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エストニア訪問記(2)「e-Estonia Showroom ITに対する取り組み」

エストニアの2日目に e-Estonia Showroom に訪問して、電子国家エストニアのITに対しての取り組みと、投資環境についてレクチャー頂いた内容をまとめてみました。

エストニア政府はエストニアのIT企業と程よい関係性を保ちながら、共にトップランナーとして電子国家を推進し、その成果をEUを中心とした国外に外商する方針が明確に見えてきました。ここでの説明と内容の近いスライドが以下に公開されていますので、併せて参照いただければ。

enter e-Estonia
https://e-estonia.com/wp-content/uploads/e-estonia-v19.pdf

エストニアの電子国家としての先端性

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エストニアは以下で世界トップの評価を得ているようです。

・ベルテルスマン財団2019 デジタルヘルスインデックス
・世界経済フォーラム2017 起業家活動
・インデックスベンチャー2018 スタートアップフレンドリー
・フリーダムハウス 2018 インターネットの自由
・グローバルITレポート2019 モバイルネットワークカバレッジ

140万人を切る人口のエストニアが、ITと起業でこれだけのトップ評価を得ているのは驚異的なことです。

その他にも、ITU 2018グローバルサイバーセキュリティインデックスでは世界5位、遺産財団2019 経済的自由の指標( HERITAGE FOUNDATION 2019 index of economic freedom )では世界15位などの評価を得ています。

ITの取り組みについては想像の範囲ですが、ITとは切り口の違う”経済的自由の指標”は少し以外でした。この内容に注目して調べてみると、2019 INDEX OF ECONOMIC FREEDOM Chapter 1 (*1)で、エストニア周辺3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)は、経済を改革し、政府の規模を縮小し、市場を開き、人々の才能を発揮させたことを高く評価されています。ITはあくまでツール、この評価は電子国家を成立させた鍵の1つかもしれません。

*1 2019 INDEX OF ECONOMIC FREEDOM Chapter 1
https://www.heritage.org/index/book/chapter-1

エストニアの電子国家としての本質

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エストニアの最高機密の武器(この表現がすごい)として以下を挙げています。

・インターネットは社会の正義
・すべてのエストニアの居住者は電子IDを持つ
・サービスの99%はオンライン
・エストニア人は電子ソリューションを信頼

電子国家を牽引する国としての強い意志を感じます。

とはいえ、登壇者の主観が強いかもしれないと考えていたのですが、「エストニア共和国の高等教育の公式全国ガイド」(*2)で、以下のように細かく明確に記載されています。

Eステートとしてのエストニアに関する事実(Facts about Estonia as an E-state)の抜粋
・銀行振込の99%は電子的に行われます
・タリンのドライバーの50%以上が携帯電話で駐車料金を支払います
・納税申告の95%はe-Tax Board経由で提出されます
・ほぼすべての場所で無料の公共WiFiでインターネットを利用できるのは社会的権利です

教育方面の情報でも、エストニアが電子国家としての取り組みに強い意志を込めていることが伝わってきます。

*2 Your official national guide to higher education in the Republic of Estonia
E-Estonia
http://www.studyinestonia.ee/en/e-estonia

エストニアを電子国家たらしめた電子ID

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日本ではあまり有効利用されていない、エストニアを参考にしたと言われるマイナンバーですが、エストニアでは「最強のアイデンティティ(同一性)」として活用されています。

・全てのエストニア人は電子IDを持つ
・EUのeIDAS規則の保証レベルが「高い」
・mobile-ID が16%
・smart-ID が34%
・eレジデンシー

実際のカードを見ましたが、ナンバーはカードに表示され、ナンバーそのものを秘匿する考えがありません。認証などのしくみで番号がオープンであっても個人情報が洩れるなどの問題がないようにシステムを構築しています。後で解説する X-Load 他がそのしくみを支えています。
一方、日本のマイナンバーは番号秘匿が前提であるため、何を参考にこの制度を作ったのか、見られて困る番号を表記しては活用されないのは当然のように思えます。

エストニアはEU加盟国ですので、当然EUとの連携を意識しています。そのような背景から、エストニアの電子IDはEUのeIDAS規則(*3)の保証レベルも当然高くなっているようです。

*3 EUのeIDAS規則から見えてくる電子契約のあり方
https://jp.globalsign.com/blog/articles/eidas_190507.html

エストニアのバーチャルな電子国民制度である eレジデンシー(*4)も Smart-ID に対応(*5)しているようで、eレジデンシーの認可が下りた私もエストニアの Smart-ID を持つことになりそうです。日本のマイナンバーカードは今の方法を辞めて Smart-ID に切り替えるぐらいの展開を目指して欲しいものです。

