見出し画像

誰にも止められはしない

 若い頃を思い出す、なんて書いてしまうと本当に年だけ食ってしまったような気分になるが、あんまり実年齢と精神性が乖離するのも問題だろうからこのまま続ける。
 若い頃――具体的には十代の後半、高校生活も半分を切ったあたりだろうか。その時の自分は、ある程度のことは何でもできると思っていた。苦手教科を克服して成績も上がり、なんだ案外やれるじゃん、なんて自信がついちゃったのだ。今になって考えればなんとも些細でちっぽけな、せいぜい学校の中くらいでしか通用しなさそうなまやかしの全能感。けれどもその時は、そんな事実を把握できるだけの経験は足りていなかった。

 高卒で社会人として生産工場で働くことしばらく、最初から何もかもが上手くいったわけではないものの、何一つできなかった、身につかなかったというわけでは決してない。毎日それなりにがんばって働いて、それなりのサラリーを得ていた。ただ。
 ときには満足に寝るのもままならない不規則な就業時間にとらわれて毎日を送りながら、ユメがすっかり遠くなっていることに気づいたのはいつだったろう。理想と現実とのギャップ、なんて言葉にすると月並みでも、実際にその状況に立っている時には漫然と日々をやり過ごす以上の気力はなかった。

 一年、ほとんど何もしないで過ごした時期がある。その最中だ。あの時抱いた全能感など虚構にすぎないと知ったのは。それから先は色々だ。漠然としていたユメを確固たるものにするまで、ずいぶん時間をかけてしまったけれど。
 回り道を経て私はいま、あの頃と似た、それでいてより強い思いをもう一度抱いて、ここに立っている。

 人間、やろうと思えたことはなんだってできるもんさ。

読んでいただきありがとうございました。よろしければサポートお願いいたします。よりよい作品づくりと情報発信にむけてがんばります。