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エストニア訪問記(3)「RIK エストニア政府の行政システム」

エストニアの3日目に RIK(*1)に訪問して、電子国家エストニアのサービスを支える企業の取り組みと、政府の行政システムについて聞いた内容をまとめてみました。
前回の「エストニア訪問記(2)」でも述べたのですが、エストニア政府はエストニアの企業である RIK とも密な関係性を保ちながら、各サービスの利便性、拡張性を担保している姿が見えてきました。

RIK の英語名が Centre of Registers and Infomation System(登録センターと情報システム)で省略表記と異なりますが、これは RIK がエストニア語の省略表記のためです。

*1 RIK
https://www.rik.ee/en

ここでの説明に関連するスライドが以下に公開されていますので、併せて参照ください。

e-Business register
http://ec.europa.eu/DocsRoom/documents/4679/attachments/1/translations/en/renditions/native

エストニアの電子政府の中核

RIK はエストニアの電子政府の中核は以下と考えているようです。

• X-Road は安全で分散型のデータ交換
• IDカード / モバイルID /スマートID —認証と電子署名
• データの請求は1回の請求で必要なデータに到達
• データの所有者は市民
• 3つのレベルのITベースラインセキュリティシステム ISKE(*2)
• 国の情報システムのための案内所 RIHA(*3)
• 政府機関間のフリーデータ交換
• 透明性

*2 3レベルのITベースラインセキュリティシステムISKE
https://www.ria.ee/en/cyber-security/it-baseline-security-system-iske.html
3つのレベルとは、標準的な組織の実装、インフラ/物理的セキュリティ対策、技術的セキュリティ対策 を指すようです。

*3 国の情報システムのための管理システム RIHA
https://www.ria.ee/en/state-information-system/administration-system-riha.html
RIHA は、国の情報システムのカタログとして機能します。同時に、国の情報システムを包括的かつバランスのとれた手続きおよび管理環境で開発を行うことができます。(意訳)

分散型のデータ交換を実現する X-Road

X-Road は RIK の説明でも、前日訪問した e-Estonia Showroom の説明と同じく、エストニアの電子国家を支えるコア技術であると強調されていました。X-Road について RIX の担当者は以下のように説明しています。

• 472 の機関と企業が接続
• 150 の公的機関が接続
• X-Road サービスの間接ユーザーが 約 52,000 組織
• 1232 のインターフェイスを持つ情報システム
• 258台のセキュリティサーバーを準備
• 2018年に約9.86億件の問い合わせを処理
• 2018年に1407人年の作業工数節約

X-Road が削減したとする工数を人口比で日本に換算すると12万人相当になり、日本の国家公務員64万人の約20%近くの作業工数が節約された事になります。スケールも違うのでこのような計算値で単純比較はできませんが、この工数削減は驚異的な数字であることは認識できたのではないでしょうか。

エストニア情報社会戦略2020

エストニアは2013年に「エストニア情報社会戦略 2020」を掲げて、毎年アップデートしています。エストニア情報社会戦略では、以下の説明がありましたが、国内だけでなく近隣諸国との連携も視野にあることがわかります。

• ゼロ官僚主義
レガシーシステムの排除(最大13年)
相互運用性を図る目的で、2017年3月にフィンランドと契約締結、ソリューションの提供は2018年2月に準備完了
データ大使館(*4)とクラウドバックアップ研究プロジェクトで、ルクセンブルクに最初のデジタル大使館(データセンター)を設立し、 RIK がインフラストラクチャを担当
• 2014年12月から始まったEレジデンシーは今までの取り組みからオンラインで会社を設立できるように、RIK が開発および管理

さらに、RIK は「エストニア情報社会戦略 2020」を担うコアな企業の1つであることが分かります。
前回の「エストニア訪問記(2)」でも述べましたが、ルクセンブルクのデータセンターのインフラ管理から、Eレジデンシーの開発・管理まで1企業に任せることができることが、X-Road で述べた工数削減を実現できる大きな要因でしょう。

*4 Data Embassy(データ大使館)
https://e-estonia.com/solutions/e-governance/data-embassy/
Data Embassy は、エストニア政府のクラウドの拡張機能です。Data Embassy で、エストニアの領土外(ルクセンブルク)に管理下のサーバーを所有し、サーバは KSI ブロックチェーン技術でサイバー攻撃などの危険から守られ、データのバックアップを提供するだけでなく、最も重要なサービスを運用しています。

登録センターと情報システム(RIK)の目指す姿

RIK が目指す姿として、以下の項目を挙げていました。

• 法務省管轄下で ICT に焦点を当てた国の仲介機関
RlK が司法分野全体の ICT を集中化
 国の省庁やその他の法的機関は人員を持たず、すべてを RIK に外注
• 250人以上の専門家を配置
• 効率的な電子政府
 200を超えるさまざまなサービス
• 国際協力

司法分野全体の ICT を集中化を1企業の RIK が担うのは驚異的です。いくら国と企業、国民が相互でデータ監視ができるとはいえ、これを実現できる国家は少ないでしょう。

