにしかならないと思われ、だとしたらそれ以上に時代背景を踏まえたユーザーニーズを理解する事が大事だと思います。また、違法に視聴していたユーザーに訴訟を起こした場合、そういったファンベースを失う可能性も高く、運営者にとって長期的な痛みをもたらすかもしれませんよね?
その為には、①「適正価格の模索」、及び②「新規ビジネスモデルの模索」が必要になってくるかと思います。
恐らくストリーミングで違法視聴をしている場合、その動画の質は高くない為、そこの差別化要因を放映者としては最大限活用するのが今後のカギとなるのでしょうか?
その点では、NBAが昨季から始めた試合の最後5分を約200円で見れるショートビュー販売などは理にかなっていると言えます。視聴者は、安い金額で質の高い映像を好きな枠分のみ買えるという柔軟性があるのですから。
(今回のケースでも、もし違法視聴者皆から100円でも何らかの形で取れたとしたら、約10億円―20億円程のプラスになっていたのですから)
更に言うと、そもそも試合には興味あるけど、未だお金を払ってまでは見たいと思わない層には、高いクオリティーのハイライト動画を無償でyoutube上等で提供し、今後の有料試合に興味を持ってもらうきっかけを作るのも大事ですね。所謂フリーミアムモデルの追及です。
終わりに~
個人的には、欧米に存在するこのPPVの仕組みは嫌いではありません。
無駄に毎月ランニングコストをTV放映局に支払うより、購入したい試合・イベントのみを購入できるのですから。ただ、ネットが進化し、趣向が変化してきた今の時代には変革が必要なのかもしれません。
日本ではそもそもPPVといった、一試合・イベントのみを購入するビジネスモデルを見かけませんが、趣向が多様化する今、この仕組みをどこかの放映局として取り入れるのはいかがでしょうか?単価数百円とかに抑えられるのであれば、例えば音楽イベントや、地上波では放映しづらい格闘技、海外スポーツの大一番等需要はあるのではと想像してしまいます。
莫大な収益を稼ぎ出すこのビジネス、近い将来かつてITunesがそうであったように、ディスラプターが現れその業界全体を大きく変えていくかもしれませんね。
変革の時を迎えるスポーツメディア、益々注目が集まります!
家徳
contact@sportajapan.com
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?