*4 e-Rssidency
https://e-resident.gov.ee/
*5 Smart-IDがeレジデンシーに対応
http://www.jeeadis.jp/jeeadis-blog/smart-ide

さらに、エストニアの電子ID活用についても「エストニア共和国の高等教育の公式全国ガイド」(*2)で、以下のように細かく明確に記載されています。

エストニアIDカードは定期的に使用(Estonian ID Card is regularly used )
・EUおよびシェンゲン圏内旅行のための国民IDカード
・国民健康保険証
・銀行口座にログインする際の識別の証明
・顧客のロイヤルティカード
・デジタル署名
・電子投票
・自分の医療記録を確認し、税金を申告し、子供の成績を確認するための、政府データベースへのアクセス
・電子処方箋の受け取り

エストニアの電子国家の原則は明確で偽りのないこと

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エストニアの電子国家は、このスライドのタイトルである elaborated のように、ダイナミックでありながら明確で偽りのない原則で進めらているようです。

・1回だけ(重複しない)
・デフォルトはデジタル(IT活用ファースト)
・設計による信頼(オープンソースによる検証)
・インターネットでオープンに(可能な情報は全てオープンに)

カッコは私の超意訳ですが、主旨は外してないと思います。

エストニアの電子国家を支える技術(1) X-Road

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エストニアの電子国家の実現に欠かせなかった、インターネット上で安全かつセキュアにデータを交換技術として有名な X-Road(*6)は、2001年からスタートしたようです。X-Road などを活用してすでに以下の成果があったようです。

・年間に1047年人の工数を削減
・1000以上の機関と企業が参加
・150の公的機関が参加
・2735種類のサービス
・年間9億件以上のトランザクション(一連のデータ)処理
・フィンランド、アイスランド、フェロー諸島、ウクライナおよびその他の国に技術を輸出

X-Road は GitHub(*7)で公開されています。以下を参照すると Amazon AWS などのクラウドでも構築できそうですので、後日試験した結果をレポートしてみるつもりです。

*6 インターオペラビリティサービス X-Road( interoperability services x-road)
https://e-estonia.com/solutions/interoperability-services/x-road/

*7 GitHub X-Road
https://github.com/nordic-institute/X-Road
https://github.com/nordic-institute/X-Road/blob/develop/src/BUILD.md

エストニアの X-Road のクエリ(問い合わせ)リクエスト数は、Requests this month(*8)で公開されています。こういう数を世界に公開するなんて、やる事が徹底しています!

*8 Requests this month
https://x-tee.ee/
https://x-tee.ee/factsheets/EE/#eng

エストニアの電子国家を支える技術(2) blockchain

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エストニアは、2012年に情報システムにブロックチェーン技術を最初に導入した国家です。
エストニアは、政府の登記とデータの整合性検証にブロックチェーン技術を使用しています。ゆえに、データそのものはブロックチェーンに保存されません。

スライド中の KSI blockchain(*9)とは、エストニアで設計されたブロックチェーンテクノロジーを指すようです。ネットワーク、システム、データが完全に侵害されることなく、100%のデータプライバシーを確​​保するために世界中で使用されています。

*9 ksi blockchain
https://e-estonia.com/solutions/security-and-safety/ksi-blockchain/

詳しくは「エストニア国家とペアを組むIT起業の視点」で後述しますが、X-Road や blockchain などの電子国家を支えるコア技術であっても、国家と企業がタッグで取り組み、少ない投資で効率的に成果を挙げて、さらに海外に展開しているようです。

エストニアは公務員と企業間を転職で行き来することも多く、逆に X-Road や blockchain などの成果で公務員のデータ閲覧などを国民が監視できる体制もあり、ほぼ企業に対する癒着など起こりにくい仕組みになっているようです。日本のように公務員が固定化され、データの閲覧などの記録が国民から隔離されたシステムでは、癒着を警戒してこのような関係性の構築と効率化の実現は厳しいでしょう。
日本の「公務員のぞき見天国」、エストニアの「公務員のぞき見地獄」(*10)という表現は、両国の公務員制度を比較するうえで(少し過激ですが)わかりやすいでしょう。

*10 日本の「公務員のぞき見天国」、エストニアの「公務員のぞき見地獄」
https://www.manaboo.com/wordpress/?p=1988

その他、以下の情報も参考になります。

エストニアは国をハイテク企業のように運営しています
https://finance.yahoo.com/news/estonia-running-country-tech-company-133035493.html
「政府サービスの大部分は24時間365日オンラインで提供されており、データの整合性はブロックチェーンテクノロジーによって保証されています。」

