宇治の恋華 第十章「姫宮のご降嫁」解説
みなさん、こんにちは。
次回、『令和源氏物語 宇治の恋華 第百八十一話 翳ろふ(一)』は明日6月29日(土)に掲載させていただきます。
本日は第十章「姫宮のご降嫁」の章について解説させていただきます。
この章では、単に姫宮のご降嫁の様子を描くだけではなく、そのことによって周りがどのように変化したか、感慨などが表された章でした。
そして華やかな行事が満載の章でもありました。
匂宮の若君誕生での「産養い(うぶやしない)」の祝い。
薫と姫宮の婚姻による「お披露目」の儀。
姫宮旅立ちの「藤の宴」など。
匂宮の若君誕生
月満ちて、とうとう中君が若宮を生みました。
このことで中君の地位というものがしっかりと確立しました。
そして「産養い」が盛大に描かれて、じつに雅やかな場面が続きます。
平安の貴族は子供が誕生すると三夜、五夜、七夜、九夜とお祝いをしました。
平安時代は現代とは違い医術が発達しておりませんでしたので、お産が命がけであるならば生まれた子が無事に育つ可能性というのも極端に低いのでした。
産養い(うぶやしない)というこの習慣は産まれた子が恙なく育つようにという願いも込めて行われたものです。
親族たちから食べ物や衣服が贈られ盛大に宴が開かれるわけですが、三、五、七、九と奇数日に行われたのは奇数が陽数と言われ陽は万物を生成させることから縁起を担いで定められました。
現在のお七夜はこの名残りになります。
三夜は匂宮主催の内祝い。
五夜は中君の後見である薫が主催。
七夜は匂宮の母君である明石の中宮主催。
九夜は匂宮を婿とする夕霧の左大臣主催。
その後は「五十日(いか)」「百日(ももか)」とまたお祝いを重ねてゆくのです。
女二の宮
女二の宮の裳着の翌日は薫と姫宮の結婚の宵となりました。
原典では女二の宮の為人などは詳しく描かれておりません。
しかしながら薫の正式な北の方ですし、ずっと添うていく御方なので、私なりに考え、人格を与えました。
「鷹揚で知的好奇心旺盛でチャーミングな女性」
これが私の女二の宮を創作する上でのポイントです。
そして大切なのは薫が居心地がいい、と安心するような姫君です。
薫の恋は大君という手ごわい女性から始まり、親友である匂宮の妻となった中君を慕い、といういささか複雑なものばかりでした。
そこで空気のように馴染める相手が姫宮であったならば、と創作部分も多く差しこんだわけです。
これは最後に新しく書き加えた第55帖への伏線となります。
それは私がこんな女性と幸せになってほしい、と創作した部分なので、これより先は女二の宮とのエピソードも加えてゆきます。
藤の宴
この章でしめくくりの大きな宴といえば女二の宮が起居する藤壺での「藤の宴」でしょう。これは天下に薫が正式に帝の婿となったことを示すお披露目の宴でもあります。
名のある楽器をそれぞれの名人が奏で、まつわる楽の音はこの世のものとは思われぬ美しさであったでしょう。
そして、みっしりと下がる藤の花房に夜気にとける甘い香りはまさに藤原の一門である薫には相応しいのです。
そのことを知るのは当の薫と夕霧のみでしたが、夕霧は立派になった薫に柏木の姿を重ねながら感慨深く思うのです。
源氏物語の魅力とは、単に惚れたはれた、事件が起きた、という所だけではないところです。四季を感じ、数多くの歌が場面にそぐって詠まれ、宮中行事などがまるで絵巻物を見ているように生き生きと描かれているところが惹きつけられずにはいられませんね。
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