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昔 あけぼの シンデレラ 令和落窪物語 最終話 第十一章(4)

 あらすじ
平安の時代に書かれた『落窪物語』は、我が国色のシンデレラ。
令和を生きる方々に、わかりやすく解説を加えながら、創作部分もふんだんにリライトしました。
貴族の姫として生まれながら、意地の悪い継母に虐げられる日々を送っていたおちくぼ姫はとうとう愛する夫に救い出され、新しい生活が始まりました。
なんと夫は最後の仕返しを企てていたのでした。
ずっと父君に会いたがっていた姫君と家族たちを引き合わせ、夫の中納言はこれまでの経緯と姫が不遇であった身の上を明らかにします。
すべてを知り、和解した家族たちはみなで手を取り合って助けってゆくのです。

 露見(ところあらわし)(4)

翌日、源中納言と息子の越前守、大夫が三条邸へ向かいました。
その道行はまるで刑場に引きだされる罪人のような気分です。
あの藤中納言に弾劾されるのだと考えると足取りも重くなるでしょう。
三条邸は美しく磨き上げられ、すべての格子が上げられて、さわやかな風が吹きわたっています。
藤中納言は正装してかしこまり、三人を迎えました。
その美しい神妙な面持ちは予想外のもので、三人はおや、と思いました。
「いろいろとお話ししたいことがございます。まずは中へ」
導かれるようにして、源中納言は上座に落ち着きました。
「この度のこと、今までのこと、ご不快に思われたでしょう。もうお気づきかと思いますが、おちくぼ姫と呼ばれていた人こそ、私の妻なのです」
藤中納言は静かに語り始めました。
「娘はさぞかし私を恨んでいるでしょうな。長く消息不明だったのも、私の子として名乗りをあげるのも恥ずかしく思われていたからでしょうか」
そう源中納言は嘆きました。
「それは違います。妻は父君に無事を知らせたいと申しましたが、虐待していた継母と娘を顧みない父に知らせたところで喜ばれないであろうと私が止めました。もっと妻の身分が立派になってから知らせるべきだと思ったのです。それは父上の所業を私が許せないでおりましたもので・・・。姫を納屋に閉じ込めて典薬助に与えようとしたことは、今をもっても私には理解できないものでしたから」
藤中納言によって北の方が姫と典薬助を結婚させようとしたことを知った源中納言は顔を真っ赤にして反論しました。
「そのような結婚は許した覚えはありませんぞ」
源中納言は今になって北の方の本性のあさましいこと、悪だくみなどのすべて知り、恥ずかしさのあまり消え入りたいように思いました。
そんな老人をこれ以上責めることはできませんでしょう。
藤中納言は穏やかに言いました。
「もう今日で私はすべてを忘れようと思います。妻はとても父君にお会いしたいと願っておりますので、それを叶えてあげたいのです。お父上もどうか私のしたことを水に流してはくださいませんでしょうか」
「水に流すも何も、まずは娘に詫びなければ」
肩を落とす源中納言を見て藤中納言は妻に呼びかけました。
「こちらにおいでなさい」
そうして几帳の陰からおちくぼ姫が恥ずかしそうに姿を現しました。
その姿は清らかで美しく、自分が美しいと思っていたどの娘たちよりも優れておりました。
横に従う衛門の腕には玉のような愛らしい赤子が抱かれております。
「お久しぶりです、お父さま。お会いしとうございました」
「おお、元気でいてくれたのだね。こんな立派な婿君に恵まれて幸せになったのだね」
「はい。お父さまの孫ですのよ」
孫を抱かせてもらった源中納言はうれしくて涙をこぼしながらこれまでのことを詫び、父娘はお互いの手を固く握りあいました。
姫が傍らに目を転じると大夫の君がじっと控えておりました。
「三郎ちゃまなの?」
「はい、お姉さま」
「まぁ、立派になられて」
「お姉さま、私は子供であったとはいえ母を諌めることもできずにお姉さまを辛い目に遭わせてしまいました」
「何を言うの。一生懸命助けてくれたじゃない。あの時のことはけして忘れないわ」
こうして慕い合った姉弟も再会を果たしたのです。
「さぁさぁ、めでたい日ですよ。みなで酒でも酌み交わしましょう」
藤中納言が合図をすると、少納言の君や弁の君が豪華な料理を盛り付けた膳を次々と運んできました。
お露も綺麗な装束を纏って春の陽中の蝶のように軽やかにお酒をついでまわります。
空は晴れ、うららかに霞たなびく春の日に、おちくぼ姫は心からの曇りのない笑顔で夫と笑い合いました。


その後、三条邸は改めて地券(土地の権利証)とともに源中納言に贈られ、三の君、四の君にはおちくぼ姫から優しい手紙と素晴らしい贈り物がたくさん届けられて、二人の心も慰められたようです。
北の方は意地っ張りなので、なかなか謝るということができない人ですが、心優しい姫は謝罪など求めません。
誠意をこめてこれからは孝行を尽くしたいという手紙を送ったので、北の方の心も解けて、四季の便りなどやりとりをするようになりました。
おちくぼ姫の夫・藤中納言はどんどん出世し、後には大臣にまで上りつめます。
そしておちくぼ姫はそんな夫に生涯ただ一人の妻として愛されて幸せに暮らしたということです。
                             <完> 


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