週刊プレスレビュー | 人工知能、e-ヘルスケアソリューション、ブロックチェーンの協力
https://e-estonia.com/weekly-press-review-artificial-intelligence-e-healthcare-solutions-and-blockchain-cooperation/
「インドの医療部門がエストニアのブロックチェーン技術を採用」
「TaaviRõivas(元エストニア首相)がブロックチェーンセンタービリニュスの理事会に参加」

電子国家エストニアを支える主要テクノロジー企業 X-Road/ブロックチェーン編
https://weekly.ascii.jp/elem/000/000/405/405594/

エストニアの電子国家が目指す未来

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エストニアが未来に目指す方向は、シンプルで明確です。

・ゼロ官僚制
・表に出ないサービス
・国境を越えたデジタル統治
・リアルタイム経済

なかでも特徴的なのは「国境を越えたデジタル統治」で、隣国の強大な軍事力を有するロシアを意識しているのは間違いなさそうです。逆に、この危機感無しでは今のエストニアの電子国家を実現することはできなかったのかもしれません。
海に囲まれ外からの脅威は直接感じにくいが、人口減少と極端な高齢化を迎える日本国と、さらにその最先端を行く高知県。電子国家(県)のような ICT活用は、今後、このような危機感の度合いによって進捗が変わってくるのかもしれません。

エストニア国家とペアを組むIT企業の視点

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つづいて、エストニアの電子国家を政府と共に支える企業、YBERNETICA 社(*10)の取り組みについて説明いただきました

*10 CYBERNETICA 社
https://cyber.ee/

CYBERNETICA 社は日本の企業で、企業のデジタルリスクを予兆・検知・解決するソリューションを手掛ける 株式会社エルテス とも提携(*11)しています。

*11 エストニアCYBERNETICA社と提携​
https://eltes.co.jp/whatsnew/20170315.html

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CYBERNETICA社のビジネスの主要マーケットは以下です。

・SEA(Southeast Asia 東南アジア)
・UK(イギリス)
・USA
・EU
・Japan

日本も挙がっていますが、リップサービス?でないと良いのですが。

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CYBERNETICA社は、自社のソフトウェア製品として以下を挙げていました。

・Sharemind Platform
・SplitKey Mobile
・UXP Unified eXchange Platform

この3つについて、スライドだけでは情報が少なかったので、Web検索にヒットした情報を付加して簡単にご説明します。

・Sharemind Platform
https://sharemind.cyber.ee/
「エンドツーエンドのデータ保護と説明責任を備えた次世代のデータ駆動型サービス。」
https://sharemind.cyber.ee/privacy-engineering-platform-within-the-gdpr-framework/
「さまざまなプライバシー強化テクノロジー(PET)の主要な機能を組み合わせた、プライバシーを保持するデータ分析ソリューション。」

・SplitKey Mobile

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https://cyber.ee/products/digital-identity/
https://e-estoniax.com/solution/splitkey/
「エンドユーザーのモバイルデバイスを安全な認証デバイスに変え、オンラインサービスプロバイダーに信頼性の高い安全なエンドユーザーアクセス管理ツールを提供するプラットフォーム。エンドユーザーは欧州連合の規制(eIDAS指令)に従ってドキュメントにデジタル署名することもできる。」

・UXP Unified eXchange Platform

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https://cyber.ee/products/secure-data-exchange/
「暗号化および相互認証されたチャネルを介したピアツーピアデータ交換を可能にする技術。電子政府システムである X-Road の作成者によって作成。UXPは、あらゆる量のデータベースを効率的かつ安全な方法で接続し、エコシステム内のメンバー間で管理された情報交換を可能にするネットワークの構築を支援。」

以上の3つを簡単にご説明しましたが、特に X-Road をエストニア以外の政府や組織へ提供するために開発した UXP については、日本でもこの技術を活用した以下のプラットホーム構築が検討されています。

三井住友信託銀行・NECなど、情報共有技術「UXP」を活用した信託プラットフォーム構築共同検討を開始
https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP510343_T20C19A5000000/

UXP のアーキテクチャーに興味がある方は以下を参照すると良いでしょう。

UXP 分散アーキテクチャ
https://cyber.ee/products/secure-data-exchange/materials/uxp-xroad-comparison.pdf

その他、CYBERNETICA社の詳しい情報は以下を参照すると良いでしょう。

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エストニア訪問記(1)「エストニアについて」
エストニア訪問記(2)「e-Estonia Showroom ITに対する取り組み」
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エストニア訪問記(4)「エストニアのIT企業について」
エストニア訪問記(5)「エストニアのスタートアップ」

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