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翻訳者のつぶやき なんで私が『臓器収奪ー消える人々』を...

実に物騒な書籍の翻訳者になってしまいました。その経緯と本書の内容に関わる逸話や情報をお伝えできればと、ブログを始めることにしました。

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(1) 出逢い

【ロンドンで】

ことの始まりはロンドンだった。2015年の9月初め、ロンドンで開催された小さな絵画展の内覧会に、一人の人物が立ち寄った。

友人が小声で「彼、臓器収奪の証言者だよ」と囁いてくれた。

ええっ? スコットランド議会で証言していたあのウイグル人の元外科医? ラジオ報道の録音を聞いた時、「何?これ?」と背筋が凍ったことを思い出した。

この絵画展の内覧会では、中国での迫害体験者をスピーカーとして招いていた。中国共産党による悲惨な現実を知ってもらうことが絵画展の趣旨だったので、急遽、この元外科医さんにもスピーチしてもらうことになった。

全くの想定外で、加害者と被害者が隣同士に立って体験を語った。椅子もなく、皆がスピーカーを囲むような形だった。聞き手は20人くらいだっただろうか? 怨念も憎しみもなく、穏やかな空気に包まれ、崇高さが漂っていた。加害者と被害者の大きなバリアが薄れていくようだった。

【日本で】

なんと、この元外科医さん、日本の大ファン。ウイグル人は日本人から多く学べると力説してくれた。同年11月に、中国による核実験(ウイグルで1964年から1996年にかけて46回行われた)について講演するために訪日されるということで、私の一時帰国とも重なり、日本で講演を聴きに行った。

東京での放送大学主催の『ウイグル文学と文化を語る国際シンポジウム』では、彼の講演を聴きに長崎から飛行機でやって来た医師の方がお隣だった。広島での『世界核被害者フォーラム』では、帰り際に広島のジャーナリスト団体の方が「頑張ってください」とこの元外科医さんに名刺を押し付けていた。

ほお…知る人ぞ知る、静かな著名人なんだ。

来日中の元外科医さんに日本の日常生活のご案内もすることとなり、お昼などを一緒に食べながら、臓器収奪の体験を話しに来日してもらえないかと切り出してみた。英語圏に比べて、中国での臓器濫用の認識が日本ではぽっかり抜けていると感じたからだ。

すると「いつでも来ますよ」とのお返事。「最近(2015年)リリースされた『知られざる事実』に私が大きく取り上げられているから、日本で上映するならイーサン・ガットマンと一緒に来れますよ」と。

イーサン・ガットマンとは、『消える人々』の原著The Slaughter(2014年出版)の著者。ガットマンの調査発表の場でこの元外科医さんが自身の臓器収奪を初めて告白した経緯がある。ガットマンが案内役を務めるドキュメンタリー『知られざる事実』にはこの告白に関しても収録されている。日本にとって願ったり叶ったりのありがたいご提案。

でも、待てよ。日本にガットマンを招聘するのなら、まず、このドキュメンタリーに字幕をつけて、The Slaughterを翻訳しなければ…。

この時点から臓器収奪に絞った私の翻訳人生が始まる。パソコンの文字入力の学習機能のおかげで、「3号館」と打とうとしても「3強姦」になってしまい、「1週間」が「1収監」となる。トホホ…。何という世界。(続く…)

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これから、本書に関わる逸話や映像などを、少しずつご紹介していく予定です。FBやツイッターからの皆様からのコメント歓迎です。

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