さらに、RIK は ITサービスを以下に提供しています。

・法務省
・国のすべての法律および行政機関、検察庁、裁判所、刑務所
・その他国家機関、2017年以降の省庁ワークデスクサービス、首相府
・EU理事会(2017年7月から12月)

具体的に、RIK が管理する情報システムは以下のようです。まさに電子政府のコアを握っていると言っても良いでしょう。

電子司法
 電子ファイルのケース管理
 市民と弁護士のための電子司法ポータル
 電子公式ジャーナル
 電子犯罪記録データベース
 公告ポータル
 法的援助
 電子裁判所
 デジタルコートファイル
 電子検察官
 電子刑務所

電子ビジネス

 電子ビジネス登録
 会社登録ポータル
 電子年次報告
 視覚化されたビジネスレジスタ
 登記簿管理システム
 電子金融
 欧州ビジネス登録

電子土地

 電子土地登録
 電子不動産ポータル
 土地登記管理システム

その他
 電子公証人
 電子土地管理人
 電子相続レジスタ
 法廷審理
 自動指紋識別システム

RIK の国際協力

RIK は以下の国際プロジェクトにも協力しているようです。これは言い換えれば、国際協力を足掛かりとして、世界にサービス提供先拡大を目指した国際企業を目指しているとも言えるでしょう。

• ドバイ土地登記
• オマーンeビジネスレジスタ
• クルディスタン裁判所の情報システム
• コソボの判決の公表
• コソボの刑罰の登録
• ブルガリアの電子ファイル
• ウクライナの電子司法
• フェロー諸島ビジネスレジスタ

ビジネスの登録データを他のシステムと交換

RIK はビジネスの商業データを政府機関などの他のシステムとデータ交換するための「中央商業登録」システムを管理・運営しています。

〇 「中央商業登録」との連携先
-> 経済活動の登録
-> 電子公証人
-> 会社登録ポータル
-> 他の国の機関
-> 土地登記
-> 人口登録
-> エストニアの統計
-> エストニア中央証券登記簿
-> 健康保険
-> 税と税関委員会

このように民間商業情報と政府の情報をシームレスにつなぐことで、エストニア国民の利便性は日本に比べ各段に向上していると推察されます。その様子は以下のサイトで確認することができます。

e-Land Register(土地登記)
https://uuskinnistusraamat.rik.ee/detailparing/Avaleht.aspx?lang=Eng

e-Land Register Portal(土地登記ポータル)
https://kinnistuportaal.rik.ee/Login.aspx

e-Business Register(ビジネス登録)
https://ariregister.rik.ee/index?lang=eng

e-Business Register Portal(ビジネス登録ポータル)
https://ettevotjaportaal.rik.ee/index.py?chlang=eng

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e-Business Register(ビジネス登録) は、エストニア国民以外でも検索などは利用できますので、例えば ”SKYPE” のようなエストニアの企業名に使われそうなキーワードで検索してみると良いでしょう。検索結果では、会社の税金の債務情報などは参照できますし、さらに有償で年間報告や、定款などが参照できます。
エストニア国民などがログインした場合は、例えばログインユーザの職務権限などに応じた範囲で閲覧できるように表示が変わるようです。

ビジネス登録の歴史と現在

最後に、エストニアのビジネス登録に関する歴史についての話がありましたが、ビジネスでのIT活用は 1995年の商法施行からスタートし、12年後の2007年には会社登録ポータルのサービスを開始したことがわかります。

1995 商法が施行され、ITシステムの活用開始
1998 最初のオンライン検索Web
2002 電子登録取得
2005 市民および起業家による電子申請提出
2007 会社登録ポータル
2008 国境を越えたeIDと電子署名
2010 年次報告書電子ファイリング(XBRL)
2011 視覚化されたビジネス登録
2012 バックオフィスプロセス管理システムを更新
2014 中小企業向け会計システム e-Financials
2014 e レジデンス
2015 ビジネス登録のアーカイブをスキャン

現在の電子ビジネスの登録は、会社登記を例に挙げると、5日から2時間に短縮されたようです。

最後に

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RIK の話を聞いていると、RIK は企業でなく政府機関のように何度も錯覚していました。日本から一緒に参加した他皆さんも同じだったようで、企業と政府がここまで密接にタッグを組める理由について質問が挙がっていました。
政府機関と企業、そしてそこで勤務する方のいずれも(守秘義務や非公開の個人情報以外の)全ての情報が公開されています。政府機関、企業とも、この情報公開で常に不正をしてないか国民から監視されている状況にあるため、結果このようなタッグが問題なく実現しているそうです。そもそも、エストニアでは公務員と企業の転職は頻繁に行われ、次の企業への転職のためのキャリアアップの1つとも考えられているなど、日本とは全く異なる感じでした。

日本は単にIT活用だけでなく「ゼロ官僚」に向かうなどの制度改革についても、エストニアに学ぶべきできですね。無駄な事務手続きをなくして、優秀な官僚の皆さんが政府機関だけでなく、企業や、NPO等で活躍できれば、人口減の日本をこの先も維持できるのではないかと、RIK へ訪問して感じた次第です。

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